イギリス、ベルギーの学術研究都市調査

新キャンパス計画推進室 助教授 坂井 猛

 九州大学新キャンパスを核とする学術研究都市づくりを推進する九州大学学術研究都市推進協議会では、十月の財団法人設立を控え、今後の学研都市の整備を適切に推進するため、二〇〇四年七月四日から六日間、イギリス、ベルギーにおける学術研究都市に関する調査を実施しました。
 調査団は、鎌田迪貞氏(推進協議会会長、九州・山口経済連合会会長、九州電力代表取締役会長)、麻生渡氏(福岡県知事)、山崎広太郎氏(福岡市長)、石原進氏(九州旅客鉄道代表取締役社長)、梶山千里総長など十七名。
 一行は、ケンブリッジ大学、ルーバン・ラ・ヌーブ、ロンドン大学学生宿舎、ロンドン大学コートールド美術研究所を訪問し、ヒアリングと意見交換を行いました。ケンブリッジとルーバン・ラ・ヌーブについての報告です。
学研都市調査団

後列左から、馬場迫博氏(九州電力総務部長)、有川節夫副学長、麻生渡氏(福岡県知事)、鎌田迪貞氏(推進協議会会長、九州・山口経済連合会会長、九州電力代表取締役会長)、山崎広太郎氏(福岡市長)、梶山千里総長、1人置いて石原進氏(九州旅客鉄道代表取締役社長)、前列左から4人目が井上隆治氏(福岡市都市整備局大学移転対策部長)、同2人目が筆者の坂井猛助教授。

ケンブリッジ
大学と地域による古都市の環境コントロール

ケンブリッジ
 ケンブリッジは、ロンドンの北約八十kmの距離にある人口十二万人の小都市であり、建物の三分の二はケンブリッジ大学関連の施設です。ケンブリッジ大学が創設されて八百年近く経った今になって、大学を巡る環境の急激な変化に対応するための施策が必要になり、大学と市が一緒になってサイエンスパークや市街地の開発をコントロールしています。いい研究者、いい技術者を集めるためには、手頃な賃貸住宅の件数を増やすことが課題となっています。また、中世以来の曲がりくねった細い道路が多く、中心部に駐車場が整備しにくい現状を踏まえ、都市周辺に駐車場を整備し、利用者が公共交通に乗って市内を移動する方式(パーク・アンド・ライド)や自転車を利用する方式(パーク・アンド・サイクル)などの施策を実施し、歩行者用の空間を増やしています。市街地では、業務用地から住宅・小売店等への土地利用の転換をはかり、新たな開発用地であるウエスト・ケンブリッジには、住宅、研究教育、民間施設等の混合立地を進めています。
 ケンブリッジを中心とする半径約三十kmのシリコン・フェンとよばれる広域には、ケンブリッジ・サイエンスパークをはじめ、情報、医療、バイオなど千四百の企業、研究所が立地し、三万三千人が雇用されています。



ルーバン・ラ・ヌーブ
大学と地域の一体的なニュータウンづくり

ルーバン・ラ・ヌーブ
 ルーバン・カソリック大学は、一四二五年に創設したベルギーを代表する大学であり、フランス語圏の新大学を一九七二年にブリュッセルの南約二十五kmに建設しました。敷地面積九百haであり、このうち大学用地に三五十ha、サイエンスパーク百五十ha、緑地四百haを融合させた大規模なニュータウン開発です。大学用地には、大学の研究教育施設だけでなく、駅舎、商業施設、住宅が立地しています。大学用地の中心部では、最下階を駐車場と駅舎に使用し、上階を歩行者専用空間として確保しています。そこに、スーパーマーケット、雑貨、書店、洋装店、レストラン、映画館などを配置し、さらにその上を大学施設とする、立体的でコンパクトなまちづくりが行われています。現在、夜間人口一万八千人、昼間人口三万六千人の規模となっており、現在、さらに大規模なショッピングセンターを建設中です。周辺には、サイエンスパークが一九七三年より事業を開始しており、多くの企業が進出しています。さらにその周辺には、広大な農村地帯が広がっています。
 大学が中心となって行政と協働し、最初に学生の快適環境をつくったことが、地域の人にも寄与することになり、文化面で地域に貢献するとともに、一万二千人の雇用を創出しています。ルーバン・ラ・ヌーブでは、大学が計画を決定し、大学の土地を事業者に賃貸したことが、土地価格問題などを引き起こさず、結果的に良好なまちづくりにつながっています。



得られた成果と展望

 調査対象は、有名なポテンシャルの高い大学ばかりですが、いずれも大学と地域が一体となった都市整備によって良好な環境をつくっていることは、少なからずサイエンスパークの隆盛に寄与しています。また、ロンドンやブリュッセルなどの母都市と遠く離れた位置が必ずしもマイナスに働いていないこと、周辺からは鉄道等の公共交通によるアクセスの確保が重要であることなど、学研都市の基本的事項に関するいくつかの共通認識が得られました。超多忙な日々を送っている調査団メンバーが、六日間かけて一緒に行動し、学研都市について議論し、人的交流を深めたことも大きな成果であったと思います。九州大学を核とする学研都市づくりの一層の進展が期待されます。

(さかい たける 都市計画、キャンパス計画)


 8月19日(木)、「平成16年度九州大学学術研究都市セミナー」が福岡市の天神で開催されました。
 主催したのは、福岡市西部に建設中の九州大学新キャンパスを中心とする学術研究都市創りを進めている「九州大学学術研究都市推進協議会」で、周辺企業や自治体などから約200名の参加者がありました。
 セミナーでは梶山千里総長が「九州大学の挑戦」と題して、4月の法人化で九州大学はどのように変わり、どのように世界最高レベルの教育研究拠点を構築しようとしているかを説明。続いて有川節夫副学長が、新キャンパス移転の進捗状況と産官学連携の核となるセンターゾーンなどについて説明しました。
 その後、九州・山口経済連合会企画広報部長兼国際部長の平井彰氏が、7月のイギリスとベルギーにおける学術研究都市調査について報告。九州大学学術研究都市推進機構準備会議理事長の石川敬一氏(九電工代表取締役会長)は、新キャンパス周辺地域の土地区画整理事業など、学術研究都市構想の進捗状況について説明し、最後に同準備会議事務局長の吉田須美生氏が、10月に設立が予定される推進機構について説明しました。
 産官学が連携して推進する学術研究都市創りは、財団法人設立と17年秋の新キャンパス一部開校で、新たな段階を迎えることになります。

はじめて九大生が元岡に迎えられた日

農学研究院 助手・NPO法人環境創造舎代表 佐藤 剛史
goshi@agr.kyushu-u.ac.jp

 二〇〇四年八月二十一日(土)、元岡の子どもたちの声が、元岡の九大新キャンパスに初めて響いた。九大生が中心となって設立したNPO法人環境創造舎の「水辺の生き物しらべワークショップ」に、地元元岡の子どもたちとその父兄、約三十名が参加してくれたのだ。
 子どもたちは学生と一緒に泥だらけになって、田んぼやため池、川の生き物をさがした。土ガエルやスジエビ、ハイイロゲンゴロウ、メダカ、コオイムシ…子どもたちは、生きものを見つけるたびに、その生き物を手に学生の元に駆け寄ってきた。そしてその生きものの名前や特徴を聞き、自慢げに友達にその生きものを見せていた。川の大きな石を力を合わせて持ち上げ、その影から、二十五センチ以上もあるモクズガニが出てきたときには、学生や父兄からも歓声があがった。
 その後行われた交流会の場で、子どもたちや父兄の感想を聞いて分かったことが二つある。一つは、その日の元岡からの参加者のほとんどが九大新キャンパスに初めて足を踏み入れたこと。もう一つは、こうして新キャンパスに入れたことや、九大生と交流できたことをたいへん嬉しく思ってくれたということ。
 その一方で、こんな声も聞いた。「九州大学は一流大学やけん、なかなか近寄りがたい」。元岡の人々は、こんなイメージをもっているし、漠然とした不安も抱えているようだ。
サワガニがたくさんとれた。大原川がきれいな証拠。どういう環境にどんな生きものがいたかな?模造紙にまとめて確認。みんなで生きものを探そう。ほら、その石の下に…

 来年の秋には、九大の第一陣が元岡に移る。こうした不安は、それから取り除くのではなく、今のうちから、信頼関係を構築しておくべきだろう。そうすれば、九大はよりスムーズに地元に迎えられるはずだ。今回のこの取り組みは、その第一歩となったに違いない。そして二歩目、三歩目を元岡の人々と手を取り合って歩むことを約束して帰途についた。
 帰り際、あるお母さんが学生にこう言っていた。「九大生が来るから、ちょっとおめかしして来たのに、おめかしして損した」。この日、最高に嬉しい言葉だった。

(さとう ごうし 農業経済学)


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