設計プロジェクト

伊都キャンパス計画の現在
新キャンパス計画推進室 副室長・助教授 坂井 猛
施設部 整備計画課長 松岡 力

新しい九州大学を実現する舞台として

 九州大学では、大学院の整備・充実による「大学院重点化」を行い、教育・研究、管理・運営、社会との連携など、全分野にわたる改革を「九州大学の改革の大綱案」に沿って進めてきました。こうしてつくられた新しい九州大学像を空間的に実現する舞台として、伊都キャンパスを整備しています。

 一九九一(平成三)年十月に、九州大学が移転を決めた背景として、以下のような要因がありました。

キャンパスが分離していることから、全学教育と専攻教育・大学院教育のスムーズな連携や、共同研究の実施等に障害が生じていること。
施設の老朽化や狭隘化により、教育研究面の高度化や多様化への適応が困難であること、緑地の不足などキャンパスとしてバランスを欠くこと。
福岡空港の延長進入区域であることから、航空機騒音により教育研究に著しい支障を来していること。事故再発への懸念。
箱崎地区で、高層化・集約化した施設を再開発整備することは、航空法上の高さ制限など様々な要因からきわめて困難であること。

新キャンパス・マスタープラン2001

 キャンパス用地と周辺地域に関するさまざまな調査、分析を行い、学内で審議・了承された基本構想や方針を総合して、将来像の共有化を図り、長期にわたる段階的な整備を首尾一貫した考え方で計画的に進めるため、二〇〇一(平成十三)年三月に「九州大学新キャンパス・マスタープラン2001」をまとめました(評議会決定)。これは、大学改革を反映する新キャンパスの基本理念の実現にむけて、土地利用等の空間構成と交通などの骨格形成の方針を示したものです。

専門家参加型のキャンパスづくり

 キャンパス計画は、新キャンパス計画専門委員会を中心として、生態、土木、交通、都市、建築、考古学など、各分野の専門家を入れた学内の教職員約二百名によって、検討しています。また、学生の意見は、ホームページ意見箱、Q&Aや、ライフスタイル・プロジェクトチームの活動などによって吸収しています。

マスタープランに基づく地区別基本設計

 伊都キャンパスは、二七五ヘクタールと広大であるため、地区別に計画を立てていく必要があります。「新キャンパス・マスタープラン2001」に基づき、施設が配置されるアカデミックゾーンを、東から文系、センター、理学系、工学系、農学系に五分割し、地区毎に施設、道路、駐車場、オープンスペース等の配置計画および各施設の概略設計等を行っています。

完成した工学系施設の概要

 ウエスト二号館が二〇〇六(平成十八)年七月に完成し、工学系地区の全容が姿を現しました。二〇〇六年度中には、伊都キャンパスに工学系全体が揃い、学生と教職員が様々な活動を始めます。その特徴は、全国に先駆けて九州大学で実現した学府・研究院制度の理念を空間的に表現したことにあります。建物の低層部に「学部」の空間を配置し、中高層部に「学府(大学院生が所属)・研究院(教員が所属)」の空間を配置しました。これにより、学部学生の利用する講義スペース、情報学習室等のスペースが歩行者専用のキャンパスモール・レベルと一体的になり、講義と講義の間に大量移動する学部学生の動線を処理するとともに、キャンパス・モールの活気を演出します。また、中高層部に学府・研究院を置くことにより、大学院の静粛な研究環境を確保し、学府と研究院からなる大学院の空間を南北にグループ化しています。北側には、学府の空間をラボゾーン及びセミオフィスゾーンとして配置し、施設の南側には、研究院の空間をオフィスゾーンとして配置しました。さらに、その中間列のセミオフィスゾーン(大学院生のゼミ室、研究設計プロジェクトビッグどら外観ウエスト4号館外観室等)には、吹き抜けを配置して採光、通風等に配慮し、良好な室内環境を確保しています。

 工学系地区基本設計は、ウエストゾーンWG(梶山千里WG長、大城桂作WG長)で検討し、二〇〇二(平成十四)年六月に学内で了承されました。

理学系地区基本設計

 理学系地区は、計画延床面積約五万七千平方メートルという大規模な施設を有します。理学系地区周辺には、北側に幹線道路、南側に歩行者専用の「キャンパス・モール」、敷地の東西には、周辺の緑地を結ぶ「グリーンコリドー」が整備されます。マスタープランに従い、地区の中央に研究教育棟、北側に将来拡張用地、南側に講義棟を、また、南西部には、既設の理系図書館があり、さらに南側に開放的な屋外空間「キャンパス・コモン」を配置しています。

 工学系と同様に、キャンパス・モールに接する理学系研究教育棟の低層部には、学部学生専門教育を実施する講義室を中心に配置し、中高層部には、大学院(学府・研究院)が使用する諸室を配置しています。中高層部の各階は、研究院および部門間の学際的交流・連携を促進するために、東西に長く連続する敷地特性を生かし、研究教育棟内を東西方向に連続させています。八ないし十の研究室を一ブロックとして、これを四つ並べることにより一フロアーを構成します。実験室が主体の「ラボゾーン」を研究教育棟の中央に配置し、諸機能相互のつながりに配慮して、南北面に教員研究室が主体の「オフィスゾーン」および大学院生のスペースが主体の「セミオフィスゾーン」を配置します。「セミオフィスゾーン」は、「オフィスゾーン」に準じた施設装備を行いますが、実験室への代用も可能です。さらに、施設の弾力的・競争的利用を可能とする「全学共用スペース」を設け、総合大学の特性を活かし、専門性を重視した、学際的な研究教育活動を促進します。

 理学系地区基本設計は、ウエストゾーンWG(荒殿誠WG長)で検討し、二〇〇六(平成十八)年一月に学内で了承されました。

ウエスト4号館(工学系研究教育棟)教職員エントランスホール ビッグどら(生活支援施設)食堂

ウエスト4号館外観 ビッグどら外観

ウエスト4号館光庭

センター地区基本設計

 センター地区には、全学教育施設、総合研究博物館、大学ホールなど、大学全体として必要な施設を集めました。センター地区を設計するにあたっては、以下の三点を基本方針としました。

@ イーストゾーン、ウエストゾーンとの一体性に配慮するとともに、全学の講義室を一体的、効率的に運用するなど、アカデミックゾーンの一体性に配慮する。
A 民間資金の導入をはかる総合研究博物館、産学連携機能、地域連携機能等を中心に、社会に開かれた九州大学の顔をつくる。
B 学会研修機能、国際交流機能、居住宿泊機能等により、地域と連携して国内外から集う拠点をつくる。

 センター地区基本設計は、大学の研究・教育理念、求められる機能の実現=全学教育施設の一体性を重視するとともに、学生・教職員の交流空間を二つのプラザ、キャンパス・モール、キャンパスコモン等に設け、オープンスペースとの融合をはかっています。そして、歴史や伝統、自然景観の保全・形成=学園通線を挟み、東西に勾配のある地形に沿ったかたちで建築群のスカイラインを構成するとともに、グリーンコリドーや屋上緑化により、水環境、生態系等への環境負荷を少なくしています。また、安心・安全で快適なキャンパス環境の実現=無段差で水平移動できるユニバーサルレベルを設定し、誰もが利用しやすくするとともに、わかりやすいキャンパスを実現します。さらに、持続可能なキャンパス形成=環境負荷の低減に努めるとともに、維持管理が容易な計画とし、環境共生型の見える教材とすることを企図しています。

 センター地区基本設計は、イースト・センターゾーンWG(竹下輝和WG長)とタウン・オン・キャンパスWG(坂口光一WG長)の合同WGで検討し、二〇〇三(平成十五)年六月に学内で了承されました。

パブリックスペース・デザイン

 パブリックスペース・デザインマニュアルは、マスタープラン二〇〇一にもとづき、新キャンパスのパブリックスペースにおける空間の質「クオリティ・オブ・ザ・プレイス」の創出とその継承を目的として、具体的なデザインの方向性や手法として示したものです。長期にわたるキャンパス整備では、関係者の交替や様々な情勢の変化が予想されます。そのため、これまでの地区基本設計を受け、今後進められる各地区の基本設計および施設整備のガイドラインとなります。

 ランドスケープと植栽では、@地域の風土・ランドスケープとの調和、A自然との多様な接点の創出、B大学生活の「場」にふさわしい創造性を誘発する空間の創出、という三つのコンセプトに沿って、大学の「風格」を表す重要な要素として、ランドスケープを構成します。また、@感性を刺激する多様な「緑」の導入、A建築と調和した景観形成、B種の保存及び地域遺伝子の保護、C安全性や管理面への配慮によって植栽計画を提案しています。

 サインと光環境では、わかりやすく目的地に案内/誘導するサイン本来の目的に加え、@情報拠点への的確な配置、A現在位置のわかりやすさ、B通り名称の活用、C照明とサインの一体的整備、D変化への対応など、外部に開かれた九州大学にふさわしい提案を織り込んだサインを整備します。光環境では、「防犯性」や「安全性」などの役割をもつ機能照明に加え、演出照明によって「話題性」、「ランドマーク性」といったイメージを確立するとともに、自然や植物の生態系を守るために人工光が漏れないエリアをつくります。

 パブリックスペース・デザインマニュアルは、パブリックスペースWG(池田紘一WG長、佐藤優WG長)で検討し、二〇〇四(平成十六)年九月に学内で了承されました。(さかい たける)(まつおか ちから)

■マスタープランにおける研究教育施設の整備の進め方のイメージ


前のページ ページTOPへ 次のページ
インデックスへ