チョン ソウル大総長の言葉に
国際交流を想う
理事・副学長 柳原 正治

 「国際交流」には、大きく分ければ、国際共同研究、学生交流(九大生の海外派遣と外国人留学生の受入れ)、それに国際開発協力、という三つの分野がある。このいずれの分野についても、九州大学は、「アジア指向」という基本方針の下に、アジアの有力大学との連携を強めるための、さまざまの施策を計画し、実行している。
 本年四月七日に行われた入学式の来賓として、チョン・ウンチャン ソウル大学校総長を招聘し、祝辞をいただいたのも、そうした施策の一つである。九州大学にとって入学式に外国の大学の総長に来賓としてお越しいただいたのは初めてのことであり、またチョン総長にとっても、日本人の学生を前にお話をされたのは初めての体験であるということであった。
 チョン総長の祝辞はまことに感銘深いものであった。それは、日韓の「過去のつらい歴史を教訓として…人間と社会に対する肯定的な価値観を強固に保ち、他者への配慮を欠かさない共生の徳目を生活の中に組み込んで」ほしいという主張であった。「開かれた心を持つ世界人であれ」という呼びかけも同じ趣旨である。そして、チョン総長は、十八世紀初めの朝鮮通信使申維翰と雨森芳洲との「誠信の交わり」の例を挙げられ、長い歴史の中で福岡にはつねに新しい文物が流入してきていたのであり、九州大学が「共存共栄の新しい世紀を作り上げるアジアの宝庫」であると信じている、とも発言された。
 九州大学が「アジア指向」を国際交流の基本方針として挙げるとき、わが国が近代においてアジアの諸国に対してなしてきたことを忘れてしまって、それらの諸国と新たな関係を結ぼうとしても、できるものではない。" We forgive, but we don't forget." (わたくしたちは赦す、でも忘れはしない)という言葉の重みを十分認識した上でなければ、アジアの人々との真の交流は、今後もあり得ないであろう。チョン総長の祝辞はそのことを、実に慎み深く、しかし、明瞭に伝わる形で、そしてなによりも、未来志向的な形で、九州大学の新入生たちに示して下さった。
 九州大学の学生たちが「開かれた世界人」となること、そして、九州大学自身が「開かれた世界の大学」となることこそが、国際交流の究極の目標である。

(やなぎはら まさはる 国際法・国際法史)
入学式で祝辞を述べるチョン総長貴賓室で役員との懇談風景

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