環境

伊都キャンパスにおける環境保全

新キャンパス計画推進室 助手 横田 雅紀
助手 吉越 恆


 伊都キャンパス及びその周辺には、豊かな自然や貴重な遺跡が残されており、これらとの共生をいかに図るかは大きな課題でした。この難問に対し、九州大学では学問の府としての学識・見識に基づいて慎重に取り組んできました。



環境影響評価

 九州大学は、環境に十分配慮して事業を進めるため、「環境影響評価」を実施しています。平成六年の計画段階より、学内の専門家や福岡県、福岡市の環境関連部局に助言を受けながら、学内の「新キャンパス計画専門委員会」に設置された「環境ワーキンググループ」において、周辺環境の現況や予測・評価、環境保全措置について審議を重ねてきました。平成十一年十一月には、これらの結果を「環境影響評価準備書」として地域住民に縦覧・公開し、平成十二年二月に地域住民及び福岡県知事の意見に対する見解を加えて「環境影響評価書」としてとりまとめました。



環境監視調査

 この「環境影響評価書」に基づいて、予測結果の不確実性を補填し、事業実施後の環境影響の有無及びその程度を把握するため、平成十二年度から「環境監視調査」を継続して実施しています。

 環境監視調査の項目は、騒音・振動、水質、水文・水利用、陸生植物、陸生動物、水生生物と多岐にわたっており、この調査結果は、学内の専門家によって構成される「環境ワーキンググループ」で審議された後、学外委員を含む有識者によって構成される「環境監視委員会」で環境への影響や保全措置の必要性について審議し、福岡県、福岡市、前原市、志摩町に報告しています。



生態系の保全

 全体で約百ヘクタールの緑地を保全し、周囲の自然環境や集落環境との調和を図っています。造成工事にあたっては、学内の専門家の協力のもと、用地内に確認された老齢の常緑広葉樹二次林、ヒノキ人工林等の注目すべき植物群落を保全するとともに、開発によって失われる緑地環境の速やかな回復を図るため、「高木移植」、「林床土移植」、「根株移植」を実施しました。

高木移植:造成工事区域内か ら移植可能な高木約百三十本 を選定し、大型重機で保全地 に移植。
根株移植:萌芽力の強い樹木 の切り株約二千七百本を盛土 法面に移植。
林床土移植:幼木や草木を含 む森林の表土層約八千uを、 植物の生育に必要な微生物や 植物種子ごと、専用の重機で そのまますくい取り、盛土法 面に移植。
高木移植 根株移植 林床土移植


生物多様性保全ゾーンの設置

 地域の貴重な水源のひとつである「幸の神(さやのかみ)」湧水の西側の沢地を「生物多様性保全ゾーン」とし、生態系の連続に配慮した里山・水辺・湿地環境を保全しました。この「生物多様性保全ゾーン」をはじめとする保全緑地では、ナンゴクデンジソウ、カスミサンショウウオ等の希少種の保全が図られるとともに、現在、これらの生物調査・観察などを通した研究教育活動、環境NPO・地元ボランティア団体による竹林伐採などの里山保全、地域交流が行われるなど、保全緑地が有効に活用されています。

ゲンジボタル ナンゴクデンジソウ カスミサンショウウオ


歴史環境の保全

 福岡市教育委員会が実施した調査を基に、九州大学内外の研究者及び関係機関から意見聴取を進め、埋蔵文化財の取り扱い方針が決定されました。

六基の前方後円墳のうち五基を開発対象外として現状保存、一基を記録保存
石ヶ元古墳群三十基のうち十七基を現状保存、十三基を記録保存
その他の円墳三十八基のうち十八基を現状保存
水崎城の中心的遺構及び馬場城の南側遺構は現状保存

 各文化財の取り扱いについては、「文化財ワーキンググループ」において検討し、学内委員会の了承を得て、現状保存、記録保存等を行っています。.



水循環系の保全

 移転用地周辺には、生活用、業務用及び農業用の井戸が多く分布しており、この中には伊都キャンパスが造成される丘陵地を水源地とする井戸が多く含まれています。このため、土地造成にあたっては、地下水位の低下による井戸涸れや塩水化などの井戸利用障害が発生しないように、当該地域の地下水保全に十分配慮する必要がありました。そこで、九州大学では「環境影響評価」の中で地下水の保全に関して、以下の基本方針を提示しています。

雨水貯留浸透能力の保全
積極的に緑地を配置
雨水浸透施設を設置
地下に貯留浸透施設を設置
地下水利用の削減
学内の主水源は上水道とする
循環型水利用システムの導入
節水意識向上のための啓発活動
地下水監視調査の実施
地下水位、水質の監視


水循環系保全整備計画

 また、平成十六年七月には具体的な対策内容や対策量を明らかにすることを目的として、「水循環系保全整備計画」を作成しました。この「水循環系保全整備計画」では、開発後の雨水浸透量の減少分(予測結果)を雨水浸透施設等により回復することを地下水の保全目標としています。このような取組みは、全国的にも例のない極めて先進的な取組みです。この計画のもと、既に以下の浸透施設の導入が進められています。

透水性舗装:地表面から直接地下浸透
浸透トレンチ:排水管の浸透孔から地下浸透
浸透ます:底面(砕石)から地下浸透
排水側溝:側面、底面から地下浸透
雨水貯留浸透施設:雨水を貯留し、時間をかけて地下浸透

 今後、建設される建物への浸透施設の効果的な導入方法を把握する目的から、現在これらの施設が実際にどの程度の効果を発揮しているか、時間的な変化も含めて注意深く観測しています。

 こうした浸透施設はあまり目立たないものですが、計画では新キャンパス全体で浸透性の排水管は延長二十八q以上、浸透性の集水ますは二千箇所以上、地下に設けられる貯留浸透施設は十箇所以上にも及びます。このような対策には、通常より費用がかかりますが、九州大学が地域と連携し、共に発展していくためには必要不可欠なことと考えています。

雨水貯留浸透施設(設置作業) 透水性舗装と浸透ます 排水側溝 経塚古墳と中世墓地


土木学会環境賞トロフィー

環境賞

 新キャンパス建設プロジェクトに関して、(1)学内外の英知を結集して大規模事業における環境との共生を積極的に進めた点、(2)大規模開発の範となる画期的な事業として注目に値するだけでなく、今後の土木事業の行うべき先進的な事例を示すものとして高く評価され、九州大学と福岡市土地開発公社が進めた本プロジェクトに対して、二〇〇二年五月に土木学会より環境賞が贈られています。



(よこた まさき)
(よしこし ひさし)


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