颯 爽 と 健さん 登 壇 !
 各界で活躍しているOBの体験に根ざし た話を聴き、大学で学ぶ意味を考え、世界 を相手に挑戦する気持ちを養ってもらおう と企画された総合科目「社会と学問」。5月 8日(火)は東映の高岩淡社長とともに、俳 優の高倉健さんが登壇しました。
 この日の講師、高岩淡(たかいわ たん)東映 株式会社社長は昭和二十九年経済学部卒で、 演題は「映画『ホタル』の製作を終えて」。六 本松キャンパスの講義室で、まず映画『ホタル』 が上映された後、 岩社長が映画作りの苦労 や面白さを話すとともに、「福岡は田舎だが、 どこの誰にも負けない熱い心がある。それを 大事にしてがんばれ。」と後輩たちにエールを 送りました。
 その 岩社長の「応援」にと、講演の途中 で、映画『ホタル』の降旗康男(ふるはた や すお)監督とともに主演の高倉健さん、共演 の小林稔侍さんが突然姿を見せると、約三百 名の学生などで満員の教室はどよめきと拍 手に包まれました。「二十歳の自分が今やって おくべきことは何でしょうか。」「別れるのが 辛いと思える人にいっぱい出会ってください。」 質問に答える高倉さんの一言一言に、学生たち からは、まるで映画を見終わったような拍手 が起こっていました。


お人柄が魅力だった高岩先輩
高岩淡東映社長のお話  自分は落ちこぼれの九大卒で、当時は小さな会 社だった東映に入ったのもダメ学生だったから。以 来四十数年の活動屋人生を送っている。当時の映 画界は封建的で厳しく、多くの同期入社の者が撮 影所を離れて行った。自分が辞めずにやってこれ たのは、九大生時代、アルバイト委員長などで苦労 した経験があったからかもしれない。
 映画作りには、一人一人の情熱が集まると、予想 の二倍も三倍も素晴らしいものができる面白さが ある。皆で一生懸命頑張っていいものができるのが 映画。厳しく、なかなか金にならない仕事だが、自 分が感動して皆と何かを作ることに、生きていく 幸せを感じる。
 福岡は確かに田舎だが、どこの誰にも負けない熱 い心がある。それを大事にしてがんばれ。人生はど こでどうなるか分からないものだ。自分が今「心に 訴える共同作業」に携わることができているのも、 勉強ばかりの学生ではなかったおかげかもしれな い(笑い)。今皆さんから「ホタルはよかった」という 感想を聞いてうれしい。母校に来た甲斐があった。

「別れるのが辛いと思える人に、 いっぱい出会ってください。」

高倉健さん、降旗監督と学生との対話
高倉さん…緊張しています。皆さんはすばらしい 先輩をお持ちでうらやましい。『ホタル』について は、この映画に参加できてよかったと思っています。 降旗監督…映画は生き物です。それが大きく育 つかどうかは見てくださる方次第で、御覧になって 愛情を感じたら、大きく育つのに手を貸していた だきたい。
学生…東筑高校の後輩です。あこがれの高倉さん にお会いできて感激しています。どうしたら高倉 さんのような人になれるのでしょうか。
高倉さん…分かりません(笑い)。ただ大事なのは、 一生懸命生きていく中で、いい人に出会うことでは ないでしょうか。勉強することはもちろん大事で すが、あなたの人生に大切と思われる、別れるの が辛いと思える人に出会えたら、それだけでいいじ ゃないか。そんな人に出会えるように、しっかり目 を開いて生きていくこと。それがとても大事だと 思います。
学生…私は、主人公夫婦が鶴の真似をする場面 に、面白さと感動を覚えました。
高倉さん…うれしいね。コーヒーをごちそうする よ(笑い)。
学生…あの映画で、伝えたかったことは何でしょう か。また、僕たちが今やっておくべきことは何でしょ うか。
高倉さん…日本に生まれてよかったなと思ってほ しい。今やっておくべきこと?さっき申し上げたよ うに、別れるのが辛いと思える人に、女性だけでは ないよ、一生懸命、いっぱい出会ってください。
学生…観客として『ホタル』を御覧になっていかが でしたか。
高倉さん…最終版はまだ見ていないのです。ただ 『ホタル』は、ああいう人たちがいて今の日本がある のだと、ああいう人たちが大勢いたんだと、堅苦し くなく感じていただければいいと思います。
降旗監督…映画は、見て、何か感じることができ ればいいんだろうと思います。モラルのようなもの を引き出すように見てはつまらないかもしれませ ん。きちんと整理しなくとも、中に含まれるもの が伝わればいい。それが芸術や芸能と呼ばれるも のの一番いいところではないでしょうか。活動屋とし て、そう見てもらえればうれしいと思います。
学生…俳優をやってこられてよかったことは何で すか。
高倉さん…昨日鹿児島での試写会の後、よかった なと思いました。その他は、役者をやっていてよかっ たと思うことは殆んどありません。たまに自分は 運がいいと思うことはありますが。俳優というの は、失うものも多い、辛い仕事です。言っていること 分かりますか?
列席の高校生…映画に出てくる特攻隊について は、どうお考えですか。
降旗監督…特攻で死んでいった人たちの気持ちを 伝えることがなおざりにされているのでは、という のがこの映画制作の発端です。本当はどんな気持 ちだったのかを伝えられれば、と。御覧になった皆 さんが、心を動かされたとおっしゃるのを聞いてう れしいです。
杉岡総長…今日は、九大で私の一年先輩である 高岩社長、東筑高校で一年先輩の高倉さん、そ して降旗監督にもおいでいただき、ありがとう ございました。高倉さんのおっしゃった「人に出 会う」ということは、インターネットなどでface to faceの関係が薄くなりがちな現在、とても 大切なことだと思います。人と出会い付き合う ことで、知性とともに人間に必要な感性が磨か れます。すばらしいお話をどうもありがとうご ざいました。

降旗監督は静かに話された。

会場には健さんの言葉だけが響く。


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