[施設紹介ー九大の多様な教育研究フィールドを御紹介します]

九州大学農学部附属演習林

演習林長・農学研究院 教授 今田 盛生

約90年の歴史を誇る壮大な教育研究フィールド

 九州大学演習林は、大正元年に樺太演習林及び南朝鮮演習林が創立されて以来、平成14年をもって創立90周年を迎えます。大正11年に農学部林学科が発足したのに伴い農学部附属演習林として改組され、今日に至っています。

 演習林は、森林科学のための大型野外実験施設で、この実験施設を用いた教育研究と、実験施設としての森林を最良の状態に保つための管理運営を行っています。現在、九州大学農学部附属演習林は、次の3演習林から構成されています。

都市近郊の森 福岡演習林:515ha(天然林146ha、人工林325ha)

 福岡演習林は、JR博多駅から西へ約10kmに位置する篠栗町と久山町にあります。標高30〜553mで、博多湾に注ぐ多々良川水系の新建川と金出川の源流部に当たります。気候は温暖で、年平均気温16℃、年降水量1,790mmです。

 自然植生は、カシ類、シイ類、タブ、ヤブニッケイ、カゴノキ、ヤブツバキなどの常緑広葉樹林(照葉樹林)が主で、尾根部などにはイヌシデ、コナラ、クリなどの落葉広葉樹林が分布します。人工林はスギ林、ヒノキ林が主です。

奥地山岳の森 宮崎演習林:2,917ha(天然林2,342ha 、人工林533ha )

 宮崎演習林は、九州脊梁山地中央に位置する椎葉村にあります。標高は、650〜1,600mで、日向灘に注ぐ一ツ瀬川源流部にあります。地形は急峻で、降水量が多く、気温較差が大きいことが特徴で、年平均気温13℃、年降水量3,473mmです。

 自然植生は、ブナ、ミズナラ、ミズメ、カエデ類、シデ類、ヒメシャラ、ホオノキなどの落葉広葉樹と、モミ、ツガなどの常緑針葉樹が混生しており、スズタケが密に林床を覆う林分が多くみられます。人工林はスギ林、ヒノキ林が主です。

北方丘陵の森 北海道演習林:3,715ha(天然林2,284ha 、人工林1,258ha)

 北海道演習林は、道東内陸の足寄町にあります。標高200〜430mの丘陵性台地で、利別川に注ぐ塩幌川、平保内川などが緩やかに流下しています。気候は大陸的で、夏は高温、冬は低温で、降水量が少ない(年平均780mm)のが特徴です。

 自然植生は、ミズナラ、カシワ、ヤチダモ、ハルニレ、イタヤカエデ、シナノキ、ハリギリなどで構成される落葉広葉樹で、他はカラマツを主とする人工林です。演習林全域が鳥獣保護区で、様々な動物、鳥類、昆虫類が生息しています。

森林をキーワードとした多様な教育研究活動

 演習林は、教官14名、技官12名、事務官等22名の総員48名の陣容で多様な教育研究活動を行っています。

 演習林は、大学院では農学研究院・森林資源科学部門・森林生態圏管理学講座に属し、次の2分野からなっています。

演習林本館(福岡演習林)
第1回九州大学総合研究博物館公開展示
(2000年福岡市博物館)
有用植物を中心に、植物遺伝子の収集と保存
を目的とした資源植物園(福岡演習林)。
成長したミズナラ二次林での、学生実習による毎木調査

流域環境制御学分野:物質循環、森林水文、森林気象など流域環境の制御を行うために必要な基礎的な教育研究(森林環境学)、緑地保全、緑地形成、緑地利用などの応用的な教育研究(緑地環境学)を行っています。

森林生産制御学分野:森林の生態構造、樹木の成長など森林生産の制御を行う上で必要な基礎的な教育研究(森林動態制御学)、木材の品質制御、キノコなど林産物、共同体森林管理、森林被害など森林資源や森林機能を適切に利用するための教育研究(森林資源管理学)を行っています。

 大学院重点化に伴い、演習林でも大学院教育が重要な位置を占めています。平成13年現在、大学院博士課程9名、修士課程5名が在籍しています。そのうち、社会人は3名,留学生は3名で、他大学の卒業生(筑波大、明治大、京都大、広島大、九州共立大、福岡教育大、宮崎大)は9名で、出身分野も多様です(農学、工学、理学、教育学)。研究テーマも多様で、個葉〜単木〜林分〜流域〜地域〜地球レベルに至る様々なスケールの教育研究を行っています。週1回分野セミナー、月1回講座セミナーを開催し、各人が研究発表を行い、森林というキーワードを柱に様々な角度から活発な質疑応答が繰り広げられています。

 学部教育では、農学部の卒業論文指導、農学部地球森林科学コースの講義・実習をはじめ、低学年を対象とした全学教育科目として3演習林を活用した「フィールド科学研究入門」を実施しています。

森林フィールドを活用した多彩な社会活動

 近年、科学技術が著しく高度化し、職業を持つ社会人の再学習の需要が高まっています。また、高齢化に伴い、生涯学習の需要も高まっています。さらに、文部科学省の学習指導要領の改訂に伴い小中高校において「総合的な学習」が導入され、従来の学科体系を越えた学習の需要も高まっています。このような社会人教育、生涯学習、総合的な学習などの需要にこたえ、演習林では様々な社会活動を行っています。

 2000年5月16日〜6月4日には、第1回九州大学総合研究博物館公開展示として、福岡市博物館において『森・水・人−学術の森による森林生態圏科学の展開−』の展示を行いました。森林や地球環境に興味を持つ多数の市民が入場し、入場者数は12,007人に達しました。また、毎年、各演習林において、小中学校教員や住民を対象とした公開講座、小中学生や社会人を対象とした体験学習や生涯学習を実施しています。

フィールド科学の創設に向けて

 耕地や森林などの陸域、湖沼や海洋などの水域は、それぞれ単独で閉鎖的に存在しているのではなく、時空間的に連続し相互に依存しあっています。したがって、従来、農学の諸分野が個別に確立してきた学問体系を、横断的に繋ぐ研究が必要になってきました。そこで、演習林、農場、水産実験所の統合改組により、人間活動と自然生態系の関係を統合的に理解するための「生態圏フィールド科学教育研究センター」及び「生態圏フィールド科学部門」の開設を目指し、話し合いを進めています。21世紀、持続可能な循環型社会を構築するためには、フィールド科学を展開していくことが不可欠です。九州から北海道に広がる九州大学の教育研究フィールドを大いに活用していただくことを関係各位にお願い申し上げます。

(いまだ もりお 森林計画学)

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