クローズアップ@

少人数ゼミナール
専門を異にする学生が、ともに基礎能力を育てる

高等教育総合開発研究センター教授
淵田 吉男

 九州大学の全学教育で開講されている少人数ゼミナールは、教養教育科目群の個別教養科目に位置づけられています。
 高校とは異なる大学での学習への適応を促進し学習意欲を向上させること、優れた人格形成に資する人間的交流の場をつくることを教育目標に掲げ、教育効果を高めるため二十名程度に履修者を制限して一年生を対象に実施されています。
 少人数ゼミナールには、A、B、Cの区分があり、Aは主に定年退官された本学名誉教授が、B、Cは本学の教員が担当しています。A、Bは一学期、Cは二学期継続の科目で、いずれもテーマは授業担当教員に任されていますが、通常の科目を補ってその理解に直接結びつく学力の育成を図ることを目的とはしていません。また、異なる専門分野の学生さんがともに学べるようカリキュラム編成に工夫がなされています。
 少人数ゼミナールAでは、理系と文系の異なる専門分野の学生さんが一緒に「読み、書き、調べ、発表し、討論する」などの学問を進めていくうえでの基礎的な能力の育成を目標としているところに特徴があります。平成十五年度前期には三十二コマ、後期には十六コマが開講され、人文、社会、自然科学などにまたがる様々な内容の授業が行われました。

(ふちだ よしお/大学教育研究)


名誉教授による1年生対象の
「少人数ゼミナール」

九州大学では、学部教育においても
ユニークで様々な「仕掛け」が用意されています。
その一つが、初年次に開講される「少人数ゼミナール」です。
中でも、名誉教授の方々によるゼミでは、
一般のゼミとは異なる楽しい空気が流れているようです。


少人数ゼミナールAから世界に羽ばたく人材を

九州大学名誉教授(元農学部長)
山崎 信行
担当ゼミ「生命活動を担うタンパク質」

 少人数ゼミナールAは商店街に例えると理解し易いかもしれません。商店街を訪れる客(学生)は、看板(授業科目)や広告(授業内容)を見て興味ある店(ゼミ室)を選びます。看板や広告は店主(講師)が豊富な経験をもとに作成しますが、「○○学概論」といったような画一的な看板は殆ど見られません。客の入りが少ない場合は問題ありませんが、多すぎると店主は二十名ほどの顧客(受講生)を選ぶのに四苦八苦することになります。
 商店街のどの店を覗いても経験豊富な店主が若い顧客を相手に専門的な香りを少し漂わせながら話し合っている光景が見られます。店主は顧客が「学問を進めていく上で何が必要かという基本的なこと」について助言はしますが、商品(専門知識)を無理に売りつけようとは決してしません。当店では、「楽しく学ぼう」をモットーに、生命とタンパク質について顧客の方々が自由にテーマを選び、発表し、討論して頂く場を提供してまいりました。店主の印象では全体的に客筋が良過ぎるせいかややおとなしく、そのため「質問しないと眠くなるぞ」と言って活性化を図ったこともありましたが、閉店間際に顧客の方々から頂いた「物の見方、考え方が何となく分かったような気がする」という声に店主は安心して三年間掲げてきた看板を下ろすことができました。
 少人数ゼミナールA≠ゥら広い視野に立って世界で羽ばたく人材が一人でも多く育ってほしいという願いから思いつくままに書かせて頂きました。このゼミナールをご理解いただく上で少しでもお役に立てれば幸いです。

(やまさき のぶゆき)


大学の良いところは「恥をかいても恥ずかしくないところ」

九州大学名誉教授(元理学部長)
稲津 孝彦
担当ゼミ「口頭、文章による自己表現」

 大学は「こんな事を言ったら、尋ねたら笑われはしないか」など気にせずに発言、質問できるところです。
 ゼミでは実際にハガキを送って事務連絡文を書くことを学んだり、一つのテーマでレポートを書き、次には最初の主張とは全く反対の立場からの主張をして貰っています。
 勿論口頭でも主張して貰いますが、単に抽象的な理想論、批判だけでなく具体的な提案(例えば予算の裏付け)をお願いしています。
 最後には十五分程度自分で選んだテーマでの発表、それに対する質疑応答をしています。積極的に発言、主張することによって将来学問を進めて行くのに必要な「聞く、話す、書く、討論する、纏る、発表する」ことの最初のところを学んで貰おうと思っています。

(いなづ たかひこ)


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