●クローズアップ@ 水素利用技術研究センター長・教授  佐々木一成
加速する水素プロジェクト

 伊都キャンパスで進められている水素エネルギー利用社会実現に向けた研究が大きく動き出しています。水素プロジェクトの今をご紹介します。

研究推進で産総研と連携

 立行政法人 産業技術総合研究所(吉川弘之理事長)(以下「産総研」)と九州大学は、研究 開発及び人材育成などに係わる相互協力が可能なすべての分野において、具体的な連携・協力を効果的 に実施することにより、我が国の学術及び産業技術の振興に寄与するため、相互の連携・協力に関する 協定を締結し、五月二十三日(火)にその調印式を行いました。
 本協定に基づき両者は、相互の研究開発能力及び人材等を活かして先端・基礎分野の共同研究とその 応用研究、新事業の創出、世界で活躍できる研究者の育成など総合力を発揮して、我が国の学術及び産 業技術の飛躍的な発展に貢献することを目指します。
 具体的な研究開発としては、エネルギー分野において水素社会実現のための水素材料研究を第一歩と して、学術及び産業技術の振興に寄与する各分野において共同で取り組みを行なっていくことになって います。水素材料研究を集中的に進めるために、「産総研・水素材料先端科学研究センター」を七月一 日に伊都キャンパス内に新設しました。センター長には現九大理事・副学長の村上敬宜教授が就任して います。

吉川産総研理事長(右)と梶山九州大学総長(左)

NEDOの「水素先端科学基礎研究事業」委託予定先に決定

 産総研と九州大学は、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(以下「NEDO技術開発機構」)が、「新エネルギー技術開発プログラム」の一環として平成十八年度から実施する「水素先端科学基礎研究事業」の委託予定先に決定されました。
 燃料電池は、新エネルギー技術開発プログラムのキーテクノロジーですが、その燃料である水素を高圧化又は液化した状態で輸送・貯蔵する場合の水素や周囲の材料の物性については、いまだ世界的にも知見の集積が乏しい状況です。なかでも、高圧水素又は液化水素と接触する金属材料の水素脆化(水素が材料中に侵入することによって金属材料が脆くなる現象)やトライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑現象)の諸問題のメカニズムは、水素を長期間、安全に利用するために早急に解明しなければなりません。
 このため、NEDO技術開発機構は、水素について重要な科学的知見を集積して、水素を安全・簡便に利用するための指針を産業界に提供することにより、水素社会到来に向けた基盤整備を行うことを目的として、「水素先端科学基礎研究事業」の研究開発に参加する委託先を公募しました。同事業は平成十八年度から平成二十四年度の七年間実施され、平成十八年度の事業規模は、約十七億円と予定されています。
 産総研と九州大学は、これまでの研究蓄積をもとに、(1)高圧水素・液化水素による材料の脆化、疲労強度特性の低下、(2)水素環境下でのトライボロジー(摩擦、摩耗、潤滑現象)の諸問題、(3)高圧化・液化した状態における水素物性、の基本原理の解明及び対策検討、さらに(4)これらの諸現象のコンピュータによるシミュレーション技術の開発、などの研究開発を共同提案しました。このたび、同提案が採択され、委託予定先に決定されました。燃料電池自動車などの水素システムを開発している民間企業との連携も深めながら、本事業を進めていきます。


国際的な水素研究拠点に

九州大学における水素研究活動は、平成十五年度に機械分野で採択された文部科学省二十一世紀COEプログラム「水素利用機械システムの統合技術」を契機に発展し、福岡県との連携融合事業などのご支援も受けながらその基盤ができつつあります。「水素先端科学基礎研究事業」においては、新設される産総研・水素材料先端科学研究センターと九州大学・水素利用技術研究センターが緊密に連携しながら、国内随一の水素研究拠点として活動していくことになっています。海外で活躍しているトップクラスの研究者を特任教授などとして招聘し、海外の主要大学に設置されているナショナルラボ.といわれるような国際的な研究センターに発展させていきたいと考えています。学内共同利用施設である九州大学・水素利用技術研究センターにおいても、今年三月に完成した実験棟を最大限活用して、次世代の燃料電池や水素製造・貯蔵技術、水素計測技術の開発など、水素システムに関する多様な技術シーズを生み出す研究を進めていきます。
 水素社会の実現には、機械・システム工学のみならず、材料、化学、エネルギー科学などの多岐にわたる理工学、さらに社会受容性や安全学などの社会科学的な研究も欠かせません。総合大学である九州大学の強みを生かして、多様な学問分野の研究者の方々にご参加いただけるような開かれた研究拠点にしていきたいと考えています。今後ともご理解とご支援の程、よろしくお願いいたします。

安全で地球に優しい水素社会実現への挑戦


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