工学研究院 地球資源システム工学部門における教育研究プログラムの国際化
工学研究院地球資源システム工学部門 教授 糸井 龍一
@ 第1回国際地熱研修コース(1970年)の研修員と大学関係者。(国際地熱研修コースは1989年に終了し、1990年からはアドバンストコースへ、さらに2000年には地熱エネルギーと環境科学コースへと改組された。)
 地球資源システム工学部門では過去三〇年以上にわたり国際協力事業団(JICA:Japan International Cooperation Agency)、現(独)国際協力機構の地熱資源および石炭資源の利用開発に関する研修教育プログラムを約四百八十名の途上国の技術者や研究者を対象として実施してきた(写真@、A)。これらのJICAプロジェクトを通じて培われた教育研究の経験をベースにして、本部門では学生を含めた形での様々な海外プロジェクトが進行中である。
 それらの一端を紹介したい。


A 第2回地熱エネルギーと環境科学コースの終了式(2001年)。
学部学生の海外実習
 当部門の学部三年生は、夏期休暇を利用し国内外の地下資源関連の産業の現場での実習を行っている。現在、我が国で消費する石油や石炭などのエネルギー資源および鉄鉱石をはじめとする鉱物資源の大半は海外から輸入されており、資源技術者の活躍の場が国内から世界へ広がっている。このような背景のもと、一九八七年に一名をオーストラリアの鉄鉱石鉱山の実習に送り出したのを皮切りに、同国の石炭鉱山、ニュージーランドの地熱研究施設、フィリピンのドロマイト鉱山、石油関係のサービス会社であるシュランベルジャー社へと実習の場は広がり、これまでに八十四名の学生が海外実習を経験してきた。海外実習を希望する学生は、三年前期が始まると同時に担当教員から英語の個別指導を受ける。そこでは現地での生活に必要な英語力をはじめ実習先での専門分野についての説明を理解でき、さらに実習後に提出する報告書作成と実習発表に必要な情報の収集ができるような専門知識に関する英語力を身につけることが要求される。海外、特にオーストラリアにおける鉄鉱石・石炭鉱山の露天採掘は極めて大規模であり、ひとすくいで百トンもの石炭を掘ることのできるドラッグライン(大型のショベルとクレーンを組み合わせた掘削機)や二百トン積載のダンプトラックが走り回る現場では、資源開発のスケールの大きさと資源産業の魅力を体感することができる(写真B、C)。

Cドラッグラインの操縦席に座る学部3年生。Bオーストラリア・露天掘り鉱山におけるドラッグラインの見学。
Eたまたま開かれていたクウェート大学工学部の大学説明会に参加。右端の民族服はクウェートの大学生。D世界第2位の埋蔵量を誇るブルガン油田の石油井掘削現場を見学した大学院生。
学生交流と研究教育プログラム
 さらに今年の三月には中東のクウェート大学石油工学科との学生交流を開始し、三名の修士課程の学生が短期間ではあるがクウェート大学に赴き教員と学生を前に研究成果の紹介を行った。現地ではブルガン油田(埋蔵量が世界第二位の巨大油田)、イラク侵攻により破壊された精油所跡、クウェート石油会社を見学し、中東の石油産業を目の当たりにすることができた(写真D、E)。中東諸国は多数の留学生を欧米へ送り込んでいるが、二〇〇一年九月十一日に米国で発生した同時多発テロ以降、特に米国で学ぶ中東諸国からの留学生は学業半ばで帰国せざるを得ない状況が生じている。これまで高等教育を受ける場として欧米一辺倒であったが、今回の事件を機にアジアへ向かう動きが出てきている。
 本部門では現在、インドネシアの二つの大学との間で研究教育プログラムを実施中である。まず理工系の総合大学として高い評価を受けているバンドン工科大学(ITB)との鉱山開発に関する教育研究プログラムである。本プログラムは九州大学教育研究プロジェクトにも選ばれ、二〇〇二年に修士課程の学生一名が半年間ITBにおいて共同研究を行い、インドネシア語による専門科目の学部講義を聴講し、一名が首都ジャカルタの南に位置するポンコール金鉱山においてITBの大学院生と共同で地圧測定の現地計測を実施した。さらに、二〇〇三年には四名の大学院生が四週間にわたりカリマンタンのKPC石炭鉱山において開発の環境負荷を軽減するリハビリテーション計画、岩盤調査に関する現地測定をITBの学生と共同で実施している。また二〇〇二年九月には当部門との共同ワークショップをITBで開催し、部門の三名の教員と三名の大学院生が参加し、研究発表を行った。ITBとの共同ワークショップは二〇〇三年からは開催地を九州大学に移し、本年も十二月に開催予定である。

JICA高等教育プロジェクトへの参画
今ひとつは、JICAの高等教育プロジェクトであるアセアン工学系高等教育ネットワークプログラム(AUN /SEED-Net(ASEAN University Network/ Support for Engineering Education Development))である。本プロジェクトは工学の種々の分野においてアジア諸国の主要大学(十カ国十九大学)の教育研究レベルの向上を日本の大学との緊密な連携を基に推し進めることを目的とし、二〇〇一年に開始された。地質工学・資源工学分野では当部門のカウンターパートにインドネシア国のガジャマダ大学地質工学科が選ばれ、東南アジア諸国の大学の関連分野の優秀な学部卒業生をガジャマダ大学の修士課程へ派遣し、同時にガジャマダ大学の教員が九州大学で博士号取得を目指すものである。また短期間ではあるが、部門の教員がガジャマダ大学に赴き講義を行っている。

 教員に大学院生を含めた形での共同研究や学生自身による海外での研究発表や海外実習は、学生にとって国際感覚を培う事ができるまたとない機会である。さらに専門性を通じた経験は卒業後に海外で活躍する機会が出てきたときに大きな自信となる事は間違いない。我々の部門としては、このような活動を今後とも積極的に推し進めると同時に、共同研究を通じインドネシアをはじめとする東南アジア諸国の大学の地球資源および環境工学関連分野との連携を深め、相互に教育および研究レベルの向上を目指したいと考えている。

 (いとい りゅういち 貯留層工学)

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