工学系地区基本設計の概要
新キャンパス計画推進室助教授  坂井 猛
施設部整備計画課長  山本 隆

 「九州大学新キャンパス・マスタ ープラン二〇〇一」(二〇〇一年三月) を具体化するため、ウエスト・ゾー ンWGでは、二〇〇一年四月から第 一期の移転対象となる工学系地区基 本設計の作業に入るとともに、その 検討部隊として、工学研究院系各部 門群、システム情報科学研究院の各 委員と事務局施設部、新キャンパス 計画推進室によるコアチームを編成 し、大城桂作WG長のもとに、MC M設計共同体と一年間にわたる共同 作業を行いました。学内ヒアリング にあたっては、移転に関係する教職 員の協力が不可欠であり、施設部、 工学部等事務部と協力して精力的に作業を進めていただき、学外委員を 含むマスター・アーキテクト委員会 のアドバイスを得ながら、MCM設 計共同体によって地区基本設計をす すめ、六月に将来計画委員会の了承 を得たものです。ここで、その内容 を紹介します。

マスタープラン二〇〇一の具体化
 工学系地区基本設計を始めるにあ たり、まず、マスタープラン二〇〇 一で求められている性能を満たしな がら、いくつかの計画目標を空間と して実現することが求められました。 その代表的なものとして、学府・研 究院制度の理念を実現する空間構成、 伝統を創り出す象徴的空間と柔軟に 変化・増殖する空間の共存、糸島地 域の環境との共生等がありました。 これらの課題は、いくつかの空間タ イプを検討する基本設計の作業過程 のなかで、形成要因として相互に関 連しながら、度重なる議論を経て、 一つの空間タイプに収斂しました。
 また、地区基本設計としてまとめ ていくうえで、デザインを方向付け るための「デザイン・ガイドライン」 を設けています。これは、豊かなキ ャンパス空間を形成し、将来にわた り維持、活用し続けていくため、空 間づくりに関する特徴的な要素を示 し、そのデザインの考え方をまとめ たものであり、キャンパスのアクテ ィビティ、景観形成、エコロジーの 視点から、全体、建築、オープンス ペースに関する項目を設定していま す(図1)。

1. 工学系地区基本設計の考え方
 1.1 工学系地区基本設計の役割
 1.2 敷地特性の分析
 1.3 工学系地区基本設計における骨格の形成
 1.4 工学系地区基本設計における土地利用の方針
 1.5 工学系地区基本設計における計画条件と施設配置の考え方
 1.6 工学系地区基本設計における外部空間の考え方
2. デザイン・ガイドライン
 2.1 工学系地区デザイン・ガイドラインの役割
 2.2 全体デザインの方針
 2.3 キャンパス空間の形成
 2.4 オープンスペース
3. 施設計画
 3.1 施設計画の概要
 3.2 研究教育棟
 3.3 キャンパス・モール隣接施設
 3.4 研究教育棟隣接実験施設群
 3.5 理系図書館・情報基盤センター
 3.6 ウエストゾーン・共同利用施設
 3.7 ウエストゾーン・西地区施設
4. 構造計画
 4.1 構造計画の概要
 4.2 各施設構造計画
5. 交通計画
 5.1 道路計画
 5.2 歩行者及び自転車交通
 5.3 自動車交通
 5.4 公共交通(バス・未来型交通)
6.造成計画
 6.1 造成地盤設定
 6.2 高低差処理
7. 供給処理施設計画
 7.1 共同構(ルート)
 7.2 共同構(断面)
 7.3 雨水排水
 7.4 汚水排水
8. 設備計画
 8.1 設備計画の基本方針
 8.2 電気設備
 8.3 機械設備
図1 工学系地区基本設計の構成 工学系地区基本設計総合図

学府・研究院制度の理念の空間的表現
 全国に先駆けて九州大学で実現し た学府・研究院制度の理念を空間的 に表現するにあたり、まず、断面構 成において、低層部に「学部」の空 間を配置し、中高層部に「学府・研 究院(大学院)」の空間を配置しまし た。これにより、学部学生の利用す る講義スペース、情報学習室等のス ペースがキャンパスモール・レベル と一体的になり、講義と講義の間に 大量移動する学部学生の動線を処理 するとともに、キャンパスモールの 活気を演出します。また、中高層部に学府・研究院を置くことにより、 大学院の静粛な研究環境を確保しま す。
 つぎに、平面構成において、学府 と研究院からなる大学院の空間を南 北にグループ化しています。北側に は、学府の空間をラボゾーン及びセ ミオフィスゾーンとして配置し、施 設の南側には、研究院の空間をオフ ィスゾーンとして配置します。さら に、その中間列には、吹き抜けを配 置して採光、通風等に配慮し、良好 な室内環境を確保しています。北側 は、実験室及び学府の大学院生室等 を主体とする変化する空間として位 置づけられ、専門領域の壁を取り払 いフレキシブルな利用が可能な空間 が連続的に構成されます。また、南 側は研究院の教官室(個室)を主体 とする不易の空間として位置づけら れます。

象徴的空間と変化・増殖する空間の共存
 建物内部の機能は、素直に外観に 表現されています。キャンパスモー ルおよびキャンパスコモンに面し、 研究院の教官室を主体とした空間が 面する南面は、横方向のボリューム 分節や、縦方向の機能に応じた三層 構成デザイン等により、アカデミッ クで象徴的な空間を演出しています。 また、幹線道路に面する北側には、 実験室を主体とした空間が面するた め、設備シャフトのラインと横方向 の階層ラインによって、変化・増殖 する空間を演出します。さらに、保 全緑地をつなぐ幹線道路からのエン トランス空間として、グリーン・コ リドーが南北方向に配置されますが、 このグリーンコリドー上空を渡るか たちで工学系施設を配置し、このブ ロックのゲートとしています。ゲー ト部分の施設は、東西方向に研究教 育棟を連続させるとともに、弾力的 な利用を促進する新たな共用スペー スとして機能します。


工学系地区

糸島地域の環境と共生する装置として
 工学系地区では、誰もが安心・安 全で快適なキャンパス環境を享受す るため、ユニバーサル・デザインに 配慮しながら、キャンパスモールを 中心とした交流と賑わいの空間づく りを行います。開発による環境変化 の広がりを抑え、省エネルギー建築 により、従来のキャンパスに比較し て、30%のLCCO2及び空調負荷低減 を目標としています。また、キャン パス周辺からの眺望に配慮し、施設 群と空との境界線であるスカイライ ンを、周辺の山並みに調和させると ともに、施設利用者の眺望やキャン パスモールからの景観に配慮した施 設配置を行なっています。年月を経 ても美しさを保ち味わいを増す自然 素材の利用を基本としながら、ラン ドスケープとの調和を図り、経年的 な変化の中で風格を生み出す空間の 質を確保します。オープンスペース は、その場所に応じて移動、溜り、 憩いなどさまざまな機能が求められますが、建築低層部の計画と整合を 図りながら、それぞれの機能に応じ て施設や樹木、ベンチなどによって 固有な空間を構成します。交通面で は、未来型交通のための用地を確保 するとともに、駐車場、駐輪場の整 備を行い、学内シャトルバス等でキ ャンパス内相互の連絡をします。さ らに、オープンスペースや施設内の 各所には、研究教育上価値の高い資 料の展示やアートワーク設置のため のスペースや壁面、水面等を設けま す。

工学系研究教育棟西棟(仮称)の設計  工学系地区基本設計の作業と並行 して、工学系研究教育棟西棟(仮称) の実施設計に入りました。二〇〇五 年後期に移転する工学研究院機械航 空系部門群及び物質科学系部門群が 入居する施設であり、施設を構成す る各室の諸機能に関するヒアリング を実施しました。ヒアリング結果を 計画に反映するとともに、マスター プラン及び地区基本設計で設定した 方針を実現するための作業を続けて います。大学施設としての風格と機 能性を重視しながら、学生の溜まり 場やリフレッシュ空間を内包し、オ ープンスペースとあわせて新天地の 新しい生活を試みる場とするととも に、効率的な管理・運営に配慮した 施設づくりを進めています。

(さかい たける)
(やまもと たかし)


キャンパスモール


前のページ ページTOPへ 次のページ
インデックスへ