研究紹介@


21世紀COEプログラムに採択された理系の3研究

「国際競争力ある個性輝く大学づくりの推進」を目的に、
文部科学省が平成14年度から開始した「21世紀COEプログラム」(旧称:トップ30)。
初年度は5分野の募集があり、九州大学からは4つのプログラムが採択されました。
前号では、この内、人文科学の「東アジアと日本:交流と変容」をご紹介しましたが、
今回は理系の3プログラムを、それぞれの「拠点リーダー」が紹介します。


統合生命科学:ポストゲノム時代の生命高次機能の探究

「生命科学」分野

理学研究院 生物科学部門
教授 藤木幸夫

 近代生命科学の進歩に伴い、様々な生命現 象が例えば「DNA」などの共通の概念で論 じることができるようになってきました。ゲ ノムの構造解析が進んできた近年、次の興味 はそれぞれの遺伝子がどういう機能を持って いるかを解明しようという「ポストゲノム」 に移りつつあります。そのためには生命現象 を統合的に理解することが求められます。

 この度「二十一世紀COEプログラム」に おいて生命科学の拠点として選ばれた本学で は、多部局にまたがった生命科学の研究者を 「ゲノム」、「細胞」、「個体」、「集団」という四 つの領域に再編することにより、統合生命科 学研究教育組織の構築をはかろうとしていま す。生命科学の分野で世界的な研究拠点とな るためには研究室単位のみで研究を続けてい くのではなく、蓄積された技術・成果を相互 に出し合うことによって先端の研究を共同で 行っていく必要があります。それと同時に、 生命科学を統合的に理解することができる若 い研究者を多く育成していかなければなりま せん。

 本プログラムでは、この理念の下、各領域の 本学教育研究者・国内有識者・海外有識者から なる「COE会議」を設置し、統合的研究基盤 インフラの構築、横断的な研究交流の推進、 インタラクティブな教育方法の確立などを目指 します。

 組織の再編と統合をベースとした「統合生 命科学」の構想は学内で試行された、九州大 学教育研究プログラム・研究拠点形成プロジ ェクト(P&P)によって、その合理性と必 要性が強く認識されてきています。将来的に、 研究で得られた基盤知識・技術を社会に還元 することを目標とした、応用生命科学領域に まで分野を広げていくことを意識しつつ、各 構成員がその目的からはずれることなく積極 的にプログラムを実行していくことによっ て、広い視野に立つ先進的な研究者・教育者 が連帯し、世界的な研究・教育拠点が築かれ ることを大いに期待しています。

(ふじき ゆきお 細胞生物学)


分子情報科学の機能イノベーション

「化学・材料科学」分野

工学研究院 応用化学部門
教授 新海征治

 地下資源も農業用地も乏しい日本 が、世界に誇れる資源があるとすれば、 それは「人」あるいは人に付属する 「知的財産」です。二十一世紀に日本 が世界各国に伍して成長して行くため には、「人」を育てておくことが絶対 不可欠な条件です。

 工学府の物質系四専攻(物質創造工 学専攻・物質プロセス工学専攻・材料物 性工学専攻・化学システム工学専攻)と 有機化学基礎研究センター(四月より 先導物質化学研究所に改組予定)の一 部が合同で案を練った申請が、「化学・ 材料科学」の分野で二十一世紀COE プログラムのひとつとして採択されま した。採択されたのは全国で二十一件、 大阪以西では、本申請のみという狭き 門でした。既に、昨年十月より活動を 開 始 し 、公式 ホ ー ム ペ ー ジ (http://kstech2.cstm.kyushu-u.ac.jp/coe/) を開設するとともに、季刊「Molecular Informatics」を発刊しています。

 「分子情報科学の機能イノベーショ ン (Functional Innovation of Molecular Informatics) 」は、分子情報に関する 材料開発や応用を目指す最先端研究と 教育を実施し、その分野のエキスパー トとなる「人」を育てることを目的と したプロジェクトです。すなわち、新 物質の創製は材料研究の要です。なか でも、化学的手法により創出された素 構造体やそれを組織・集積化した超構 造体はナノレベルの情報変換材料とし て、飛躍的な技術革新をもたらす原動 力となります。九州大学の化学系グループは、合成二分子膜をはじめとする 超分子・分子組織構造の設計・創製に 関して数多くの世界をリードする先駆 的な成果を挙げてきました。事実、こ の分野で中核的研究拠点形成プログラ ム(研究COE:平成八〜十四年)、 教育研究拠点形成支援経費(教育CO E:平成十二?十三年)など多くの大 型プロジェクトが採択されています。 このような背景に立脚し、本プログラ ムでは高度な情報処理機能を持つ分子 (素構造体)の設計・創製、その組織・集 積化(超構造体)、さらにそれらの構 造・機能性の超高性能計測・評価技術を 多元的に展開し、二十一世紀の産業を 先導する革新的な高機能物質・材料を 創出するための「分子情報科学」イノ ベーションに関する研究・教育を集中的 に推進することを目的としています。 これらの成果は、「分子情報科学」とい う新概念を創出するものであり、二十 一世紀サイエンスのターゲットとなる 人工分子知能、分子ロボティクスなど の実現に必要な科学技術を飛躍的に進 展させるものと考えています。

 このような目的を実現するために、 研究面では二十二名の事業担当者を素 構造体グループ、超構造体グループ、 計測・評価グループ、のグループに組 織化して研究を遂行します。また、教 育面では、分子情報科学に対応した新 しい大学院教育システムとして、専攻 横断教育を行う「基盤研究教育プログ ラム」を充実させると共に、新たに 「先端研究教育プロ グラム」を設置しま す。先端研究教育プ ログラムでは、創造 性に優れた人材育成 を目的とした三つの 組織(クラスター) を設立します。すな わち、「院生プロジ ェクト推進クラスタ ー」では、研究室と は独立に院生が立案 した研究を行う院生 プロジェクト室を設置し、複数教官の集 団指導により研究手 法を多様化し独創性 を育てます。また、 アジア地区の優秀な 学生、若手研究者を 受け入れ「国際化教育クラスター」を充実させて行きます。 「産学連携教育クラスター」では産学 一体化した研究教育体系を築く方針で す。

 以上の研究・教育計画を実施するこ とにより、「化学・材料科学」の分野 において日本国内で西からイノベーシ ョンの風を起すとともに、二十一世紀 における世界的研究拠点を九州大学に 構築したいと考えています。そして、 この教育・研究拠点より二十一世紀を 担う多くの人材が巣立って行くことを 期待しています。

(しんかい せいじ 生物有機化学)


システム情報科学での社会基盤システム形成

「情報・電気・電子」分野

システム情報科学研究院長
教授 前田三男

 平成十四年度二十一世紀COEプ ログラム「情報・電気・電子」部門 で採択された表記のプログラムに は、システム情報科学研究院に属す る五つの専攻すべてが参加していま す。七年前に設立されたシステム情 報科学研究院は、通常の情報系大学 院と異なり、情報科学と電気電子工 学を車の両輪として誕生しました。 最近、「i」と「e」という略号が いろいろな商品に付けられ、はやり 言葉になっているようですが、我々 の研究院はi(information science ) とe(electrical engineering )の双 方を備え、両者を複合して「システ ム情報科学」という新分野を開拓し ようというのが、研究院設立の理念 でした。図に示すように、「i and e」 を研究院のトレードマークとしてい ます。

 二十世紀ほど、科学技術が社会シ ステムやライフスタイルの著しい改 変を促した時代はありません。そこ に求められたのは、効率化・高速化・ 大規模化のあくなき追求でした。し かし、情報化とグローバル化の急速 な進展と、地球規模での環境・エネ ルギー問題の顕在化を背景にして、 二十一世紀にはこれまでと違った視 点や価値観のもとで、新しい社会基 盤システムを構築していく必要性が 強く求められています。

 情報科学・電気電子工学が寄与す る社会基盤システムは、情報通信シ ステムはもとより、電力等のエネル ギー供給システム、交通・物流システ ム、経済・金融システム、生産システ ム、危機管理システム等極めて広く、 その社会的影響は大きいものがあり ます。そして、そこに求められてい るのは、高度の安全性・信頼性、省資 源・省エネルギー化、堅牢なセキュリ ティー、さらには人間性の回復とい った新しい視点です。

 そのような認識の元に、システム 情報科学、つまり「i and e」の立場 から新しい社会基盤システムの構築 に寄与していこうというのが、この プログラムのねらいです。平成十二 年度に、本研究院教官の主導で「シ ステムLSI研究センター(センタ ー長/安浦寛人教授)」が設立され ました。このセンターは、アジア諸 国と連携して半導体産業の一大拠点 を九州に築こうとする福岡県の Silicon Sea Belt 構想の支援により、 文部科学省より「知的クラスター創 成事業」の指定を受け、五年間の大 きなプロジェクトを発足させまし た。本プログラムでは、このセンタ ーと密接な連携をとりつつ、システ ム情報科学研究院の幅広い研究スタ ッフを結集して、二十一世紀型社会 基盤システムの構築に寄与する革新 的な提言をしていきたいと考えてい ます。

 また、二十一世紀COEプログラ ムでは、教育面で若手研究者育成が 求められています。昨年十一月から 今年三月まで、まだ短い期間ですが、 システム情報科学府の大学院生八名 を海外の国際学会等に派遣したほ か、大学院生全員が自分のPCを持 てる環境を整備するとともに、筑紫 地区と箱崎地区を結んだ遠隔講義な ど、ネットワークの整備強化を図っ ています。また、COE研究員(P D)やRAの採用なども含め、博士 後期課程の学生を中心にした若手研 究者の育成に努めていく予定です。

(まえだみつお 電子工学)

システム情報科学研究院のトレードマーク。
i(information science)とe(electrical engineering)が
その理念であることを表す。

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