九大生よ、学業と部活動の両立を!
そして強い運動部を!

−まず学業を そして部活動に夢中になれ!−

応用力学研究所 教授 佐藤 浩之助

 当然のことながら、学生諸君は大学に入ったら先ず「学業」に精を出して欲しい。そしてこれを大前提として、以下のようなことを訴えたい。

 長い人生を考えると、人は仕事のみをやって一生を終えるわけではなく、仕事以外に趣味を持つことはとても大切なことだ。特に学生時代に、学業以外に1つ打ち込むものを持っているというのは、強い絆の友人もできるし、活動を進めていく過程でいろいろな困難を乗り越えることにより、得難いものを学ぶことができる。昨今、学生のサークル活動離れが言われて久しいが、九大生諸君には是非とも部活動へ、特に運動部への参加を強く呼びかけたい。以下には、どのようにしたらそれが個人として密度濃く有意義にできるか、そして強い九大運動部を実現できるのかを書いてみたい。

(1)やればできる!

 まず、何事も「やればできるのだ」ということを言いたいサークルに参加しようかどうか迷っている人は、是非思いきって飛び込んでほしい。また、既に入部して活動している人に対しては、個人としての活動/プレーやチームとしての成績は、一生懸命やればやっただけのことが必ずあるし、努力すれば何とかなるものだということを信じてほしい。ではどうすればいいのか。私自身の実際の経験から、次にお話したい。

(2)スポーツマンスピリッツ−−−『両立』『自主性』『無我夢中』

 まず大切なことは、「諸君は部員である前に、九州大学の学生である」ということを強く自覚してほしい。であるから、学業と部活動を両方とも頑張れるだけ頑張って、なんとか『両立』させてほしい。実はかく言う私も、学生時代はなかなか思うようにいかず平坦な道ではなかった。しかし、諦めたらそこでストップしてしまう。粘り強く、最後まで諦めないことだ。学生時代は4年間もあるのではなく、4年間しかない。忙しい時というのは、結構、逆にいろいろなことができるものだ。密度濃くやればなんとかなる!

 さて、次に大切なのが『自主性』だ。これはある意味では当たり前のことだが、時として忘れてしまいがちだ。考えてみれば、仮にいくら勧誘されて入部したとしてもその決断は当然本人がした訳であるし、結局は自分自身が自主的に入部したはずだ。それであれば、「やるからには良くやる価値がある」の諺通り、頑張ってやっていこう。学生スポーツ/アマチュアスポーツの良さがここにある訳で、本来スポーツというのは人からやらされるものではなく、自主的にやるべきものだ。そして、自主的に意欲をもって練習やトレーニングに励めば非常に密度の濃い練習ができ、プレーの工夫や試合でのアイディアも生まれてくる。こうなれば、人よりまた他チームより断然高い上達率が得られることになる。

 3番目のポイントとして、『無我夢中』ということをあげたい。人間、『寝ても覚めても』という境地まで達しなければ、大きな発展は望めない。一見、『両立』という理想と矛盾するようにも思えるが、それは意欲・気力で乗り越えられるものだ。自身のことだが、学生時代に夢中でやっていたことで今だに思い出すのは、横断歩道を渡るとき反対側から来る歩行者を敵プレーヤーと見立ててイメージトレーニングをしていたこと、ボールの感触に慣れるためボールを抱いて寝たこと、プレーの左右対称化を目指して400mトラックのインターバルダッシュはしょっちゅう逆まわり(時計まわり)をしていたこと、合宿などではよくご飯を左手で食べていたこと、などなど。(私は右利きです。念のため。)

(3)『目標設定』『フェアプレー』『ガッツポーズなし』、そしてトレーニング法

 さて、『両立』『自主性』『無我夢中』という大きな柱が築かれればもうかなりのレベルと思うが、さらに上の段階を目指すコツに、『目標設定』『フェアプレー』『ガッツポーズなし』ということがあげられる。この『目標設定』の大切さは、どんな仕事をするにしても非常に大切であることは言うまでもない。この時、1つのコツは無理でない範囲でできる限り上を目指すこと、もう1つのコツは目標がある程度達成された段階で迅速に目標設定のやり直しをすることだ。

走れ!九州大学ラグビー部

 次に『フェアプレー』に徹すること。アマチュアスポーツであればこれおは当然のことだが、例えばレフェリーから見られないといって違反を犯して利益を得てもそんなものは長続きしないし、第一、試合後の爽快感は半減する。相手のためでもあるが、結局自分達のためでもある。スポーツというすがすがしい場を、自分達で汚してしまうのはよそう。そんなことより正当な力をつけてフェアプレーに徹し、圧倒的に上回ればいいだけのことだ。それだけの準備をすればいいということであり、これが特に上を目指すことにもつながる。

 最後に、あまり知られていない大切なことがら、つまり得点を上げたり勝利を得た時に『ガッツポーズをしない』ということ。世の中にはガッツポーズの効用を言う人もいるが、私自身は賛成しかねる。特に究極になればなるほど、ガッツポーズを『すべきでない』。そして、『しない』ことの効用は少なくとも3つあると考えている。1つ目は『ガッツポーズをしない』ことで周囲及び自分に「もっと強いのだ」という暗示をかけることになる。2つ目は、そんなことをする暇に次のプレーや作戦でも考えていたほうがましであること。3つ目、これが1番大事だろうと思うが、「相手をいたわる気持ち」の表現である。

 さて、実質の問題としてのトレーニング法にはフィジカルトレーニングとメンタルトレーニングがあるが、特にメンタルトレーニングについては一般にあまり知られていないいくつかのコツがある。長年の経験を通じて蓄積してきた有効な方法として、例えば『自己暗示法』や、その中でも鏡を使って自己と対話をしていく『鏡利用法』、さらに試合前にイメージトレーニングによって集中力を少しづつ高めていく『集中力制御法』などがある。今回は紙面の関係でこれらを割愛させていただくが、またどこかで機会があればと念じている。

(4)おわりに

 近年、一つのことに粘り強く取り組む若者が少なくなり、本格的なサークル活動への参加率も減少していると聞くが、4年間夢中で運動部をやり通した経験者として、その奥深さや広がりは本当に絶大であるということを若い人たちに言いたい。そして、夢中で部活動に打ち込むことにより人生における計り知れない財産を築くと同時に、チーム全体としておのずと好成績を残すことができるということを訴えたい。

 幸い、昨シーズンの公式戦を全勝で終えたラグビー部(写真)をはじめ、各部とも少しずつ上向きの兆候があると伺っている。学生諸君が是非とも学業と部活動の『両立』を目指し、そして九大運動部として今後ますます活躍してくれることを期待して筆をおきたい。

(さとう こうのすけ プラズマ理工学)

[筆者紹介]

 筆者の佐藤氏は東大の学生時代、ラグビー部に在籍して大活躍し、卒業後も研究教育活動のかたわら各地のラグビー部とかかわり若い人達を育ててきたひとである。

 学生時代は、東大が戦後唯一、明大を破った時の主力メンバーであり、慶大の連破や同志社大との引き分けなどの原動力となり、同部の長い歴史の中で”伝説のプレーヤー”と呼ばれている。また、高校時代が未経験にもかかわらず、自己に厳しいトレーニングと独創的工夫をこらしたプレーで早くからレギュラーとなりチームを引っ張ってきたことも語り草になっており、未経験入部者への希望を与えている。

 卒業後は母校のコーチ(大学院時代)の後、名大プラズマ研に就職されてから九大に移ってこられるまでの20年間、名大ラグビー部の監督として若い人の指導にあたり、同部の東海1部リーグ昇格にも貢献された。またプレーヤーとしても、国際7人制大会での優勝経験がある。九大に移られてからは研究教育活動の忙しい日々の合間を縫って、時折、日曜日の九大の試合の観戦に行き、熱っぽい声援を送っておられるようである。なお、現在九大ラグビー部の顧問をお願いしている。

(文責:人間環境学研究院 助教授 出口 敦)

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