[施設紹介ー九大の多様な教育研究フィールドを御紹介します]

九州大学システムLSI研究センター

システムLSI研究センター長 システム情報科学研究院教授 安浦 寛人

高度情報化社会とシステムLSI

 半導体集積回路技術の進歩により、1平方センチ程度のシリコンチップ上に1億個ものトランジスタが集積できるようになり、従来、メモリやプロセッサのような複数のLSI(大規模集積回路)を基板上に並べて作られていたパソコンや携帯電話などの情報システムが一つのLSI上に実現できるようになってきました。このように、一つのシステム全体を単一のLSIとして実現したものがシステムLSI(システム・オン・チップSOCとも呼ばれる)です。携帯電話などの情報端末、パソコン、デジタルカメラ、ビデオカメラ、車載のナビゲーションシステム、テレビゲームなど、情報家電を中心とした製品にシステムLSIは搭載され始めています。

 システムLSIは、今後、情報通信・家電・機械・自動車・建築・土木・経済・行政・医学など種々の分野に応用される可能性がある技術であり、自動運転システム、知的社会基盤システム、電子マネーシステム、電子投票システム、個人認証システム、医療システム、通信システムなど幅広い展開が期待されています。システムLSIは、ネットワーク技術やソフトウェア技術と並んで、今後の高度情報化社会を支える基盤情報技術といえます。

システムLSIセンターの設立

VDEC セルライブラリ開発用チップ

 九州大学システムLSIセンターは、高度情報化社会の基盤技術としてのシステムLSI技術を総合的に研究し、その技術体系の確立と社会の中でのこの技術の利用の方向を明確にすることを目指して平成13年4月に開設されました。システムLSIは、21世紀の高度情報化社会の設計に欠かせない技術であり、その機能、性能、品質、信頼性、安全性などは社会生活の質や安定性に大きく影響します。本センターは、新しいシステムLSI技術、特にその設計技術の方向性を明確にし、21世紀の社会のデザインに要素技術の側面から指針を与えることを目的とした研究施設です。センターは、システムLSIの設計技術体系を確立する設計技術研究部門、高い信頼性と安全性を持ったシステムLSIを開発するための要素技術を研究する高信頼化技術設計部門、システムLSIの機能の大半を占めるソフトウェア部分の開発技術を研究するソフトウェア技術研究部門、ロボットや経済システムの分野への応用を研究する応用システム研究部門からなっており、システムLSIの設計技術を多角的に研究しています。

 国内の大学における集積回路に関する研究・教育拠点は、東京大学のVDEC(大規模集積システム設計教育研究センター)をはじめ、東北大学、広島大学、九州工業大学などにありますが、これらはLSIの設計、製造、検査の技術の研究教育を中心にしており、本センターのように応用分野や利用者の視点からシステムLSIで何を作るか、どのような社会を築くかという問題を中心に研究する機関は国内でも、世界的に見ても新しい取り組みといえます。

シリコン・シー・ベルト構想

 韓国、九州、台湾、香港、シンガポールと連なる地帯は世界の半導体の3割以上を生産する世界的な半導体産業の集積地です。我々は、これをシリコン・シー・ベルト(Silicon Sea Belt)と呼び、21世紀の情報技術関連産業の一大集積地の構築を目指しています。

 福岡県は、「シリコン・シー・ベルト福岡」構想と名付けたプロジェクトで、システムLSI設計産業の集積を図っています。また、北九州市や福岡市もこの構想に協力して設計産業の誘致や集積を図る政策を進めています。九州大学の移転予定地を囲む新しい学研都市構想にもシステムLSI設計拠点化は重要な柱と位置づけられています。半導体生産技術を中心とする熊本県のプロジェクトや自由経済特区を視野に入れた沖縄県の構想とも連動しつつ、韓国や台湾の大学や産業界との交流も進めています。

LSI設計例試作したLSIチップ

基盤情報技術の確立を目指して

 今後の社会基盤システムにおける基盤情報技術のしめる役割はますます大きくなると考えられます。経済システム、行政システム、ライフラインなどを支える社会の神経系としての基盤情報技術は、個人の生命、財産、プライバシーや社会の安定にも直接かかかわる仕組みであり、高い信頼性、安定性、安全性が要求されます。電子商取引に代表される経済システムの電子化は、税金の徴収や私的貨幣の発行など、現在の国家体制を揺るがしかねない問題も数多く含んでいます。社会の基盤を支える基盤情報技術のあり方を技術サイドから検討し、新しい方向を提案することは、そのまま技術開発の大きな目標設定になります。

 システムLSI研究センターは、社会基盤を中心とした新しい応用分野にシステムLSI設計技術を適用することで、新しい技術分野を開拓し、その実用化技術を開発することを目指しています。総合大学の利点を生かし、21世紀の基盤情報技術の確立と新しい社会デザインの方向を考える研究施設です。

(やすうら ひろと 情報工学・集積回路システム設計)

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