著作紹介−知への誘い− |
21世紀の日本が直面している緊急かつ最大級の課題のひとつに、少子・高齢社会化への対応がある。しかも、戦後生まれのベビーブーマー世代(団塊の世代)の高齢化が、目前に迫っている。これまでの社会保障、社会福祉、医療政策では対応しきれないことが明らかで、現在、国レベルでも様々な改革論議がなされている。
しかし、少子・高齢化や団塊の世代の高齢化は、負の側面ばかりではない。むしろ、社会のあり方を根元から書き換えるプラスの可能性を秘めており、前向きな社会改革をもたらしうるのではないか。その社会実験は、すでに民間非営利組織(NPO)などの中で様々に始まっているのだ。
こういう問題意識のもと、日米のジェロントロジー(高齢社会研究)専門家12人が、2001年3月に、東京と福岡で「ニューエイジング」をテーマに専門家会議とシンポジウムを開いた(国際交流基金日米センター主催、九州大学大学院人間環境学研究院後援)。
論議されたことは、日米のベビーブーマー世代が、これまでの高齢者とは異なったライフスタイル、価値観をもった「新人類高齢者」であり、従来の政策ではカバーしきれないニーズと、はかりしれないポテンシャルを持っているということである。その潜在能力の開発や表現が、アメリカでは世界最大の高齢者組織AARPのような民間非営利組織(NPO)となって花開いている。日本でも、介護保険が始まり、NPOによる様々な開拓的な社会実験や、雇用の創出が論議されるいまこそ、日米ともに先進的な社会実験にチャレンジできるのではないか。その具体事例を論議しよう、これが会議のトーンであった。これらをまとめたのが本書である。
シンポジウムを企画・運営しながら、このテーマの奥深い広がりと社会からの強い反響を感じた。筆者のUCLA時代の恩師・友人にも多数参加してもらって、シンポジウム後の楽しい交歓の時を持ちながら、このテーマでの日米共同研究の発展を約束しあった。
「私の今年の3冊」 |
薄い書物だが、遺伝子の利己性と動物の利他的行為をめぐる諸学説の修正に始まり、細胞も微生物の共生から発生したという科学的知見をたどり、私たちの「自我」の考察に至るまで、実に興味深く、感銘深い一冊。
エミリー・ブロンテの特異な作品『嵐が丘』に関して貴重な示唆に富む好著。多数の研究のある作品も、本当に重要なことはまだまだ見落とされているのを思い知らされる。同じ研究者として刺激を受けるが、一般読者にも広く薦められる。
画家のクレーやミロを好きな人は多いのに、現代詩や現代音楽の愛好者が少ないのは残念である。ブルトンのこの一冊は、『宣言』は後回しにしてまず散文詩『溶ける魚』を、不思議な絵を楽しむように読まれることをお薦めしたい。
本田技研工業の独特な社風を紹介している。この本から「企業の強さは、現場で働く一人ひとりの人間の、自己実現の集積によってこそつくられていく」ということが感じられる。
「青色発光ダイオード」を開発したカリフォルニア大学サンタバーバラ校教授の中村修二氏が、日本の政治や社会制度などの硬直化したシステムに痛烈な批判を加えている。
NHKプロジェクトX製作班の今井彰氏が「日本の戦後は、数千数万のプロジェクトの歴史であり、そこに身を投じた無名の人たちが懸命に困難に立ち向かってきた日々の記録でもある。」と述べている。
「戦前からのセメントコンクリートについての技術が、今日までにどうつながっているのか」を「コンクリートを専門としない人にもわかるよう」に解説。著名な研究者達の種々のエピソードや九州大学における実験も興味深い。
筆者がメタルカラーと呼ぶ、「技術開発に情熱を注ぐモノ作りの主役」たちに対して行ったインタビューの集大成。対象は巨大構造物、情報技術、環境、工業経済、エネルギー、ナノテクノロジーなど多岐にわたる。
建築材料として優れた耐久性、耐火性を有し、年を経る毎にその美しさが向上するという、他の材料にない特異な性質を持つ煉瓦の、わが国における歴史を技術的、文化的側面から体系化。年代推定、保存、修理の方法も示している。