特集/世界で躍動する九州大学

特別対談A


左から柳原九州大学理事、シャソーボルドー第一大学副学長、梶山九州大学総長 、
通訳の補助をお願いした理学府特別研究学生のフジエさん。箱崎キャンパスの桜の下で。

九州大学・ボルドー大
四半世紀の絆

梶山 シャソー先生、本日はボルドー第一大学を代表して九州大学の入学式にご出席いただきありがとうございました。若い学生たちも今日の先生のお言葉に大変感激しておりました。

柳原 シャソー先生は今回福岡が三度目とうかがっていますが、福岡の印象は如何でしょうか。

シャソー 一回目は二年前の四月と記憶していますが、当時のアラン・ジュペ・ボルドー市長が率いる市民団に伴って参りました。その時にも梶山先生、柳原先生とお話をする機会がありましたが、一九八一年に締結された福岡市とボルドー市の姉妹都市関係の更新について話し合われたと記憶しています。当時、私は工学部教授で建築学部のディレクターもしており、ボルドー大学の名誉博士でもいらっしゃる入江教授のゼミでお話をさせていただきました。

柳原 現在九州大学ではおよそ八十にのぼる大学との交流協定がありますが、最初に協定を結んだのはボルドー大学でした。その意味でも、九州大学にとってボルドー大学はたいへん大切です。昨年、梶山総長がボルドーに参りまして、ボルドーの四つの大学と三つのグランゼコール(大学院に相当する高等専門学校)との学術交流協定の更新が行われましたが、その折の印象を。

梶山 私たちが訪問したのは二月で学生の皆さんにお会いできなかったのが残念でしたが、さまざまな領域の多くの先生方とお会いすることができました。シャソー先生の第一大学は、ワールドワイドな研究が行われていると感じました。私の教え子もそこで現在に至るまで学んでおり非常に印象深い訪問でした。

柳原 私も昨年の調印式に出席いたしましたが、各校のトップ八名が勢揃いして、歴史的な市庁舎の建物で、たいへん荘厳な雰囲気の中で行われたことを鮮明に覚えています。

梶山 もう一つ印象深かったのは、八つもサインをしなくてはならないので、ひじょうに多忙な調印式だったことです(笑い)。

シャソー 調印式は、準備も本当に大変でした。ボルドー側の七名の学長が顔を揃えることもめったにありませんので。バラード知事もお越しいただき、盛大に行うことができました。

相互連携が進むフランスの大学
柳原 次に、ボルドーの大学の状況についておうかがいしたいと思います。ボルドーは四つの大学と三つのグランゼコールがあるということですが、ボルドーはフランスの他都市のようにコンソーシアム(相互交流・共同研究のための協定組織)を作っておらず、それぞれが独立して経営を行っていると聞いておりますが。

シャソー 確かに四つの大学は独立しているのが現状です。しかし、私が副学長に就任してからの二年の間にボルドーでも、コンソーシアムではありませんがボルドー大学が提唱して「PRES」という大学間の共同の枠組みが生まれ、四大学と五グランゼコールが参加しています。形の上ではコンソーシアムのように法的な枠組みもありませんが、今後さらにこの連携が進めば、リヨンやグルノーブルなど他都市のような大学間の共同体制へと発展するかもしれません。
一例をお話しますと、二年前から主に生涯学習や国際関係の分野で、博士課程での共同研究が大学間で進んできました。また、地球科学の分野でもボルドー第一大学と第二大学との共同研究体制づくりが進んでいます。

梶山 四大学の学長ミーティングもあるのですか。

シャソー 大学学長会議、CPUBという会議が開催されています。ボルドー近くのポーという都市の大学を含めた会議(CPUA)が行われることもあります。現在はボルドー第二大学の学長が会長を務めています。

共同シンポジウムに大きな期待
柳原 ボルドー大学と九州大学は一九八一年に交流協定を結び、昨年にはこれを更新し、今後交流が一層進むことが期待されています。具体的にはいろいろなプロジェクトが考えられておりますが、今年六月末にボルドー市で行われる「ワインフェスティバル」に合わせて、化学分野の共同シンポジウム開催を現在シャソー先生が中心に計画を進めていただいているかと思います。

シャソー 昨年の調印式の時に、当時のアラン・ジュペ市長から福岡市の方々へ今年のワインフェスティバルへの公式招待状が渡されました。福岡はこのフェスティバルの大切なお客様で、今回は百名程の方々がお見えになると聞いております。シンポジウムは、このフェスティバルで福岡とボルドーの交流のシンボルとなるような催しをということで、開幕前夜の特別イベントとして行うことになりました。化学は、特に九州大学とボルドー大学を強く結んでいる絆となっている分野です。内容は分子レベル、マテリアルレベルのテーマになるかと思います。

柳原 梶山総長も化学がご専門ですが、このシンポジウムへのご期待をお聞かせください。

梶山 福岡とボルドーの交流を象徴するものとしてワイン祭りだけではなく、何かアカデミックなことができないかということで、九州大学としても一番強い、世界的にも認められている分野を活かしたいと思いました。幸いボルドー大学も非常に化学が盛んで、有機化学、材料化学が特に強い。九大もこの二分野は世界でトップクラスですので、共同シンポジウムというのは非常に貴重な機会です。しかもワイン祭りの前夜祭ですから酔う前に開催できる(笑い)。大変期待しております。

シャソー シンポジウムに関しては両大学から四つのグループが共同で作業を進めていると聞いています。フランス側のディベリア教授、デフュー教授、日本の香月先生、入江先生が準備をされています。近年は研究者や学生も多く来られており、学生を通しての共同研究も活発化し、国際的な共同研究がなされる機会も増えています。今回は、学生にとってもフランスにいながら国際的な共同関係を目の当たりにすることができる、良い機会になると信じております。

柳原 このシンポジウムは「第一回福岡・ボルドーカンファランス」と名付けられており、継続的に開かれていくことを強く期待しています。化学分野での共同研究の進展だけでなく、他の分野でも学生・教員の交流を両大学の間でぜひ進めていければと願っています。

シャソー 私も同感です。さらなる共同体制が両大学の間で築かれることを楽しみにしています。現在、修士・博士、研究者レベルでの交流は特に化学の分野で進んでいますが、それをさらに他の科学技術、建築や法律・文学などの分野でも広げていくことができればと思います。実際に各方面でも興味を持っている学生も増えていると聞いています。研究を進めて行くには授業料や研究費用も必要ですし、言葉の壁を乗り越えたり、その人に適切な研究の場を探したりと、国際的な協力関係を築くのは時間のかかるたいへんな作業です。今年もボルドー第四大学から九州大学に何人か来ると聞いていますが、今日入学式でお会いした一年生の皆さんも、いずれボルドーでお目にかかれるようにがんばっていただきたいと思います。

これからの交流へ
継続のしくみ作りを

梶山 今日同席いただいているフジエさんも、フランスから九大に来られているお一人ですが、現在はどんな研究をされていますか。

フジエ 数理生物学という分野で、専門はパターン形成です。今は葉脈のパターンを中心に研究しています。分子の結びつき方を研究し、現象の理解につなげることを目指します。例えば同じ分子がポリマーになるときに、スターチになれば食物として人間のエネルギーになりますが、セルロースになればエネルギーにはならない、というように全然違う働きをするものになる。こうしたことから、薬の開発でも先にバーチャルなモデルを作って人間に適用する前の研究に応用したりします。

柳原 これからもがんばってください。ではシャソー先生からお言葉をいただく前に、梶山先生から一言お願いします。

梶山 大学間の交流協定というのは、実質的に目に見える形でどうするかというのが一番大事です。今回のシンポジウムは先生方だけでなく学生にも非常に刺激的だと思います。私の専門の高分子の分野で、私どもは韓国の釜山と九州の地域間交流を長く続けています。三日間という短期間ではありますが二年ごとに十六回を数え、今では互いに学生も含めて五十名ずつが行き来している。続けていくことで交流を深めることができる。続けることが重要です。ボルドーと福岡の間でもこのように、短期間でも学生が二十名くらい互いに訪問するというように、あまり経済的負担がなく行き来できることを十年、二十年と続けていけるようなシステムづくりを検討していきたいと思います。

柳原 最後にシャソー先生に九州大学の学生、若い研究者へのメッセージをいただければと思います。

シャソー 最近、ボルドー第一大学の学長が替わりましたが、彼は生物学の研究者で水俣病にも関心を持っており、これからの協力体制構築にも大変協力的な考えを持っている人物です。私も最大限の努力をして両大学の交流をますます進めていきたいと考えています。学生の方々へまずお話ししたいのは、こういう国際交流の枠組みがあり、勉強の機会があるということを視野に入れて、語学や文化の勉強をするなど、意欲を持ってがんばって欲しいということです。その中で、実際に自分の興味の持てる研究分野、研究グループを見出すことが可能になるでしょう。海外で生活をすることは職業で成功するためにも意義のある経験ですが、個人的な生活の上でも意義深い経験ができると思います。日本からはこれまでにも多くの学生が来られており、これからも我々は国際的な視野を持つ学生の皆さんを歓迎します。

柳原 どうもありがとうございました。

(この対談は、平成十八年四月六日、九州大学事務局貴賓室で行われました。)


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