全学共通教育科目についての 学生による授業評価


平成6 年に教養部の廃止を受けて創設された全学共通教育は,点検・評価を実施しつつ絶えず改善充実が図られてきました。 その中で,「授業が理解できない者も授業を評価できるのか?」といった疑問をかかえつつ実施されてきたのが「学生による授業評価」です。 その結果からは,新入生諸君がまず履修する「全学共通教育」の現状が浮かび上がってきます。
大学教育研究センター教授 押川 元重  
大学教育研究センター助教授 長野 剛  
大学教育研究センター助教授 小山 絋三  

なぜ授業評価か
 
学生が講義を聞くだけでなく,積極的に質問し,調べた結果や自分の意見を発表し,さらには討論する,といったactive learning を促す教育の必要性が強調されるようになっています。このことには,欧米に追い付くことを目標にした社会から,創造性や独創性を豊かにして自ら切り拓いていくことを求める社会への変化が関わっていると思われます。さらに,受験シフトの教育によって次第に学習への能動性を弱めてきた学生の実情にも関わっています。
  このような教育の方法における変化の必要性が生まれるとともに,授業に対する学生の姿勢や反応を無視したままでは優れた教育が実現できるものではないという問題意識も浮上してきました。こうした問題意識は,大学教育の改革・改善の努力が進行するなかで大きくなっています。そこで提起されるのが,授業のあ
り方を左右する学生による授業評価です。

学生による授業評価の結果の概略

実施ヘの不安
 学生による授業評価が提起される時,直ちに出てくるのは,授業内容を理解していない学生が果たして授業を評価する視点や能力を備えているだろうかという疑問です。また,学習への熱意を欠いている学生が,授業評価を行うに値するのかという疑問も出てきます。さらに,これまでの他大学における実施例の中からも疑問が出てきました。設問に対して一律に5 段階評価を求めることについては,その意味合いにおいて曖昧なものがあり,学生の主観に依存する要因が大きいとの指摘があります。例えば「教員の身だしなみ」を5 段階評価させたある大学の例は,学生による授業評価を否定する大きな論拠にもなりました。
 ここで学生による授業評価の実施に至る経緯を簡単に説明します。本学の全学共通教育については,そのカリキュラム,教育内容,教育方法などにおいて旧教養部教育を引き継いだ部分も少なくありませんでしたが,「コア教養科目(注1)」「広域選択履修」「箱崎日・病院地区日」などの新しい導入があり,実施体制の変化がありましたので,それに伴う安定した実施に対する不安もありました。
 そこで,平成6 年に全学共通教育が創設された時から,点検・評価を実施しながらその改善充実を継続的に実施していくことになり,そのために全学共通教育自己点検・評価委員会が設けられました。(この委員会はその後組織的な位置づけの変化により専門委員会と改称されましたので,以後,専門委員会と略称します。)
専門委員会は学生及び教官を対象にさまざまなアンケート調査を実施しました。そのひとつは,週の1 日を箱崎地区又は病院地区に移動して専攻教育科目を学習する,いわゆる,箱崎地区日・病院地区日の制度についてです。理系学部の学生からは,学部の雰囲気を感じることによって勉学意欲が沸くなどの積極的な評価が見られたのに対して,文系学部の学生からは,キャンパスを移動して学習するに値しないだけでなくバス代がかかるので,教官が六本松地区に移動して授業を担当すべきであるという意見がたくさん見られました。これについては,当該学部においてその後検討が進められ,改善も図られているようです。
 また,「個別教養科目(注2)」については学生の評価が高いのに比べて,「コア教養科目」については低いということが明らかになりました。また,学生アンケート調査の結果から,授業クラスによってかなり大きな違いがあることを感じとることができました。

学生による授業評価の結果の概略

授業改善のために
全学共通教育全体や科目区分ごとの学生アンケート調査の実施を通して,次第に授業クラスごとの学生による授業評価の実施が課題となってきました。専門委員会では先に述べたようなさまざまな議論が重ねられました。論議を通して確認されたことは,学生による授業評価はそれによって授業担当教官を評価することを目的とするものでなく,当該授業担当教官及び全学共通教育全体の授業改善のための資料を得ることを目的とするということでした。
 まず,平成10 年度前期末に全学共通教育科目の全てについて,学生による授業評価が行われました。次いで平成10 年度後期末には,「基礎科学科目数学」と「言語文化科目英語」について,学生による授業評価が実施されました。さらに,平成11 年度前期末には,「未修外国語(注3)」「コア教養科目」「少人数ゼミナール科目」「物理学力学基礎」について学生による授業評価が実施されました。
このように全学共通教育科目全体及び科目区分ごとの学生による授業評価が実施されたことになりますが,両者にはそれぞれ利点があります。全科目についての授業評価によって科目区分ごとの比較ができます。科目区分ごとの授業評価は当該科目の特性を考慮した設問を設けることができますし,それに対する授業クラスごとの比較もできます。

学生による授業評価の結果の概略

明らかになってきたこと
学生による授業評価を実施した結果さまざまな問題点があることが,データでもって明らかになりました。それらは全学共通教育全体に関わる問題,科目区分ごとの問題,授業クラスごとの問題とさまざまです。特に,同じ科目でも授業クラスごとの違いがかなり大きいことは予想を越えていました。そうした問題点が明らかになってきたことに,学生による授業評価の意義があったとも言えます。そして,問題点が明らかになってくれば,それらを解決していく努力が求められます。さらに,そうした努力の結果を見るために,再び学生による授業評価を実施することが必要です。その場合,設問等をさらに改善する努力も必要です。
 学生による授業評価の結果解析を進めていると,公表できるデータのほかに得られる情報があります。その一つは,自他ともに教育熱心だと思われている教官が担当する授業が,学生からは必ずしも高い評価が得られているとは限らないことです。その結果,それらの教官は,自らの教育熱意が学生に通じていないことがわかり強い衝撃を受けているようです。その厳しい教育姿勢が学生からは理解されていないと言えます。
 しかし,「よく理解できる」「興味が持てる」「勉学意欲が沸く」といった項目や,授業で身についたと自覚する能力の項目数において学生から高く評価されている授業の担当者に,厳しい教育姿勢がないと言うこともできません。この差がどこから起こってくるのかをさらに詳しく明らかにすることが,これからの課題の一つです。
 授業評価においては,学生が自由記述する箇所を設けていますが,そこに学生の授業担当教官の教育態度への不満が書かれていることがあります。複数の学生からの同様の訴えが真面目に書かれている場合は,当該教官にそのことを知らせて検討をお願いするようにしています。
 ごく稀ですが,授業担当教官を悪罵するような許すことができない落書きもあります。しかし,ほとんどの学生は真面目な態度で授業評価を行っていることをデータから読み取ることができますし,学生による授業評価の全体としては,授業改善において参考にすべきたくさんの事項が含まれています。

学生による授業評価の結果の概略

これからの課題
先にも述べましたように,学生による授業評価の結果によって明らかになった問題点に,どのように対応していくかが最も重要な課題です。科目によっては,授業内容や授業方法の再検討も必要になっています。
 同じ科目でも,学生から高く評価されているクラスとそうでないクラスが見られます。学生から高く評価されているクラスについて,それが必ずしも学生に対する迎合の姿勢によるものとは言えないようで,学生から理解される担当教官の教育熱意と教育努力があるようです。
 一方,教官が教育熱意を自認しながらも学生には理解されていない場合もあるようです。学生による授業評価の結果をそれぞれの授業担当教官が謙虚に受け止め,改善に努力をすることが求められます。休講が多かったり,授業に遅れることが多かったり,声が聞こえにくかったり,板書が読みにくかったりといったことの改善も必要です。学習は学生の努力が無ければ成り立たないことは明らかですが,授業理解をすべて学生の責任とするのではなく,理解を促進するための教官個人と教官集団の努力も必要です。
 また,学生による授業評価を参考に授業を改善していこうとする教官の努力と並行して,学生の努力も期待されるところです。


(おしかわ もとかず)
(ながの つよし)
(こやま こうぞう)

(語句の説明)
(注1)コア教養科目
 本学の教養教育の柱となるもので,学問の知識の修得を目的とするよりも学問分野の形成,問題意識,方法の特徴などを学ぶ。
(注2)個別教養科目
 学問への関心と意欲を向上させることを目的とした,コア教養科目を補強する教養科目。通常の講義科目のほかに総合科目,少人数ゼミナール科目が含まれる。
(注3)未修外国語
 英語以外の外国語科目でドイツ語,フランス語,中国語,ロシア語,朝鮮語,スペイン語から成る。学生はこれらの科目の中から2 カ国語を選択する。このほか,選択履修の外国語科目としてオランダ語,インドネシア語,エスペラント語が開講される。


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