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身近な現象をシミュレーションすることで人類のさまざまな問題を予測、解決できる!“身近な現象をシミュレーションすることで人類のさまざまな問題を予測、解決できる! 情報基盤研究開発センター長・教授 汎オミクス計測・計算科学センター長 小野 謙二

情報基盤研究開発センター長・教授 汎オミクス計測・計算科学センター長

小野 謙二

スーパーコンピュータITOを操り、九州大学内すべての情報が集まる研究開発センターを統べるサイエンティスト。流体力学における大規模シミュレーション解析のフロンティアであり、その柔和な人柄と情熱で企業、国研、大学と活躍の場を求めて流転してきた、まさに流体力学研究の“求道者”。

スーパーコンピュータITOを操り、九州大学内すべての情報が集まる研究開発センターを統べるサイエンティスト。流体力学における大規模シミュレーション解析のフロンティアであり、その柔和な人柄と情熱で企業、国研、大学と活躍の場を求めて流転してきた、まさに流体力学研究の“求道者”。

プロフィール

大分県日田市出身。中学時代、コンピュータの原型を手に入れ一人黙々と電子工作にハマったメカ好き気質から、1984年熊本大学、資源開発工学科(当時)入学。流体力学を専攻したのは、子どもの頃、川遊び中に場所によって水の流れや危険具合が異なるのが面白いと思った原体験があったからだとか。最初は風洞実験を行っていたが、コンピュータでシミュレーションができることに衝撃を受け、のめりこんでいく。1988年に修士課程修了後、1990年日産自動車(株)に入社。車両研究所にて熱流体現象の研究やシミュレーター開発等を行う。1999年に熊本大学博士後期課程入学、翌年に博士課程を早期修了し、博士号(工学)を取得。2001年、活動の場を東京大学に移し、理化学研究所、北海道大学、神戸大学、東京大学、和歌山大学で客員教授、ワシントン大学等数々の大学で客員研究員を歴任。2016年より現職。大学外の組織での役職を複数兼ねるなど、論文数・受賞数も多数。2019年4月、日本初の試みとなる、九州大学内5分野の共同利用による教育・研究機関「九州大学情報基盤研究開発センター附属汎オミクス計測・計算科学センター」を立ち上げ、業界内外から大きな期待が寄せられている。

何を研究してるの?

穏やかな口調で語る小野先生。研究内容を様々な例を用いてわかりやすく説明してくれた。

参考で見せてくれた呼吸のシミュレーションでは、人間の鼻腔から吐き出される空気が渦をまいている様子が可視化されていた。

九州大学のデータサイエンスを支えるスーパーコンピュータシステム「ITO」。データサイエンス領域にも柔軟な利用形態の提供ができるように設計に携わった。

穏やかな口調で語る小野先生。研究内容を様々な例を用いてわかりやすく説明してくれた。

私の研究は3つのキーワード「流体」「スーパーコンピュータ」「可視化」で成り立っています。「流体」は一言でいうと“渦”。台風のような大きな渦から、飛行機の翼の上に渦巻くミクロン単位の小さな渦まであります。その渦を「スーパーコンピュータ」で分析し、シミュレーションすることで現象を再現していくのですが、実際に何が起きているかを解するためには「可視化」が重要。人が目で見て理解できるような絵にすることで、説明したり、改善したり、他分野への応用ができるようになります。

参考で見せてくれた呼吸のシミュレーションでは、人間の鼻腔から吐き出される空気が渦をまいている様子が可視化されていた。

卒業後、企業に就職し最初に手がけたのは自動車の空気抵抗のシミュレーションでした。自動車を一台つくるのにいろんな実験を行いますが、実際に自動車を作って試験して…という手順ですと、時間もコストも膨大にかかります。そこで必要なのがシミュレーションという技術で、精密になればなるほど、計算の規模は大きくなります。その問題を解くにはスーパーコンピュータが必要になってくるわけです。昔と比べて天気予報が当たる確率が上がったと思いませんか?それはコンピュータでの数値シミュレーションの精度が高くなったからなのです。

九州大学のデータサイエンスを支えるスーパーコンピュータシステム「ITO」。データサイエンス領域にも柔軟な利用形態の提供ができるように設計に携わった。

私の研究は年々変化していっており(まるで流体のように、笑)、現在はデータサイエンスと高性能計算(ハイパフォーマンスコンピューティング・HPC)を統合した物理モデリングをテーマに研究しています。従来は、基礎方程式をもとにスーパーコンピュータでシミュレーション→データ分析→可視化→現象理解という演繹的アプローチでした。一方、私の最近の研究では、膨大なデータからHPCによって逆に対象とする方程式を導き出し、モデリング→シミュレーション→方程式再考→モデリング→シミュレーション…を繰り返すという帰納的な手法も取り入れ、現象の新しい解釈や未知の現象の支配方程式の探索に取り組んでいます。これには、データサイエンスに加え物理や力学など広範囲にわたる学術分野の知識が必要となり、他分野との連携が必須です。

現在の学術の先端領域では各研究者の得意とする分野で協力し合い、今まで未解決だった人類の問題解決に挑戦していくコラボレーションが強く求められる時代となりました。2019年に設置された、学内5部局の共同研究拠点(生体防御医学研究所、応用力学研究所、先導物質化学研究所、マス・フォア・インダストリ研究所、情報基盤研究開発センター)による「汎オミクス計測・計算科学センター」でさらなる発展を目指しています。

研究科目の「魅力」はココ!研究科目の「魅力」はココ!

日常的な現象の可視化は思い付きの種 いろんな切り口から「ハッ」と発見が生まれる!日常的な現象の可視化は思い付きの種 いろんな切り口から「ハッ」と発見が生まれる!

発見の際、「ハッ」と感じる時が一番嬉しいですし、魅力ですね。流体力学のキーワードにシミュレーションの“可視化”がありますが、実際絵にしてみた時に単純に面白いんですよ。流体の挙動って不思議ですし、見ていて全く飽きませんし、癒されます。

発見は急に現れるものではありません。常に考えているからこそ、無意識にアンテナに引っかかってくるもので、そこから気づきが生まれます。発見したものに仮説をたてて、それが本当かどうかを確かめるためにシミュレーションの手法をつかって検証していくわけです。仮説は可視化された映像を見て思いつくこともありますし、可視化は思い付きの種になっています。いろんな入口からポッとアイデアや発見が生まれ、検証していく過程が面白いですね。

流体力学は非常に身近な分野。それとコンピュータという最先端の技術と人の頭脳が結びついているところが、大変面白いところです。またいろんな分野の研究者とそれぞれのポテンシャルを引き出していきながら研究できるところも魅力ですね。

九大での学びについてひとこと!九大での学びについてひとこと!

大学はアクティブラーナーの入り口です。私は学生に「〜をしなさい」ということは一切言いません。一見自由なようですが、自由って難しく厳しい。積極的にならないと研究テーマは見つけられないし、モチベーションがないと継続できません。私の役割は学生に“チャンスと試練”を与えること。九大は私がセンター長を務める5部局連携の「汎オミクス計測・計算科学センター」など、横の連携を重要視した日本初の組織をつくるなどの新しい試みに意欲的です。可能性にあふれた環境下で真のアクティブラーナーに成長するチャンスと試練が九大にはたくさん転がっています。その学びの環境をどこまで生かせるかは自分次第だと思いますよ。

DAILY SCHEDULEDAILY SCHEDULE


OFFの1コマ

オフの日は午前中に産直市場の「伊都菜彩」に食材の買い出しに出かけ、午後が研究の時間となることが多いとのこと。「研究は私の人生のテーマなので、オフの時間に研究をやってしまいますね」と小野先生。料理が好きなので、同じく料理研究にもいそしむそう。 旅先でもつい野菜や魚の種類が気になり、市場をめぐることもしばしば。 研究室横のラウンジスペースでおでんを出汁からつくり、学生とおでんパーティーをすることも。「根詰めないで、楽しく!がモットーです」。

オフの日は午前中に産直市場の「伊都菜彩」に食材の買い出しに出かけ、午後が研究の時間となることが多いとのこと。「研究は私の人生のテーマなので、オフの時間に研究をやってしまいますね」と小野先生。料理が好きなので、同じく料理研究にもいそしむそう。 旅先でもつい野菜や魚の種類が気になり、市場をめぐることもしばしば。 研究室横のラウンジスペースでおでんを出汁からつくり、学生とおでんパーティーをすることも。「根詰めないで、楽しく!がモットーです」。

先生の必須アイテムはコレ!

コーヒーセット

大のコーヒー好きで、「Kalita」製の電動コーヒーミルをはじめ、量りやドリッパーなどコーヒーセットは本格派。本棚の中にもいくつもドリッパーが。豆は糸島の「ペタニコーヒー」、大野城の「豆香洞コーヒー」から仕入れるそう。

スイムキャップ&ゴーグル

20代の頃はトライアスロン選手だった小野先生。体を動かすことが好きで、今でも水泳は続けているとか。

癒しのグリーンたち

日光をあびてストレスフリーの中、すくすく育った観葉植物『象の足』(写真中央)はなんと100均ショップで購入したもの。2年間で4倍ぐらいの大きさへ成長したんだとか。グリーンは大好きで、自宅でも食べられるもののみガーデニングで育てているそう。

学生へのメッセージ

感覚を磨き、直感を信じて
心に刺さる、響くものをモチベーションに!

研究は強制されてするものではありません。楽しいとか興味がないと続かないものです。そういった意味では、自分の心に何が刺さり、響くのか、常に考えていてほしいですね。

研究を進める上では論理的思考が大切ですが、研究を進めるものがすべて論理的思考によるものではないと考えています。科学者として言うのもなんですが、私自身は“感覚”を非常に大切にしていますね。感覚に響くことが研究のモチベーションとなっています。私は、学生さんに感覚をおおいに磨いてほしいと思っています。また、外の情報を得て「ハッ」と思った時、なぜそう感じたのか自覚し、深堀りして再考してほしいですね。そういうクセづけをして訓練していくと、だんだんと無意識に情報を取り込めるようになっていきますから。また、忙しい時も流さず、ちょっと立ち止まって考えると次の研究ネタの発掘になるかもしれません。論理的思考や理詰めだけで考えると到達しない考え方というのは必ずあります。他のことを考えながら、周辺視野でものごとをとらえているとポッとアイデアが浮かんだりするんです。それは常日頃から感覚を磨いているからなんですね。

コンピュータとその関連技術はこれからまだまだ発展します。インターネット上に蓄積された情報のおかげで簡単に答えが見つけられるようにもなりました。しかし、インターネットの情報を使う場合は、情報の信頼度を考えてください。もちろん検索して答えを見つけてきてもいいんです。要は答えを出すためのプロセスが大事。まさに使われるな、使え、ですね。自分の直感を信じて、心に響くものを大切にしていってください。

取材日(2019.11)

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