ロンドン・オフィス便り

 今回は、英国の大学について簡単にご紹介したいと思います。

 英国の大学は、数少ない例外を除き、基本的に日本の国立大学法人に近い組織です。一番古い大学はオックスフォード大学とケンブリッジ大学です。共に八百年近い歴史を持っています。スコットランドでは十五〜十六世紀にまでその歴史が遡ることができる、エディンバラ大学やセイント・アンドリュース大学などがあります。これらの大学は一般的にはAncient Universities(伝統的大学)と呼ばれています。

 産業革命にて増強された国力により十九〜二十世紀初頭期にかけ、civic,red brick universities(都市大学、赤レンガ大学)の設立が相次ぎました。バーミンガム大学、マンチェスター大学、リーズ大学、ロンドン大学等がこれに相当します。ここまでをOld Universities(古い大学)と呼んでいます。その後一九六〇年代には、ウォリック大学やヨーク大学等が誕生し、一九九〇年代にはポリテクニックや高等教育カレッジが大学に昇格し大学数は一気に増加しました。これらがNew Universities(新しい大学)です。

 最新の資料によると、英国全土の高等教育機関は百十六の大学および五十三の高等教育カレッジからなっています。大学進学率は四十%を超えた所と見られていますが、現在の英国政府は将来的に五十%の大学進学率を目指しています。しかしながら、高等教育機関数および学生数の伸びに政府の支出が追いつかない状況であり、このところ、学生一人当たりの公的支出が減少しています。これはとりもなおさず、大学を中心とした高等教育機関の財政難を招いています。この財政難を克服するために、英国の大学は産学官連携の強化、留学生数の増加、地域大学間共同購入コンソーシアム、共同コンサルタント・コンソーシアム、他大学との共同研究提携、授業料の値上げ等、いろいろな方策を実施しています。

 日本の国立大学も国立大学法人となりましたが、日本の大学同士で競争して、足の引っ張り合いにでもなったら国力が消耗してしまいます。勿論ある程度の競争は不可欠ですが、真の競争相手は世界の一流大学ですので、国立大学法人間の連携も必要となってくるでしょう。英国の大学では、大学間の競争はありますが、メリットがあれば他大学との連携活動も行っています。勿論、英国の大学の試みがすべて成功しているとは限りませんが、国立の大学法人として長い歴史に基づく経験は、日本の国立大学法人にとっても参考になると思います。

オックスフォード

 最近、オックスフォード大学では初の外国人総長、ケンブリッジ大学では初の女性総長が誕生するという、八百年の伝統を破った出来事が起こりました。学内では多くの反対もあったと想像されます。しかし、意識を含めた改革をしていかなければ、世界に冠たるオックスフォード大学、ケンブリッジ大学といえども、今までに築き上げた世界における地位を、二十一世紀において維持できないとの危機感による大きな決断だったと思われます。

 私が大変高く評価している英国の大学の一つに、ウォリック大学があります。設立は一九六〇年代と新しい大学ですが、英国の大学ランキングでは近年常に七〜八位にあります。トップ五校はオックスフォード、ケンブリッジ、ロンドン大学等が常連で名を連ねていますので、創立四十数年のウォリック大学のランキングは格段の評価と言えます。四十数年前に畑であったところにまったく新しく創った大学ですが、研究、教育、産学連携活動に高い評価があり、またキャンパス内にある劇場、映画館を通じて市民との交流にも熱心に行っています。九州大学では、今年から伊都キャンパスへの移転が始まりますが、私はこの新キャンパスでいろいろな新しい試みができる絶好の機会と見ています。

 大学改革は洋の東西を問わず叫ばれていますが、ある程度の「スピード感」が大事ではないでしょうか。オックスフォード大学やケンブリッジ大学の改革の一例を挙げましたが、英国の大学では改革を積極的に進めている状況にあります。改革は「revolution」であり、あまりにゆっくり進めると、一字違いの、ゆっくりした進化をも意味する「evolution」になりかねません。九州大学が世界の一流大学と肩を並べていくには、「モメンタム」と「スピード感」を持った改革の持続が必要かと思われます。

 英国は伝統を重視する国というイメージがありますが、伝統を重んじつつ、常に改革にチャレンジしている、進取の精神に富んだ国というのが、私が三十年以上住んできた英国に対する率直な感想です。

2005年8月
九大ロンドン事務所所長
山田 直

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