水素エネルギー社会実現に向けて
「福岡水素エネルギー戦略会議」設立

 産業界、大学、行政が連携して、安全で環境にやさしい水素エネルギー社会の構築を推進することを目的とする「福岡水素エネルギー戦略会議」(会長:八木重二郎新日本製鐵(株)代表取締役副社長、副会長:渡邉浩之トヨタ自動車(株)専務取締役、有川節夫九州大学副学長、会員:百四十四企業・機関)が、八月三日(火)設立されました。

 設立の背景には、エネルギーの八割以上を輸入している日本の現状や、地球環境保全の面から地球温暖化ガスの削減が急務であることなどがあり、また、究極のクリーンエネルギーと言われる水素利用技術の研究開発で日本で唯一「二十一世紀COEプログラム」に採択された九州大学があること、新日本製鐵など副生水素を発生する企業をはじめとする多様な産業の集積があるなどの福岡の強みがあります。
 戦略会議では、今後、人材育成を含めた水素利用技術開発や、活用促進など実証活動支援、関連産業の集積や普及啓発などを行っていくとしています。

 九州大学は、このプロジェクトで大きな役割を担っています。
 戦略会議の技術開発支援では、九州大学の「水素利用技術研究センター」が中核的拠点施設と位置づけられており、実証活動支援では、九州大学新キャンパスを水素利用のミニモデルとする「水素キャンパス」プロジェクトを積極的に支援することが謳われています。総会では、戦略会議の方向性確認のために、工学研究院の村上敬宜教授から、「水素利用社会の実現に向けて」のプレゼンテーションが行われました。

(参照 「九大広報」第三十六号十八頁


設立総会の冒頭挨拶をする麻生渡福岡県知事
麻生渡福岡県知事の挨拶

 本戦略会議の設立に際しては、九大の梶山総長と一緒に広範な産業分野の皆様によびかけたところ、多くの賛同が得られたこと、また多くの九大の先生方にご協力いただけることを、感謝申し上げたい。水素エネルギー研究に関する九大の高い水準、鉄鋼や化学など副生水素を発生させる企業が周辺に多くあり、使い方が課題になっていること、製造業や自動車産業などの発展と集積があることなどの可能性を組み合わせて、福岡県を水素利用技術の拠点とするとともに、全国レベルの貢献を目指したい。



「水素エネルギー社会の形成に向けて」
プレゼンテーションを行う工学研究院の村上敬宜教授
梶山千里総長の挨拶

 二十一世紀のエネルギーである水素を利用する社会実現には未知の部分が多く、研究開発はいろいろな切り口から攻めていく必要がある。九州大学では村上敬宜教授を中心とする「二十一世紀COEプログラム」で着々と研究が進んでいるし、「水素利用技術研究センター」を設け新キャンパスを水素キャンパスにしようというプロジェクトも動き始めている。九州大学全学を挙げて、研究・開発に取り組みたい。



拡大する 組織対応型産学連携

 九州大学の進める組織対応型(包括的)産学連携の動きが加速し、分野が拡大しています。七月には三件、八月にも一件、特色ある連携の発表がありました。


文系初の、人材育成を目的とした連携
「九大TOTOビジネス・カレッジ」

 九州大学ビジネス・スクールの講師陣による、東陶機器株式会社(TOTO)の選択型研修です。TOTOで最低十年以上の職務経験を持つ中堅社員から若手課長層を対象として、次世代、次々世代の経営を担う人材育成を目的として、MBA教育レベルで行われます。
 ビジネススクールでは、今後も、相手に合わせたいろいろな形のテーラーメイドの教育を検討する意向です。



@大橋キャンパスのスタジオで行われた記者発表

初のサービス産業
「電通九州」との連携協力

 「知」の創造の場でありデザインの拠点でもある九州大学と、コミュニケーション・エクセレンスを掲げる電通九州が連携して、「イノベーティブ・コミュニケーション」をキーワードとして、これまでにないデザインやコミュニケーションの世界を開拓し、九州・アジアにおけるこの領域の発展に寄与しようというものです。(写真@)



A合同記者発表の模様。
左から小寺山理事、梶山総長、井上NTT取締役、江洲NTT西日本取締役

初の情報通信分野の連携、NTT及びNTT西日本としては初の本格的包括連携

 持ち株会社として主に研究開発を行うNTTと、事業展開を行うNTT西日本との三者による、知の創造から応用まで、技術的観点から事業化を視野に入れた社会的観点までを含む、文理融合型の、新しい創造研究の展開を目指す包括的連携です。
 七月二十七日(火)の記者会見で、「なぜ初の包括連携を九州大学と?」との質問に、NTTの井上取締役は「包括連携の蓄積があり、文理一体となって対応していただける点に魅力を感じた」と答え、梶山総長は「九州大学の総力を挙げて対応したい」と述べました。(写真A)



B右から、契約調印に同席した江藤輝一日本電子(株)取締役会長兼CEO、梶山総長、秋元秀紀日本電子データム(株)取締役社長

ナノテク産業化促進を中心にした研究・技術サポートサービス「日本電子データム」

 高級精密理科学機器の日本電子(株)のサービス部門から独立し、電子顕微鏡のエンジニアリングサポート事業などを行っている日本電子データム(株)にとって初めての大学との大型連携。九大超高圧電子顕微鏡室の教育研究機能と日本電子データムの最先端分析技術・サポート機能の連携により、学内研究者及び「福岡ナノテク推進会議」を中心とする地域産官学の教育研究の高度化、九州・アジアを中心とした地域産業に対する研究・技術サポート事業の構築を図ります。(写真B)



上記以外の包括連携契約企業・西部ガス(株)・大日本インキ化学工業(株)・三菱重工業(株)技術本部・(株)大島造船・日本ゼオン(株)・三井造船(株)


知的財産本部から
組織対応型共同研究の活性化に九大オリジナルスタイルを

知的財産本部 リエゾン部門 サブリーダー 前田 真

 企業と大学の組織対応型共同研究は、新しい産学連携の取り組みのひとつです。今や全国的に多様な組み合わせが発表されており、企業と大学との連携形態として広く認識されるまでになりました。九州大学では、この組織対応型共同研究に九大オリジナルともいうべきシステムを導入し、学内の更なる学術的な活性化を図り、効率的な産学連携の推進を行っています。


組織対応型(包括的)連携とは
 これまでの「共同研究」は、概ね企業の担当部署と九州大学の教員または研究室の間で契約が交わされ、同質的なテーマについて研究開発を実施するものでした。九州大学では、これまでの企業の個々の研究開発ニーズを解決するだけではなく、多種ならびに新規的なテーマに対して、研究目的に沿う最適な研究グループを広く全学的に組織化し、研究要素の融合を図りながら全学横断的に共同研究に取り組みます。これが九州大学の組織対応型(包括的)連携です。


九大オリジナルスタイル
図1
 このような産と学の組織同士による連携は、一般的に包括的連携として全国的な拡がりをみせています。九州大学ではこのような連携をより効率的に推進していくために、プロジェクト運営において特徴的なシステムを導入しています。それは、産学連携に関する専門窓口機能を有する「知的財産本部」とともに、産と学のメンバーにより構成される「連携協議会」によって共同研究全体をマネジメントするというものです(図@参照)。これにより、従来の産学共同研究において課題 となりやすい産と学の研究推進および研究成果イメージ(内容、経費、必要時間などを含む)のギャップを埋めることが可能になりました。
 また、本連携プロジェクトは、企業と九州大学との組織間契約を基本としております。そのため、これまでの産学共同研究では企業と大学の関係が”点と点を結ぶ線“であったのに対し、この連携ではより幅広く”面と面を結ぶ太いパイプ“にすることができます。そのため、九州大学ではこの連携プロジェクトを「組織対応型(包括的)連携」と呼んでいるのです。
 これまでに九州大学のシステムを評価していただき、ここでご紹介した四社を含めて、平成十六年九月三十日現在で十一件の連携が進行中です。

(まえだ まこと)



日本政策投資銀行と組織対応型(包括的)連携に合意

知的財産本部 藤田 美紀

 九州大学と政府系金融機関の政策投資銀行は、平成十六年九月三十日(木)に、組織レベルでの包括的な連携について合意したことを発表しました。九州大学が金融機関と連携するのは初めてで、@自立化した大学法人の経営モデルの構築、A新キャンパスを中心とした学研都市形成の推進、B産学連携、地域連携の推進、およびCアジア等国際展開における連携という、国立大学法人の自立化に向けた様々なテーマでの協力関係構築を計画しています。
梶山総長(左)と大川澄人日本政策投資銀行副総裁(右)
 本連携により、九州大学は日本政策投資銀行の持つ金融・経済を中心とした幅広い知識と経験を活用し、研究・教育の活性化と社会貢献の円滑な推進体制の構築をさらに促進することができます。一方、日本政策投資銀行は、地域社会の自立的発展への貢献等、その業務目的に則して九州大学の持つ幅広い人材、知的財産、信用力、ブランド、ネットワーク等の経営資源を活用し、業務遂行の一層の円滑化と質的向上を図ることができます。
 今後は、十月中に正式な連携契約を締結後、九州大学知的財産本部と政策投資銀行九州支店が中心となって連携協議会を設置し、個別の案件について具体的な検討を進めていく予定です。

(ふじた みき)

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