ICキャンパス

 新キャンパスづくりは、新しい教育研究プロジェクトに着手する好機。「水素利用社会の実現に向けた研究」など、全く新しいキャンパス、施設ならではの、二十一世紀型の研究展開が期待されています。その一つ、ICカード導入プロジェクトについて、ご説明します。

全学共通ICカード導入プロジェクト

九州大学全学共通ICカード導入推進室  副室長 安浦 寛人

背景

 九州大学では、大学内の電子化・情報化による学生へのサービス向上と業務の効率化・高度化を推進するため、学生証と職員証のICカード化を計画しています。これは、平成十七年秋に開校予定の新キャンパスを中心に展開する予定の先進的情報社会システムの実用化実験を行うための基盤ともなります。国立大学の法人化に伴いサービスの高度化や学内業務の効率化を進めるとともに、新キャンパスを先進的技術に対する人間科学や社会科学の観点からの議論も含めた総合的な研究・教育の場とし、総合大学として将来の情報化社会の方向性を提案するための構想でもあります。個人情報の保護やネットワーク社会での個人認証など新しい社会問題と正面から取り組むプロジェクトでもあります。

全学共通ICカード

 情報社会の個人の認証基盤として、学生証や職員証として多目的ICカードを導入します。このICカードを中心に、教務サービス、施設・設備の利用、防犯および安全管理、事務の情報化、入構管理さらには、学生や職員に対する商用サービスなどの幅広い応用分野に共通に利用できる個人の相互認証システムを構築します。新しい認証システムは、社会や組織全体の情報管理の安全性の維持と個人情報の保護を両立する九州大学発の技術であるPID(PersonalID)システム(システムLSI研究センターで開発。http://www.slrc.kyushu-u.ac.jp/index-j.htmlと下図を参照)を基本とし、実用的でかつ信頼できる認証基盤を提供します。また、携帯電話などの携帯情報機器に組み込むICカード機能との連携や、周辺地域の活性化のための地域カードへの発展も計画しています。

 平成十八年度四月からの全学的利用開始を目標に、建物への入館、図書館サービス、情報基盤センターの計算機利用サービス、学生の証明書自動発行を最初の提供サービスとして計画しています。特に、新キャンパスの建物の入館管理については、十七年夏の部分的稼働開始を目指しています。

PIDシステムのしくみと特徴

 学生や職員は、種々のサービスや業務の場面で、ICカード化された学生証や職員証を用いて、自分の権利や権限を確認するための認証を行なうことができます。各自のICカードには、非常に長いID番号(PIDと呼ばれ、十進数で十万桁以上)が収められており、これを個人の識別番号として使います。各サービスごとに、PIDの一部(サブPIDと呼ぶ。十進数で八十桁程度)がそのサービスに対する個人の識別番号として割り当てられ、ICカードとサービスシステムの間で相互認証を行ないます。サブPIDは、個人とサービスの対ごとに固有であり、サービスとカードが同じサブPIDを持っていることを確認することで相互認証を行ないます。各サービスは、個人のPIDのうち、そのサービスに割り当てられたサブPIDしか知りません。複数のサービスに利用できる多目的ICカードでありながら、サービスごとに異なるサブPIDを使うので、複数のサービスの利用歴から個人情報を抽出することは難しくなります。また、一つのサービスにおいて対応するサブPIDが盗まれても、他のサービスには影響がないという特徴もあります。これらの特徴から、個人情報の保護を図りながら一枚のカードで複数のサービスに対し経済的に対応することが可能となります。

 大学全体でもPIDを搭載した全学共通ICカードによって、学内の各種サービス業務の電子化・情報化に共通する認証基盤が確立でき、サービスごとの重複した認証基盤への開発投資が不要となります。全学共通ICカードプロジェクトでは、PIDシステムが搭載できるICカードとその発行システムおよび各サービス業務システムとのインタフェースを開発します。サービス業務を担当する部局やサービス業者は、ICカードと各サービス業務用システムの基本インタフェースに接続するだけで、この仕組みが利用できます。

おわりに

 本開発は、新しい情報社会基盤となる技術開発からその応用分野の開拓まで幅広い開発項目を含んでおり、将来的には社会全般に利用される標準技術へと展開することを目的としています。平成十六年二月に共同開発を行なうパートナー企業を公募し、NTT西日本、松下電器産業株式会社、株式会社キューデンインフォコム、株式会社クマヒラ、株式会社エイシーエスの五社とともに共同開発体制を組み、研究開発を進めています。学内では、全学共通ICカード導入推進室(室長:有川副学長)を中心として、事務局、図書館、情報基盤センター、知的財産本部などが協力し、システムLSI研究センターを中心とする研究開発チームが技術開発を進めています。

 全学共通ICカードを利用して、教務サービス、図書館や計算機などの設備・施設の利用、防犯および安全管理、事務の情報化、自動車入構管理、学生や職員に対する各種商用サービスなどの幅広い応用分野におけるサービスの向上と効率化が実現できます。全学共通ICカードの導入を契機として、二十一世紀の新しい社会のあり方を議論できる真の総合大学としての新キャンパスが展開することを願っています。

(やすうら ひろと システムLSI研究センター長・教授)




新たなステップを迎える学術研究都市構想

 九州大学の新キャンパスを中心とした学術研究都市づくりを目的として、産官学が一体となった九州大学学術研究都市推進協議会が設立されたのが平成十年五月。その後、構想の策定、首都圏在住のオピニオンリーダーからなる東京会議の設立などを経て、平成十六年十月、構想の推進母体となる(財)九州大学学術研究都市推進機構が設立されました。

(財)九州大学学術研究都市推進機構の設立

総務部長 大槻 秀明

設立理事会で挨拶する
石川敬一 推進機構理事長
 九州大学が進めている福岡市西区元岡・桑原地区への統合移転計画に伴い、九州大学をはじめ、福岡県、福岡市などの関係自治体、経済界などを中心に、学術研究都市構想並びに推進機構設立が進められてきましたが、平成十六年十月一日に福岡県知事の許可を受けて、本構想の推進母体となる財団法人九州大学学術研究都市推進機構(会長:石川敬一 株式会社九電工会長)が設立されました。この推進機構は、九州大学新キャンパス統合移転計画の進行に伴って、同地域を学術研究都市構想で支援していこうというものです。福岡県、福岡市、(社)九州・山口経済連合会のほか、隣接する前原市、志摩町、二丈町などの出資等で設立されました。今後、九州大学を中心とする同地域の研究機関立地支援や、産官学の共同研究による研究開発支援事業などを行い、分散型地域核開発の具体的開発手法等の検討、タウン・オン・キャンパス地区(学内・学外)の民有施設や産官学連携施設等の誘致などを図っていくこととなっています。

推進機構設立を決めた推進協議会総会で挨拶する鎌田会長
(平成16 年9 月27 日)
 九州大学は、大学院重点化及び学府・研究院制度を取り入れ、新キャンパスへの統合移転を契機に、世界的レベルの研究・教育拠点にふさわしい施設整備を行うとともに、新しい学術研究都市の核となるキャンパスを構築し、地域との積極的な連携を図ることとしています。 このため、移転事業を、九州大学学術研究都市構想や地元まちづくり及び周辺地域のインフラ整備と一体となって進めていくこととして、このほど埋蔵文化財保護や環境対策、国の財政事情などを踏まえて新キャンパス移転スケジュールを見直し、マスタープラン二〇〇一において計画していた従来のスケジュールを具体的で着実な移転スケジュールとしたところです。

(おおつき ひであき)


九州大学学術研究都市推進協議会
推進機構設立までの経緯(役職者は平成17 年10 月1 日現在)
■平成10 年5 月
九州大学学術研究都市推進協議会設立

■平成10 年6 月
構想検討委員会設置

■平成13 年6 月
推進協議会総会で「九州大学学術研究都市構想案」を承認

■平成14 年5 月
推進協議会総会で「九州大学学術研究都市推進機構準備会議設立案」並びに「九州大学学術研究都市構想促進東京会議設立案」を承認

■平成14 年7 月
九州大学学術研究都市推進機構準備会議設立

■平成15 年1 月
九州大学学術研究都市構想促進東京会議設立
(会長:前田勝之助 前東レ株式会社代表取締役会長)

■平成16 年10 月
(財)九州大学学術研究都市推進機構設立
(理事長:石川敬一 株式会社九電工会長)


平成17年9 月にフルオープン

 学術研究都市の核となる新キャンパスを建設している元岡・桑原の丘陵地は、かつてはみかん園であったところです。平成17 年秋から移転が始まる新キャンパスと学研都市の将来像を示すとともに、いまの九州大学を紹介するための施設が、平成17年9 月センター地区予定地に全館オープンしました。

 名称は、みかん園にちなんで「Big Orange ( 九州大学新キャンパス情報発信拠点)」。

 九州大学の産学連携プロジェクト等の展示機能、来訪者向けのインフォメーション、地域資源の紹介・案内、ミーティング・レセプションルーム等を配置します。

電話:092-802-2300


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