国際交流 7

◎著作紹介

J.Bridge

小山 悟 著
(凡人社)
B5判178ページ(2002.5.20)

 一昔前までは国立大学に来る留学生と言えば、大学院での学位取得を主たる目的とし、日本語学習の経験はまったくない、あるいはあってもせいぜい「ひらがなは勉強してきた」という程度の学生がほとんどでした。ところが、ここ数年、国外の日本語学習環境がかなり整備されたということもあって、自国である程度日本語を学習してから来日する留学生が急激に増えてきたのです。例えば、九州大学の留学生センターでは毎学期およそ200名の留学生が日本語を学んでいますが、そのおよそ半数を占める新規受講者(すなわち来日直後の学習者)の内、いわゆる「ゼロ初級者」と呼ばれる学習者は2割程度に過ぎません。しかも、既習の程度も以前のような「ひらがなは知っている」という程度のものではなくなってきていて、「来日前に基本的な文法や語彙の学習は既に終えた」という留学生も少なくありません。これは日本語コースの受講者の多くが工学や農学、医学といった日本語とは全く無関係な分野を学ぶ大学院生たち(あるいは大学院研究生たち)であることを考えれば、注目すべき変化であると言えるでしょう。日本語教育を取り巻く環境は大きく様変わりをしてきているのです。

 ところが、実際に教室で行われている日本語教育は、必ずしもこの時代の変化に十分対応できているとは言えません。なぜならば、日本語の初級教育では日本語をゼロから学習し始める学習者を対象とし、文法や語彙をひとつひとつ懇切丁寧に積み上げていくアプローチが採用されているからです。言い換えれば、コースの参加者全員が同じ学習内容を、同じ順序、同じペースで学習するということを前提としているのです。しかし、現在のように学習者のほとんどが来日前になんらかの日本語学習を経験しているという状況では、これまでとは違って一人ひとり既習の程度も内容も異なるということを当然の前提として対処していかなければならず、文法指導を中心とした従来のアプローチとは全く異なる新しいアプローチが今求められているのです。

 このテキストは、初中級者対象の日本語テキストとしては初めてのトピック・シラバスのテキストで、留学生たちが8つのトピック(@Introducing、ATaking a Trip、BCross Culture、CFuture、DMystery、EBest Partner、FFood &Health、GEducation)について話したり、聞いたり、書いたり、読んだりしながら、徐々に日本語の運用力を伸ばしていくことができるようにデザインされています。日本人はよく「英語を読んだり書いたりするのは上手だが、聞いたり話したりするのは不得手だ」と言われますが、日本語について同じような問題を抱える留学生たちのためのテキストと言えば、わかりやすいでしょうか。今日本語を学習している留学生だけでなく、留学生たちが日頃どのようにして日本語を学んでいるのかに興味を持っている日本人の学生のみなさんにも、一度手に取ってご覧いただければと思います。

 なお、テキストの中に使われている人物写真は全て九州大学の職員と学生の皆さん(卒業生を含む)の協力を得て撮影したものです。

(こやま さとる・留学生センター講師)

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