伊都志摩紀行 その一




第一回
 玄洋、今宿、周船寺

「九大広報」は第五号(一九九九年三月号)から
第二十九号(二〇〇三年五月号)までの四年間に、
新キャンパス用地のある糸島半島やその周辺を
シリーズ「糸島紀行」で訪ねました。
本号からは「新伊都志摩紀行」と題して、
開校を目前にした新キャンパスの周辺である
福岡市西区の西部地域、前原市、志摩町、二丈町を探訪し、
その自然や史跡、人々や街の魅力をお伝えします。



 福岡市西区役所が一九九五年三月に発行した『西区は歴史の博物館』には、「西区のおもしろさは、数多くの貴重な史跡や民俗を美しい自然とともに楽しむことができるところにある」と書かれており、九州大学新キャンパス周辺を廻ると、このことを実感させられます。
 福岡市西区西部地域は六つの小学校区(※)から成り、北側に当たる北崎校区、今津校区、元岡校区(桑原地区を含む)は、福岡市内でも有数の農漁業地域です。一方、南側の玄洋、今宿、周船寺校区は、JR筑肥線、国道二〇二号線、国道二〇二号線バイパス沿いにまちが発展し、九州大学新キャンパスの玄関口として、また西区西部地域の中心として、昔からの風景と人情を残しつつ、新しい姿に大きく変容しつつある地域でもあります。

※福岡市は、小学校区を一定の地域コミュニティの基本単位として、地域の自律運営を進めていますので、ここでは、小学校区毎にご紹介します。


 姪浜から生の松原を経てきた道は長垂海岸や今宿駅前を過ぎるとバイパスと別れた二〇二号線と交差します。この今宿交差点のやや姪浜側からが、玄洋校区地区です。新キャンパスへは、この交差点を看板に従って海岸沿いに北上し、今山の手前で再び看板に従って左折、玄洋中学校前を直進することになります。
 土地利用状況を見ると、玄洋校区は他校区に比べて住宅用地が多く(約四〇%)、今宿駅周辺や二〇二号線沿いなどに見られる商業・業務用地の割合も大きいことが特徴です。住宅も、マンション等よりも一戸建てが多く、福岡舞鶴高等学校周辺などは新しい住宅街が形成されています。数年前に人口が急増し、特に若いファミリー層が多い校区です。福岡舞鶴高等学校、県立玄洋高等学校(元岡校区)の生徒の多くは、JR今宿駅から玄洋校区を通って高校に向かっています。
 標高約八十mの今山には、緑地保全地区に指定された今山遺跡(国指定史跡)があります。今山遺跡は、弥生時代の初期から中期の大型石斧製作所跡で、製作された石斧は、伊都国の交易品として北部九州に広く流通していました。また海側は、古墳時代には製塩が行われ、平安時代には港湾施設が、江戸時代は黒田藩の御用倉があったと言われています。
 今山の中腹には熊野神社があります。神社を包む山のあちこちに馬頭観音、大師堂、薬師堂などがあり、頂上には八大龍王が祀られています。東展望台からは今津湾が、西展望台からは糸島平野が展望できます。




 今宿というとまず浮かぶのが、JR今宿駅周辺であり、海岸沿いを走る旧国道二〇二号線と二〇二号線今宿バイパス、そして西九州自動車道などが通る、近年大きく発展した地域です。
 しかし、この校区域の大半は森林であり、二〇二号線今宿バイパスから南へ上ノ原方面に向けて入ると風景は一変します。車なら数分で着く野外活動センターにはキャンプ設備も整い、豊かな山林の自然を楽しむことができます。途中の今宿青木や今宿上ノ原には水田や畑が広がり、市の指定無形民俗文化財である今宿青木獅子舞が正月に奉納される八雲神社、木々の間に糸島平野と今津湾を望むことができる叶岳神社などがあります。
また、今宿校区西側の西九州自動車道近くに、六世紀のはじめ頃に築かれたと考えられている全長六十四mの前方後円墳、今宿大塚古墳(国指定史跡)があります。
 一方、北側の長垂海岸は美しく整備されており、夏は市内から簡単に来ることができる海水浴場としてにぎわいます。海岸からは、能古島やその後ろの志賀島など、博多湾の風景を楽しむことができますし、建設が進む新キャンパスも望むことができます。長垂海岸の辺りは、国指定史跡である元寇防塁があります。また、海岸に近い二宮神社では、正月に赤い締め込みの子ども達が神社裏の海岸で清めた玉を持って町内を回る「玉せせり」が行われます。
 幹線道路沿いには評判のお店もたくさんあります。今宿バイパスを南に入ってすぐのクリームパン屋さんもその一つです。民家風の店内には、いろいろな種類の手作りクリームパンと、奥のギャラリーに個性的な陶器などが並んでいます。ただ、取材で訪ねた日は午前十一時前だったにもかかわらず、クリームパンは既に売り切れでした。

野外活動センターの入り口。市街地から車で数分で、山林の自然を楽. しむことができる。この日、野外活動センターには幼稚園児一行が遊びに来ていた。
治七のクリームパン
 TEL 〇九二-八〇六-四二二九

伊都土地区画整理事業
 今宿駅から九州大学新キャンパスの玄関口となる新駅西部までの約百三十・四haの面積で進められています。新駅周辺をセンターゾーンとして、商業ゾーン、住宅ゾーンなどが整備される計画で、新駅南側には大型商業施設の出店も計画されています。


元寇防塁
 文永の役(一二七四)の後、幕府は、一二七六年三月から約半年間、九州の各国に分担させて、元の再襲来に備え今の香椎から今津までの約二十kmにわたって防塁を築きました。担当した国の違いが、部分ごとの構造の違いに現れています。弘安の役(一二八一)の際、再び攻めてきた元の博多への上陸を防ぐのに効果があったとされています。国指定史跡。
(今津元寇防塁にある福岡市教 育委員会資料等による)



 地域の中央部をJR筑肥線、国道二〇二号、同バイパス、そして西九州自動車道が通っています。暫くぶりに今宿から周船寺に向かって二〇二号線を走ると、新しい商店やレストラン、マンションなどが建ち、この地域が大きく発展しているのを感じます。伊都土地区画整理事業が行われ、JR新駅を中心とした新しい市街地形成が計画されています。新キャンパスへ向かう道路(学園通線)もこの新駅付近から延びます。JR周船寺駅の西側から新キャンパスへ向かう道路、千里太郎丸線は、平成十六年末に開通しました。
 周船寺校区は歴史を感じさせるものが多く残る地域でもあります。新駅のちょうど南側には、日本初の農業技術書として有名な『農業全書』を書いた宮崎安貞の墓と書斎(市指定史跡)が残っています。ここから西へ、二〇二号線バイパスの沿線には、全長八十五m、五世紀前半の横穴式石室を有する前方後円墳であり、糸島の平野全体の首長の墓と考えられている丸隈山古墳(国指定史跡)などの史跡旧跡が多く残っています。

 JR周船寺駅周辺には、商店街、金融機関、医療機関などがあって生活に便利な住みよいまちが形成 されています。
 駅前のJA福岡市周船寺支店では、午後二時半頃から夕方まで、近辺で穫れる野菜などが並ぶ「ふれあい夕市」が催されています。現在その向かい側に、春の開店をめざして市専用の建物が建設中です。ここには野菜などに加えて手作りの総菜や弁当なども並ぶ予定で、手軽に「おふくろの味」が手に入る場所として九大生の利用が期待されています。
 駅前の通りにある周船寺商工連合会事務所は、「アートギャラリー周船寺倶楽部」として、地域の芸術愛好家の発表の場として、また住民のコミュニケーションの場として利用されています。おいしいコーヒー(百円)を飲みながら休むこともできます。
 周船寺倶楽部で、周船寺商工連合会会長の久保喜洋さんにお話をうかがいました。
 「周船寺はどんどん発展し変わっていきますが、あんまり発展してほしくない、今のままであってほしい気持ちもあります。商工連合会長としては不穏当な発言かもしれませんが(笑)。」
 「連合会の会員は約百八十社です。九大が移転してきたら、学生の皆さんの気持ちを聞きながら、皆さんにとって住みよい町づくりを進めていきたと会員たちと話しています。地域の祭りなどの催しに学生さんたちにも遠慮なく参加していただきたいし、協力して、いい方向に町が変わるように盛り上げていきたいと思っています。この周船寺倶楽部も展示交流の場として利用してください。」
 会員の方が作っているという餅米でつくったどらやき「もちどら」をごちそうになりました。上品な餡の甘さとモチモチした食感が絶妙でした。

新鮮な野菜が並ぶ「ふれあい夕市」「学生さんたちと協力して住みよい町づくりを進めたい」と語る久保会長住民のコミュニケーションの場となっている「周船寺倶楽部」
山口製菓
TEL 〇九二-八〇六-一〇五八

周船寺倶楽部
TEL 〇九二-八〇六-六〇三一

(参考にさせていただいた文書資料)

福岡市新・基本計画「西区基本計画
 (第八次福岡市基本計画(区別編))
 編集・発行:平成十六年五月
      福岡市西区総務部企画課

ふるさとガイド「西区は歴史の博物館」
 編集:西区地域振興事業推進委員会
    (委員長:高倉洋彰)
 発行:一九九五年三月 福岡市西区役所

歴史散策マップ
 編集・発行:福岡市西区総務部企画課

 本ページの作成に当たっては、福岡市西区企画課の皆様に、資料提供などご協力いただきました。この場を借りて御礼申し上げます。

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