新任部局長紹介

人文科学研究院長

今西 裕一郎 (いまにし ゆういちろう)

撮影:堀之内義一

 今西さんの専攻は国文学で、『源氏物語』を中心に、『伊勢物語』、『蜻蛉日記』など、平安時代の代表的な古典文学作品を研究対象としておられます。

 高校までは北九州育ちだということですが、大学は京都大学文学部(一九六九年卒)。同大学院を経て、九大赴任前は京都府立大学文学部にご在職でした。九大赴任(一九八五年)にあたっては、ちょうどその頃、京都の歴史的地理と文学との関わりに興味をいだいていたので、平安朝文学の本場京都を離れることに相当の抵抗を覚えたとのことです。

 しかし、講座の前任教授で江戸文学研究の第一人者である中野三敏先生の説得、とくに「私も江戸を去ること何百里の福岡で江戸文学を研究しているのである」という一言には返す言葉もなく、赴任を決意したということです。

 趣味は、音楽鑑賞から道ばたに落ちている猫を拾うことまで、はなはだ多様ですが、三十代後半から四十代にかけては登山とスキーに熱中し、一人では登ることの難しい南アルプス南部のいくつかを除いて、穂高、槍、北岳、仙丈、立山など我が国の三千メートル以上の山をほとんど単独行で踏破したそうです。

 ここ数年は多忙で登山、スキーもままならず中断、研究院長になられてはその機会も一層少なくなることでしょう。そのかわり、現在二匹いるという、拾われ猫がこれまでにも増して可愛がってもらえるのかもしれません。(Z)

理学研究院長

小田垣 孝 (おだがき たかし)

 研究室の方から口笛が聞こえます。先生、きっとよいアイデアが浮かんだに違いないなぁなんて、周りは想像しています。

 海外で長い間教壇に立ってこられたそうで、そのためか、学生や事務の方々といつも気さくに接しておられます。講義のあとなどは、よく学生の群れを率いて研究室まで戻ってこられ、質問や議論で盛り上がっておられます。いつの間にか、研究室の面々も加わっています。ご在室のときは、ドアはオープン。これが基本型。しかも、部屋には何も仕切るものがなくマル見え。このキョリ感が研究室の雰囲気をとてもよくしていると思うのです。学生時代にはMr. Relaxと呼ばれていたそうです。

 お好きな色は、きっとベージュ。居室にはベージュのものが多いし、服も、そういえばお車も。プレゼントはベージュのもので間違いなしです。この誌面の背景もベージュでお願いします。ご専門は統計物理学、なかでも乱雑なモノや現象を理論的に記述し理解することです。そのせいか、総量を頭数で割っただけの平均値や平均的な考えだけで判断されることはなく、個々の特徴を大事にしてくださいます。「みんなで一丸」というよりも、*ヘテロで自由な雰囲気を、理学研究院、理学府は守ることができるでしょう。これからは研究室のドアは閉ったままになることが多いことでしょう。でもその代わり、院長室のドアがオープンになっていることでしょう。(M)

* ヘテロ【heterogeneous】 同じでない、あるいは一様でない構成。異なる性質が組み合わさって多機能性を増す。

教育学部長

針塚 進 (はりづか すすむ)

 新教育学部長、針塚進先生は、「臨床心理学」が専門であると明言されます。しかし、この「臨床心理学」の意味がシンプルではありません。それは針塚研究室の学生たちの研究 テーマを見ると一目瞭然です。

 統合失調症の表情理解、サイコドラマと呼ばれる即興劇による心理療法、老人保健施設における痴呆老人の心理的支援、自閉症児の描画、脳性麻痺児のリハビリテーションとそれは、広範な領域に及びます。心の臨床の様々な分野において、まさに、「臨床」的に関わっておられるのです。机の上で、あるいは、実験室での研究というよりも、実際に、こうした心理的な壁にぶつかっておられる方々に、自ら積極的に接して行かれます。そして、ただ押し売り的に援助するのではなく、クライエントと呼ばれるそれらの人々から、あるいは親御さんから快く「受け入れられてしまう」のです。こうして針塚先生を紹介させていただいている私もそうした先生のお人柄に魅せられてしまった一人です。

 本当にお忙しい中、休日を返上して臨床活動に携わり、お好きなビールを我慢してボランティア的な夜の研究会に出席され、いったいいつ、自分の時間をすごしておられるのだろうと不思議な気分にさせられます。そうした中でも疲れた表情一つ見せず、「ガハハハ・・・」と高らかに談笑し、論文執筆で悲壮な顔をしていた学生を、自然ににこやかにしてしまうのです。

 これまで人間環境学府人間共生システム専攻長といった様々な学内業務で先生の行政手腕を拝見させていただきました。今、ここにある小さな問題を看過することなく、広い視点から先を見通した対処をしていかれる針塚先生は、こうしたお人柄でもって、我が教育学部を教育においても学生や職員の居場所としても内外に誇れる学部としてくださるものと期待しているところです。(K.T.)

経済学研究院長

矢田 俊文 (やだ としふみ)

 矢田俊文先生は、九州大学経済学研究院の歴代教授のなかで、最年少で教授に就任されました。そして今回、おそらく定年まで務められる最高齢の経済学研究院長になられることになりました。

 みなさんご存知のように、矢田先生は昨年十一月まで四年七ヶ月の間九州大学副学長として大学改革、大学移転を担当されてきました。つまり、経済学研究院教授として、もっとも長くかつ多くの仕事をされてきた教授であるといってまちがいないでしょう。それに加えて歴代教授として、もっとも多くの国の各種審議会、地方自治体の委員会の部会長、委員長、委員を歴任されてきました。産業学会、経済地理学会の会長もなさっています。これまでに出版された著書点数も、まちがいなく上位だと思います。

 「今の大学は忙しすぎて仕事ができない」といういいわけを先生の前ではできない、というのが先生の近くにいる者(「君子危うきに近寄らず」とはよくいったものです)の最大の悩みです。

 先生の専門分野は石炭産業と地域構造論です。学問は深くかつ広くなければならないという二律背反の課題にチャレンジされてきました。日本の数多くの炭鉱の地下深いところまで入られたのですから、矢田先生の研究はまさしく「深い」のです。また、経済地理学の体系化という研究では、経済活動の空間論という広いスペースの視点を打ち出されたのですから、先生の学問は「広い」のです。

 人間としての幅もある矢田先生は、激動期の研究院長として最適だとは思いますが、切れ味鋭い刀(舌鋒)が年とともに少しさびついてくるといいなと念願しているのは、決して私一人ではないと思います。(Y)


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