総長からの歓迎の言葉


九大人たちへ

九州大学総長 梶山 千里

 長い間の努力を実らせた皆さん、九州大学へようこそ。そして皆さんを物心両面から支えて来られた多くの方々へ、心からお祝いを申し上げます。
 皆さんは、九州大学で何をしようと思っていますか。
 私はまず「勉強しなさい」と申し上げます。皆さんが合格した九州大学は、なによりも勉強するところであり、「のんびりと過ごせる大学」ではありません。優れた先生方の努力と工夫によって、九州大学の教育は非常に充実しています。あとは皆さんが熱意をもってそれをどう活かすかです。
 皆さんには、よい社会人であっていただきたい。選ばれた者としての誇りを持つと同時に、多くの人々が支え合って構成する社会の一員であるという自覚を忘れないでいただきたい。
 サークルに入り、よい友をつくってください。そこでは、先輩や後輩、OBたちとの付き合いによって「社会」を経験し多くを学ぶことになるでしょう。サークル活動で得た友や経験は、将来あなたの人生の様々な場面でかけがえのない宝となっていることに気づくでしょう。
 日本語に親しんでください。本や新聞を読みなさい。日本語の力は、あなたがこれから何を専門としてどこで働こうとも、学問を深め能力を伸ばすための基本です。
 桜咲くキャンパスで、瞳を輝かせた皆さんと会う日を楽しみにしています。

(かじやま ちさと 高分子化学)


学部長からの歓迎の言葉


はパンのみにて生きるにあらず

文学部長 川本 芳昭

 人間は何らかの価値、あるいは普遍性を追求することなくしては生きてゆくことのできない存在です。新入生諸君は桜の花を美しいと思われたことがあるでしょう。子供の頃から私もそう思ってまいりました。しかし、大学に合格したとき見た桜は、ひとしお鮮やかなものでした。その美しさは、前年の雨量が多かったからといったような科学的原因のみによるものではなかったでしょう。私は自分の母がこの世から旅立ったとき、満開の桜を見ながらその美しさの中にある哀しみというものを体験したこともあります。そしてそのときから、それまで自分の外にあった桜というもの美しさが、自分の内側に入ってきたことを知りました。これは人間にとって普遍性を追求することの意味の一端を示しています。文学部はこうした人生における「価値」や「普遍性」について学ぶところです。新入生諸君のご奮闘を期待しております。

(かわもと よしあき 東アジア古代中世史)


ンチはチャンス

教育学部長 稲葉 継雄

 政府・与党サイドでは、教育の憲法である「教育基本法」の書き替えが声高に叫ばれ、文部科学大臣は、先進諸国間での日本の児童・生徒の相対的「学力」低下を受けて、いわゆる「ゆとりある教育」の象徴である「総合的な学習の時間」の見直しを示唆しています。これは、今日の日本教育が多くの問題点を孕んでいるからに他なりません。その意味で教育界は今、一種のピンチです。
 しかし、戦後六十年の節目に、歴史と現実を踏まえた処方箋が教育学・教育心理学に要請されている、したがって研究テーマは無限にある、という意味ではチャンスでもあります。
 わが九大教育学部は、世界的にも稀な小規模学部で、入学定員四十九名に、三十三名の専任教員(教授・助教授・助手)と多くの非常勤講師が対応します。スタッフ一同、学生諸君の多様なニーズに応えられるものと自負しています。

(いなば つぎお 比較教育学)


奇心をもって試行錯誤する学生生活を

法学部長 植田 信廣

 イラク問題を挙げるまでもなく、二十一世紀を迎えて、世界も日本も厳しい危機に直面し大きな転換点に立たされています。このことは皆さんも日頃肌で感じていることでしょう。他方で、このような危機の時代は社会全体が新たな大変革へと向かう希望の時代でもあり、法学・政治学への期待が高まり、その真価が問われる時代でもあります。
 では、そんな時代に法学部に入学した皆さんは四年間脇目もふらずに法学・政治学の勉学に励むべきか。私が皆さんに望むことは少し違います。一見、遠回りのようでも、大学時代には人間や社会に対する飽くなき好奇心をもって、時には脇見もしながら、失敗を怖れず試行錯誤を続けることのほうが、多くの場合より実り多い結果につながるからです。あまり早くから特定の専門にとらわれた勉学ばかりしていると、頭が窮屈になって肝心の法学・政治学を真に理解する力も身に付かない恐れすらあります。
 まずは、貪欲に専門以外の学問世界や現実世界にも目を向けて、自らの視野の拡大に努めてください。文学や芸術に親しんで豊かな知性・感性を養ってください。危機の時代を切り開く法学・政治学への展望はまさしくそこから開けてくるはずです。

(うえだ のぶひろ 日本法制史)


「たこつぼ」から出よう

経済学部長 荻野 喜弘

 経済学部への入学おめでとう。晴れやかな気持ちで入学式を迎えたことでしょう。
 さて、皆さんの中には「受験オタク」の経験者も多いと思います。受験中心の生活で、いわば受験という「たこつぼ」の中で、自分だけの目線で世の中を見てきたというひとです。
 大学ではそのような自分中心の「たこつぼ」からの脱皮が重要です。他者の目線で自分を見つめるという「メタ(高次)認知力」が求められます。そのためには、自己と他者との対話、さらには自己内対話が必要になります。対話の基礎となるのが教養です。大学はその教養を磨く場所なのです。
 教養を磨く手段として読書をお勧めします。現代の学生に決定的に不足しているのが読書です。文庫、新書などを一.二週間に一冊位読んでみてはどうでしょう。一年間で約三〇冊の本が読めます。そうすれば「メタ認知力」が高くなっているはずです。

(おぎの よしひろ 日本経済史)


来を拓く君となれ

理学部長 小田垣 孝

緑萌え出づるこのときに
新たな道を目指すもの
新たな夢を育みて
未来を拓く君となれ

心ときめくこのときに
果てなく続くその夢の中で
新たな道を見定めて
未来を拓く君となれ

陽光みつるこのときに
学び、考え、その道を歩み
新しき知と活力を培いて
未来を拓く君となれ

希望輝くこのときに
意志と力でその道を拓き
新たな若い生命をかけて
その先の理学を拓く君となれ

(おだがき たかし 理論物理学)


は強勉に在るのみ。

医学部長 金出 英夫

 入学おめでとうございます。
 諸君には、九州大学医学部の輝かしい歴史を継承し、世界の医学研究と医療の最先端にあって、多くの人々に幸せをもたらす、素晴らしい医学者や医師になって欲しい、と希望します。
 「士を養うは太學より大なるは莫し 賢士を養うには太學(都の天子直属の学校)以上によいところはない」という董仲舒の言葉があります。九州大学医学部は「太學」です。諸君が医学者や医師として大成するための機会にあふれ、環境が整っています。良い師と友人を得て、真の学問に大いに取組んで貰いたい、と切に願います。同じく董仲舒の言葉「事は強勉に在るのみ」 何事も、ただ勉強することによって、成否は決定します。自分の為です、大いに勉強してください。
 是非とも付け加えたい一言 喫煙を始める学生がいます。喫煙は本人のみならず、周囲の親しい人々の健康をも損ないます。医学を志す諸君に喫煙習慣は禁物です。

(かないで ひでお 分子細胞情報学、循環分子薬理学、循環器内科学)


十一世紀の歯学の担い手に

歯学部長 山本 健二

 新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。九大歯学部は発足以来今日まで日本の歯科医療の発展に多大な貢献をするとともに、世界に誇る輝かしい研究業績を多数残してきました。皆さんには、本学部のこうした伝統を生かしながら、さらに新しい発展を成し遂げてもらいたいと思います。皆さんは目的達成のためにこれまで多くのことを学んできたと思います。その知識を大学での学びの中にしっかりと生かして下さい。これからの6年間は、皆さんが人間としての優しさや心豊かさをしっかりと育て、九大生として自らの責任と使命を自覚した期間とならなければなりません。
 今、大学とそれをとりまく環境は大きく変化をしています。こうした中、私たちはこれからも歯科医学の中核拠点としての機能を果たすべく、歯学部、歯学研究院、歯学府が一体となって一層努力をしていきます。私たちは、歯科医療に情熱をもち、歯科医学に「知」の創造と発展をもたらしてくれる皆さんの若い力を大いに期待しています。

(やまもと けんじ 歯科薬理学)
※山本健二歯学部長の任期は三月三十一日で満了となり、四月一日には赤峰 昭文(あかみね あきふみ)歯学研究院教授が歯学部長に就任します。


り口と出口

薬学部長 正山 征洋

 皆さん入学おめでとう。薬学部は来年度から六年制学科を設置するため戸惑うかも知れませんが、従来どおりですので心配は無用です。さて、あなた方の忍耐力、持続力、判断力、瞬発力、洞察力、包容力等はどうでしょう。現代の若者はこれらが一様に低下していると感じています。優秀な成績で入学したあなた方の入り口はばら色に満ちています。ところが本当に大切なことは出口です。入学時の学力はほぼ同等ですが卒業時には雲泥の差が付く人も珍しくありません。学生時代は色々な力を蓄える時期です。従って学生時代をエンジョイしようと考えている人は間違っています。学部の四年間、引き続いて大学院の二、三年間はのんびりする暇は無いと覚悟すべきです。ただし心休まる時間も大切で、自由な時間は集中力により、また努力して自分で作り出すものだと考えて下さい。入学当初からこつこつ努力した人にのみ充実したばら色の出口が待っています。力をつけて世界へ羽ばたかれんことを念じています。

(しょうやま ゆきひろ 薬用資源制御学・生薬学)


体的に、積極的に、そして新たな九大の歴史を。

工学部長 大城 桂作

 入学おめでとう。将来への夢と希望を胸に、学生生活への大きな期待を持って九大生としてのスタートを切ったことと思います。大学は、諸君が選んだそれぞれの分野でプロとして生きていく上で必要とされる学問を高レベルの内容で提供しますので、しっかり学んで下さい。一方、学生時代は自由な時間がかなり多くあり、知識を拡げ、人間として大きく成長する時期です。他(友人、社会、自然、書物など)との交わりを通して、豊かな人間性を育み、しっかりした価値観を持つことを望みます。主体的に、積極的に物事に取り組み充実した生活を送って下さい。また、工学部は本年十月から元岡の新キャンパスで専門教育を開始します。新規の興味深い研究も計画されており、国内外の研究者を交えて活発な教育・研究活動を展開します。恵まれた自然環境の中、計画に沿ってすばらしい学術研究都市が築かれます。共に新たな九大の歴史を創りましょう。

(おおぎ けいさく 材料加工学)


くの種を蒔く

芸術工学部長 佐藤 陽彦

 日本が誇れるものの一つに、観阿弥の口述を世阿弥が記録した『風姿花伝(花伝書)』があります。「花を知ること」を重要視したこの書は能楽の単なる芸術書に留まらず、人間の本性を洞察した観阿弥の人生論でもあります。その「年来稽古条々(年齢別の稽古のしかた)」の十七八(数え年)よりのくだりには「心中には願力を起して、一期のさかひ(大事な際)ここなりと、生涯にかけて、能を捨てぬよりほかは、稽古あるべからず。」とあり、二十四五は「このころ、一期の芸能のさだまる初めなり。さるほどに、稽古のさかひなり。初心と申すは、このころのことなり。いよいよものまねをも直にしさだめ、名を得たらん人に、ことをこまやかに問ひて、稽古をいやましにすべし。」の時期です。すると、三十四五で「このころの能、盛りの極めなり。」となります。種を蒔けば必ず花が咲くとは限りませんが、種を蒔かなければ花は開きません。将来立派な花を咲かすべく、これからの大学生生活で多くの種を蒔くよう努めて下さい。

(さとう はるひこ 人間工学)


ジアへの道

農学部長 江頭 和彦

 新入生諸君、農学部への入学おめでとう。心より君達を歓迎します。
 君達がこれから学ぶ農学は、自然科学から社会科学まで幅広い学問分野から成ります。その中で私は土壌学を専門としています。私はアジアへ出かけるのが好きです。これまで韓国、中国、越南、泰国など数多く回ってきました。土壌学の目で広くアジアモンスーンの土を見てきました。土地利用を調査し、土砂災害を巡検します。その傍ら、そこで生きる人々の生活文化を見てきました。市場に出かけて農産物の生産状況を知り、農家を訪問して人々の生活に触れ、小学校を見学して子供達の無限の可能性を秘めた笑顔に接します。昨年十一月初め、バングラデシュ国ダッカで、二〇〇二年に創立された私立大学を訪問しました。そこで出会った女子学生の目の輝き、知的好奇心と学問への渇望を羨ましく感じました。九州大学農学部で学ぶことのキーワードの一つは「国際性」です。広くアジアへ目を向けて、農学への道を歩まれることを期待します。

(えがしら かずひこ 土壌学)
※江頭和彦農学部長の任期は三月三十一日で満了となり、四月一日には今泉 勝己(いまいずみ かつみ)農学研究院教授が農学部長に就任します。



先輩からのメッセージ


たなスタート地点に立つ

トヨタ自動車九州株式会社 総務部人事室勤務 主事(係長) 矢頭 英典

 九州大学にご入学おめでとうございます。
 皆さんは今ほっとされている事と思いますが、大学に入学する事が目標で止まっている方はいませんか?大学は社会人へ向けたスタート地点でもある事をしっかり認識頂きたいと思います。私は昨年より九州大学のビジネススクール(QBS)に通い始め、ゼミでアジアビジネスを学んでいます。これは仕事上中国の優秀な人々と交流する中で、自分の認識や知識の不足を肌で感じるようになり、再度スタートを切り、アジアビジネスに強い人材になりたいと考えたからです。
 皆さんにはこれから少なくとも四年間という時間があります。その時間の中で是非「自分がどのような社会人になり、その為に今何を為すべきか」を早いタイミングでよく考えてみて下さい。その為に、大学生活の中で大いに学び、国内外の多くの方と接して下さい。アジア諸国に最も近い九州の地で、大学生活を社会人へ向けたすばらしいスタート地点にしましょう!

(やず ひでのり 平成五年経済学部経済工学科卒業)


悔のない大学生活を

FBS福岡放送 報道部記者 今村 健太郎

 入学おめでとうございます。文学部で中国文学を学んでいたOBです。卒業後ずっとニュース取材やドキュメント制作に携わっています。今は事件モノや医療担当です。こう書くと中国文学と何も関係なさそうですが、在学中の研究は少なからず影響していると思います。音読すれば十五秒弱の漢文を百科事典のような辞書をひいて何時間も読み込み、こめられた思いを解釈する。何度も繰り返した経験は、視聴者の知る権利に応える番組をめざし一つ一つの取材を丹念に積み重ねていく上で…というのが表向きで。思い返すと、研究やバイトに小説書いたり合コンしたりと、自分の思うまま計算もなく毎日忙しくしてたなと。高校までみたいに周りが決めることが一気に減った記憶が一番強いです。間違いなく言えるのは「世間がこれだけ自由に時間を使うのを許してくれる時はない」。学ぶもよし遊ぶもよし、無駄に過ごすのもアリでしょう。何をするにしても後悔しない四年間であることを祈ります。

(いまむら けんたろう 平成八年文学部中国文学専攻卒業)


分だけの○を探して

サントリー株式会社 デザイン部 アートディレクター 水口 洋二

 入学おめでとうございます。現段階ではこの大学で○○○を学び、将来○○○の道に進むといった具体的な○○○が無い方が多いと思います。私自身、現在はアートディレクターとしてサントリー製品のコンセプトやデザインの開発をしていますが、入学した時点では○の中は全くの空白でした。大学の4年間ですこしづつ○の中を埋めていきました。もちろんたった四年で○の中が埋まる訳ではなく就職してからもその作業は続いています。○の形は日々色々な刺激を受けて変わり続けています。現段階で○の中は詰まっていなくて当然だと思いますが、漠然としていても良いのでなるべく一杯入る大きな○を用意してください。そして好奇心を持って色々な事に挑戦して○の中に色々なものを詰め込んでください。魅力的な○になるように有意義な大学生活を過ごしてください。

(みなくち ようじ 平成元年九州芸術工科大学 芸術工学部画像設計学科卒業)


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