[研究紹介ー九大自慢の研究を御紹介します] |
<e-Learning>ということばで示される教育システムは、簡単にいえば<WBT (Web Based Training)>、つまりインターネット、イントラネットを介し、コンピュータを活用することによって行われる集合教育である。今後外国語教育は二つの課題の解決を迫られる。
[1]少子化の影響により、入学する学生の学力低下が懸念され、レベルを落として授業を行うか、これまでのレベルを維持するなら、正規の授業のほかに補習が必要となる。
[2]大学院教育に参加する機会が増えるであろうが、全学教育を軽視するようなことがあってはならず、従前に増して効率的な授業が求められることになる。
私は上記2点を解決するものとして<e-Learning>を重要なものと考えている。<e-Learning>は自学自習のシステムを構築することを可能にし([1]の課題の解決)、また、大人数クラスを実現し、こうすることで少人数クラスを実現可能にする([2]の課題の解決)からである。
言語文化研究院は、昨年後期の授業から3次元仮想空間チャットシステム(3D-IES)を用いドイツ語(担当岡野進)、英語(担当鈴木右文)の授業で北海道大学と共同授業を実施している。授業のデザインはそれぞれ異なるが、たとえばドイツ語であれば、文法事項並びにその表現をそれぞれの大学で学び、学習した事項の応用をチャットシステムで行うように授業をデザインしている。
北大との共同授業を通じて、<e-Learning>はどのように行われれば効果的であるか、ある程度つかむことができた。つまり、<e-Learning>はタイプの異なる二つのコミュニケーション、1対nのコミュニケーションと、n対nのコミュニケーションから構成されなければならないのである。このことを検証するために、一部市販されているソフトを用いて<e-Learning>システムのプロトタイプ(German for Digital Kids)を試作し、ドイツ語の授業で使用している。これは以下の4つのパートから成る。1,2は1対nのコミュニケーションに対応するものであり、4はn対nのコミュニケーションに対応する。このインターネット対応の学習環境は1,2で文法及び表現の学習を行い、3で文法面での学習の確認をし、4で学習した事項を実際に使い、これを仕上げると いうようにデザインされている。
このプロトタイプは学生からのフィードバックをどのように扱うかという問題を解決していないために、まだ遠隔では使われていない。つまり、授業の内容についての質問、もしくは説明が早すぎる等、授業のテンポに対する要望が受講生から出されることが予想され、これは音声で教員へ伝えられることが一番いいのだが、この面でのサポートがまだないために、現時点では、コンピュータ教室において対面授業という形態で使用されている。しかし、幸い今年の秋には新しいソフトでこの問題も解決されるので、後期の授業からは研究室からの遠隔授業が可能になる。
<e-Learning>システムは受講生が自分の学力に応じたペースで学習することを可能にする環境であるが、この環境を有効に利用するにはコースウェアを用意し、受講生が自分の学習状況をある程度客観的に把握し、自分のレベルに応じたコースを選択できるようにする必要がある。このプロトタイプを用いて授業を行い、コースウェアを製作するための資料を集め、コースウェアの実現を図りたい。
<e-Learning>による学習環境が成功するかしないかを決定するファクターはコンテンツである。ユーザである学生に魅力的なコンテンツを提供することができなければ、上記[1]、[2]で述べたことは実現不可能と言わねばならないだろう。だが優れたコンテンツを開発するには一教員、一大学というような枠組みでは到底不可能である。
そこで北海道大学を中心にサイバー・ユニバーシティー構想が立てられた。これは北大、東北大、名古屋大、阪大、九大が共同して学習教材を開発し、これを利用し、共同で授業を実施し、単位互換が可能な授業システムを構築しようというものである。構想実現のために、上記5大学の外国語担当教員と文部科学省メディア開発教育センターとの間で会合をもち、コンテンツ構築並びに標準化に関して協議を行っている。九大からは鈴木右文、岡野がこれに参加している。ここから元岡地区での新キャンパスにふさわしい先進的な外国語教育システムが生まれことを願い、研究・開発を進めるつもりである。