●キャンパスを研究実証の場に

水素プロジェクト

水素利用技術研究センター長・教授
佐々木 一成

伊都キャンパス内の水素関連研究施設(配置図)
あかでみっくらんたん

炭や石油を大量に消費しながら経済成長を急速に進めた二十世紀。二十一世紀においては、環境と共生しながら持続的な成長を維持する社会を実現することが二十一世紀においては避けられません。燃やすと二酸化炭素になる炭素を中心とした社会から、燃やして水ができる水素をより活用した社会になることが期待されています。環境への負荷を抑えることができる究極の技術の一つが、水素を利用するエネルギー技術です。

都キャンパスでは、この水素技術の分野で国内随一の活発な活動が行なわれています。水素を使うエネルギーシステムは、その中核として効率良く水素を電気や熱に変える燃料電池が使われますが、システムを構成する多くの機器や部品も含めて、長時間、安心して使用できなければなりません。「燃料電池は、ずっと性能良く使い続けられるのか?」、「水素に触れ続けても材料はこわれないのか?」、「圧力を上げると、水素はどのような挙動を示すのか?」など、多くの技術課題が残っています。

州大学では、大学の特長を生かして、学術的な視点からこのような課題を一つ一つ解決しながら、水素を利用する社会を実現するための「夢の技術」を、若い学生の皆さんと力を合わせて作り上げていこうとしています。そのために、既存の研究室だけでなく、研究を進めるための学内共同の拠点となる「水素利用技術研究センター」を立ち上げています。さらに、高圧の水素中で使われる材料の寿命などについて集中的に研究するために、村上副学長をセンター長として、産業技術総合研究所の研究センターである「水素材料先端科学研究センター」を伊都キャンパス内に設立しています(キャンパス配置図参照)。国立大学のキャンパスの中に、国立の研究所ができるようなことは、これまであまり例がありません。すでに、フランスの研究者が九州大学特任教授として来日したのをはじめ、最先端で活躍する研究者が国内外から伊都キャンパスに集結しつつあります。九州大学を中心に進められている水素研究活動は全国的にも注目され、産学官連携のための集まりである「福岡水素エネルギー戦略会議」には、民間企業だけで二百二十六社(平成十八年九月一日現在)が加盟しています。

州大学の水素活動は、学生を育てて社会に送り出し、新しい学問や技術の芽を生み出すことにとどまりません。燃料電池や水素ステーション、水素流量計など新しいエネルギー技術が本当に実用で使えるのか、何重もの安全対策を施したうえで、キャンパス内での実証研究が進められています(「水素キャンパス構想」説明図参照)。平成十八年二月に始められた、都市ガスを用いる燃料電池の実証研究(写真参照)にとどまらず、プロパンガスや灯油を用いる燃料電池の実証研究が、「あかでみっくらんたん」と「ビッグどら」(生活支援施設、写真参照)で始められることになっています。近い将来、学生の皆さんが思いついたアイデアが、キャンパス内で実証され、世の中に広まって使われることも夢ではなくなるかもしれません。

のように、伊都キャンパスには水素を利用する、環境にやさしいエネルギー技術の世界的な研究拠点ができつつあります。「この分野の研究をするならば、日本の九州大学を目指せ」と世界中で認められるような活動にしていきたいと考えています。

(ささき かずなり)

伊都キャンパス内で実証されている燃料電池 「ビッグどら」(生活支援施設)
水素キャンパス構想


●キャンパスを研究実証の場に

全学共通ICカード
プロジェクトII

全学共通ICカード導入推進室
副室長・教授 安浦 寛人


全学共通ICカードと実証実験

 九州大学では、大学内の電子化・情報化による学生へのサービス向上と業務の効率化・高度化を推進するため、学生証と教職員証のICカード化を推進しています。平成十七年秋に開校した伊都キャンパスを中心に先進的情報技術に対する人間科学や社会科学の観点からの議論も含めた総合的な研究・教育の場とし、総合大学として将来の情報化社会の方向性を提案するための社会システムの実証実験でもあります。

 平成十八年秋から、伊都キャンパスの学生、教職員約三五〇〇人に実証実験用ICカードを発行します。このICカードを用いて、建物の入館、図書館の利用、設備・施設の利用、入構管理、商用サービスなどの幅広いサービスを順次展開する計画です。このICカードは、九州大学発の技術であるMIID(Media Independent ID。以前はPIDと呼んでいた)を基本とし、実用的でかつ信頼できる認証基盤となります。平成十九年度までの二年間を学内実証実験の期間とし、平成二十年度以降の学生証・教職員証としての正式採用を目指しています。(図1参照)

 平成十八年度には、経済産業省からディジタルコミュニティの実証実験を受託し、キャンパス内にとどまらず周辺の商業施設における商品等の支払いや交通機関での利用についての実証実験も行います。また、携帯電話やクレジットカードとの連携など新しい認証基盤としての実験を広く行います。


■全学共通ICカード実証実験計画(図1)


MIIDシステムのしくみと特徴

MIIDは、四つの特徴を持っ た新しい個人IDの仕組みです。 (図2参照)

(1)メディアに依存しない

 MIIDは、それを搭載するメディアには依存しないIDの仕組みです。いろいろな規格のICカード、携帯電話、USBデバイスなど計算機能と記憶機能を持った携帯しやすいメディアに搭載できます。

(2)サービスごとに異なるID

 個人毎に異なるIDの種から作られる複数のsubIDを、個々のサービスに対する個人IDとして利用します。サービスが異なれば個人のID番号も異なります。各subIDは十進数で八十桁程度の数列で、十分な安全性を実現します。

(3)相互認証の実現

 サービス側が個人を認証するだけでなく、サービス側が信用できないような場合には、個人がサービスを認証する相互認証を必要に応じて実現できます。また、生体認証など他の認証方式を組み合わせることも可能です。

(4)個人情報の分散と保護

 各サービスには、そのサービスに必要最低限の個人情報しか提供されません。サービスごとにsubIDが異なるので、サービスを提供する側が情報を交換して個人情報を集めることも難しくなります。また、個人のサービス利用情報なども各サービスに分散され、名寄せなども難しくなります。


■MIIDシステム全体像(図2)


情報社会の未来を考えるキャンパスへ

 本プロジェクトは、新しい情報社会基盤となる技術開発からその応用分野の開拓まで幅広い開発項目を含んでおり、将来的には社会全般に利用される標準技術へと展開することを目的としています。

(やすうら ひろと)


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