●クローズアップA
初代総長 山川健次郎関係資料の寄贈について
大学文書館教授 折田 悦郎
五月二十九日、山田直九州大学ロンドン事務所長(総長諮問会議委員)より資料の寄贈があり、柴田洋三郎理事(副学長)立会いのもと梶山千里総長に手渡されました(写真1)。寄贈されたのは本学の初代総長山下健次郎関係資料で、蔵書や書状、写真、講演会のレコード盤等です。
山川健次郎(一八五四年〜一九三一年。写真2)は、元東京帝国大学総長、明治専門学校(現九州工業大学)総裁。旧会津藩士で薩長との戦い(戊辰会津戦争)では、年少のため白虎隊を除隊となり、生き残ったという逸話を持つ人物です。苦学して米イェール大学に留学、物理学を修め、帰国後は東京大学教授や、のちには前述のように東京帝国大学総長等を務めました。人格者として知られ、わが国最初の博士の一人(理学博士)でしたが、「亡国」の経験から、生涯強い愛国心と尚武心を持った教育者でもありました(写真3参照)。九州帝国大学総長としての任期は、明治四十四(一九一一)年四月〜大正二(一九一三)年五月までの二年間にすぎませんでしたが、学生たちに大きな影響を与えています。九大退官後は二度目の東京帝国大学総長に就き、一時は京都帝国大学総長も兼任しました。
今回寄贈された資料は、山川健次郎のご令孫=三木教子(三木忠夫中央大学名誉教授夫人)のもとに所蔵されていたもので、山田所長のご令室が山川の曾孫にあたられることから、同所長を通じて本学に寄贈されたものです。なお、当日には山田家からも絵葉書(健次郎が孫の復子に宛てたもの)二点が、同時に寄贈されました。
寄贈資料には、大正十一(一九二二)年十一月に来日して全国的な話題となったアインシュタインを山川家の関係者が撮影した写真の原本(ガラス乾板)や(写真4参照)、ドイツ留学の際(写真5参照)、日本人として最初にアインシュタインに会い、その紹介者としても有名な桑木或雄(本学工学科大学講師、のちに教授「桑木文庫」が本学附属図書館にある)が九大赴任前に山川総長に宛てた書状(写真6)等があります。たとえば左記の書状は、明治四十四(一九一一)年、九州帝国大学の創設に際し、桑木が山川に宛てて講義内容(案)を報じ、指示を仰いだものです。桑木は山川の東大での教え子にあたり(東大卒業後は山川の助手)、当時は山川が創設、運営に関わった明治専門学校の教授でした。この書状の直後(九月一日)、桑木は明治専門学校教授から九州帝国大学の講師になりますが、同書状はこのような二人の関係を示すとともに、九州帝国大学工科大学での数学、力学教育の様子を知りうる興味深い内容を持っています。参考のために翻刻を掲載しました。

写真6 |
写真1. |
於本部貴賓室 |
写真2. |
山川健次郎 |
写真3. |
「国民ノ覚醒ト俊敏トヲ促ス」
同レコードは対象12(1923)年6月の「愛国心と尚武心」とほぼ同一内容である(『男爵山川先 生遺稿』)。山川の肉声を聞くこのできる貴重な資料。 |
写真4. |
大正11(1922)年。於東京駅 |
写真5. |
左:日下部四郎太(のち東北帝国大学理学部長)、中:桑木或雄、右:本多幸太 郎(のち東北帝国大学総長)。
写真の裏書きに「謹呈山川先生 伯林にて 明治四十二年二月一日 桑木或雄」とある。
ドイツ留学中の苦脇が恩師山川に送呈した写真。 |
写真6. |
山川健次郎宛桑木或雄書状(〔明治44年〕8月22日付) |
これらの資料は、本学の大学文書館で保存し、内容等を精査した上で、教育、研究、展示活動に活用することになっています。
なお、今回の寄贈にあたっては、三木、山田ご両家に大変お世話になりました。また、桑木書状の解読では附属図書館記録資料館(九州文化史資料部門)梶嶋政司先生のご教示を頂ました。ともに記して謝意を表します。
山川健次郎関係資料リスト |
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太政官日誌 自七月二日 至七月十七日 |
〔明治4年7月〕 |
1冊 |
十八史略 一〜七 |
明治12年1月 |
7冊 |
国史眼 一〜七 |
明治24年3月 |
7冊 |
大宝令 上・下 |
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2冊 |
桑木或雄・本多光太郎・日下部四郎太写真 |
明治42年2月1日 |
1枚 |
桑木或雄書状(山川健次郎宛) |
〔明治44年〕8月22日 |
1通 |
山川健次郎書状(断簡) |
〔明治44年〕 |
1通 |
諸岡存「前東京帝国大学総長浜尾先生前九州帝国大学総長山川先生及文部大臣奥田義人氏に質す」 |
大正2年6月17日 |
1冊 |
講演会レコード盤 (「国民ノ覚醒ト侮俊トヲ促ス」) |
〔大正12年頃〕 |
1枚 |
ガラス乾板(アインシュタイン関係写真) |
大正11年 |
2枚 |
徳富猪一郎(蘇峰)書状(山川健次郎宛) |
大正13年1月2日 |
1通 |
山川健次郎葉書(孫復子宛) |
昭和3年5月24日 |
1通 |
山川健次郎葉書(孫復子宛) |
昭和3年5月27日 |
1通 |
山川健次郎書・付顛末(昭和六年の複製) |
〔大正3年8月22日 大正4年9月16日 昭和4年5月8日〕 |
全3枚 |
三木忠夫著 「アインシュタインをめぐって―桑木或雄博士の著書を中心に―」 |
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1部 |
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