三、「複担」制度を活用した学内共同教育研究施設の設置
 既存の教育研究システムに代わる学府・研 究院制度の活用のもう一つの特徴は、いわゆ る「複担」制度を活用した学内共同教育研 究施設の柔軟な設置です。
 従来のシステムのもとでは、新たに学内共 同教育研究施設を設置する場合、新規の定 員が殆ど望めない現況では、既存の研究院に 所属する教官ポストの振替が不可欠でした。 したがって、特定の分野で全国的に優れた研 究者集団が、九州大学の複数の研究院に分 散しており、新しいセンターのもとでこの分 野の共同研究を継続的に行おうとしても、 当該研究院のポストをつぶし、新しいセンタ ーに移行しないかぎり殆ど実現できません でした。例えば九州大学には、人文科学研 究院、人間環境学研究院、法学研究院、経 済学研究院、言語文化研究院、農学研究院 など広い分野にわたって優れた韓国研究者 がいますが、恒常的に共同研究を行いわが 国の韓国研究の拠点とするべく、韓国研究 センターを文部科学省の省令施設として設 置しようとしても、それぞれの韓国研究者 が新しいセンターにポストを移さない限り実 現は困難でした。関係の研究者が、それぞれ の学府や学部教育に重要な責任を負ってい る以上、研究院から離脱することは不可能 です。そのため、韓国政府から日本における 韓国研究拠点として位置づけられたのを機 に、平成十一年十二月にまず学内措置として 設置しました。
 しかし、新しい学府・研究院制度のもとで は、こうした硬直性は解決されることになり ます。平成十二年度に新しいシステムに移行 するとき、従来の学部ないし研究科附属の施 設の教官は、医学部附属病院および歯学部 附属病院を除いて、すべて研究院に属するこ とになりました。農学部附属農場や附属演 習林をはじめ多数の学府・研究院・学部附属 施設の教官は、該当する研究院に所属してい ます。また、学内共同教育研究施設について は、教官はここに所属することができるとと もに、研究院に所属する教官も関係施設に 責任担当することができるようになりました。 これは法的に言えば、研究科が教育研究組織 として一体となっていたのに対し、研究院は教 育に責任をもつ教官の研究組織として、教育 組織との厳密な一体化から解放されたことに 起因します。これによって、研究院教官がここ に所属したまま、概算要求に基づき、既存の 学内共同教育研究施設に正式に参加したり、 新たな学内共同教育研究施設の設置に加わ ることができるようになりました。
 研究院所属教官が学内共同教育研究施設 の責任担当教官になることを、九州大学では 「複担」と呼ぶことにしています(第2 図)。 現在では、平成十三年度に設置されたシステ ムL S I 研究センターに所属するシステム情 報科学研究院の八名、経済学研究院の一名、 工学研究院の一名、計十名の教官がこの「複 担教官」となっています。平成十四年度概算 要求では、既述の四センターが「複担」制度を 活用して設置を計画しています。
 ただ、ここで新たな問題が生じてきます。研 究院に所属する教官は、本研究院での研究の ほか、学府での大学院教育、学部での学士教育 など多様な責任を有しております。ここに、 学内共同教育研究施設の「複担」が加わるこ とによって、労働過重となるとともに、それぞ れの研究・教育責任が疎かになる危険性が生 じます。九州大学では、こうした危険性を回 避するため、原則的には学部教育を担当しな い「専担教官」に限定するなど自主的に規制 することにしています。ただし、専門分野によ っては、「兼担教官」の方が新しいセンター設置 にふさわしい場合は、「専担教官」に代わって 学部教育を軽減するという各研究院での柔 軟な運用を期待し、「複担教官」の数を全学 の「専担教官」比率に相当する十七%に限定 することにしています。また、「専担教官」比 率についても各研究院で異なることから、「複 担教官」比率もこれに対応することも考え られますが、学内共同教育研究施設参加への 研究院間の平準化を促す視点から、各研究院 一律十七%として運用することにしています。 以上の考え方は、平成十三年三月二十三日 の将来計画小委員会に説明し承認を受けた もので、平成十四年度以降の概算要求に際し て、学府・研究院制度のもとでの新組織設置の 九州大学としての基本的考え方となっていま す。今後、この制度を運用するにあたってさら に新たな課題が生じると思いますが、その都 度企画専門委員会などで検討し、将来計画 小委員会で議論し、基本的考え方を補填して いく必要があります。
(やだとしふみ)


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