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狩猟活動から読み解く人間・社会・歴史からたどる持続可能な世界とは―?狩猟活動から読み解く人間・社会・歴史からたどる持続可能な世界とは―? 基幹教育院 人文社会科学部門 准教授 安田 章人

基幹教育院 人文社会科学部門 准教授

安田 章人

狩猟文化が色濃く残る地域を定期的に訪れ、現地の人と共に生活することで“人と野生動物の共存関係”を探求し続ける、新進気鋭のフィールドワーカー。狩猟研究を通して人類学、民俗学、歴史学…人間に関わるすべてを考察、自ら狩猟者として実践的な研究もおこなっている。

狩猟文化が色濃く残る地域を定期的に訪れ、現地の人と共に生活することで“人と野生動物の共存関係”を探求し続ける、新進気鋭のフィールドワーカー。狩猟研究を通して人類学、民俗学、歴史学…人間に関わるすべてを考察、自ら狩猟者として実践的な研究もおこなっている。

プロフィール

兵庫県出身。幼い頃から動物が大好きで、小学3年生の時、父親の仕事の都合で移住したカナダでは大自然に触れ、野生動物に魅了される。東京農工大学農学部地域生態システム学科時代に環境社会学の第一人者で『自然保護を問いなおす』の著者鬼頭秀一氏に出会い、「野生動物を護るとは何か?」という根本的な問いにぶつかり、自然保護を社会科学的に考えるコースを専攻。卒論では国際的な論争となっていた捕鯨を取り上げ、千葉県の捕鯨地でフィールドワークをおこなう。2004年京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科アフリカ地域研究専攻入学。市川光雄氏・山越言氏に師事、カメルーンでの広域調査でスポーツハンティングに出合う。2010年博士(地域研究)取得。立教大学、法政大学、東京大学大学院など各大学での研究員や講師を務める。2013年九州大学基幹教育院助教、2016年より現職。主著に『護るために殺す?』(勁草書房)。九州大学では「狩猟研究会」の顧問を務め伊都キャンパス内のイノシシを捕獲し、教育活動にも生かしている。

何を研究してるの?

気さくに語ってくれた安田先生。後ろの毛皮は狩猟免許を取得して初めて北海道で狩猟したエゾ鹿のもの。手前の骨はイノシシの頭蓋骨。(猟場は伊都キャンパス!)

安田先生の研究テーマの根本となった師匠鬼頭秀一氏著『自然保護を問い直す』。「人生を左右したといっても過言ではない」と語ってくれた。

調査村の友人らと

幼い頃から動物好きで、「野生動物や自然環境を護りたい」という思いを抱いていました。その流れから研究を始めましたが、では“護る”とはどういうことでしょうか?よくよく考えてみると、実はそんなに単純なことではないことに気づきます。

私の研究は一言で言うと『人と野生動物の共存関係の構築』です。そのなかにテーマは2つあります。1つ目は観光や地域社会、野生動物保全における“持続可能性”を考えることについてです。私は特に「スポーツハンティング」(角や毛皮などの獲得を目的とした、観光および娯楽のための狩猟)に着目してフィールドワークをベースに実証的な研究をおこなっています。アフリカでは、多額の観光収益をもたらし、それが野生動物保全活動と地域経済に肯定的な影響を与えると言われているスポーツハンティングですが、はたして殺すことが護ることにつながるのでしょうか…?この活動が地域社会にもたらす影響は肯定的なものだけなのでしょうか?私は生態的・経済的な“持続可能性”に加えて、地域に住む人々との関係性も含め、環境社会学と環境倫理学の観点から探求をおこなっています。

2つ目のテーマは“命を奪うこと”についてです。「スポーツハンティングは、なんて残酷なんだ。娯楽のために動物を殺すべきじゃない」と思う方がほとんどでしょう。では、食べるために動物の命を奪うことは良いのでしょうか?狩猟史をひもとき、あるいは人々の心理を分析することなど、民俗学や心理学などさまざまな分野からアプローチすることで、人間と自然や生物との共存関係のためのヒントが得られるのではないかと考えています。また、「人は、ほかの生物の命の犠牲のうえに生きている」ことを実感し、その意味を実践的に探究するために、自らも狩猟者となりました。

これら2つの研究テーマを軸にして、フィールドワークによる調査と、環境社会学・環境倫理学の観点を融合させて「いかにして、人と野生動物は共存すべきなのか?」を探求し続けています。特にフィールドワークに行くたびに、現地に暮らすことで得る情報量と内容に圧倒されます。今までカメルーン、ハワイ、北海道などに行きましたが、現場を見て、感じて、地域の人と会話して、交流して…それらの方法が最も私の研究に直結していると実感しています。これからもどんどん外に足を運びたいですね。

研究科目の「魅力」はココ!研究科目の「魅力」はココ!

フィールドワークを通した、「人」との出会い狩猟を通した、「人間」との出会いフィールドワークを通した、「人」との出会い狩猟を通した、「人間」との出会い

フィールドワークに出かけると、地域の文化や環境の違いを肌で感じ、その上で人がどう考えて生活しているのかを知ることができます。とはいえ、一度だけ、その土地を訪れてもなにもわかりません。何度も通い、長期間滞在し、地域の人々と寝食をともにすることで、少しずつ知ることができるようになります。私の研究には、このような地域を細かく見る目だけではなく、社会全体を大きく見る目も必要になります。この「虫の目」と「鳥の目」を駆使して、狩猟の現場を駆け回ることに魅力を感じています。
人類史のなかで、我々はどのくらい狩猟採集生活をおこなってきたと思いますか?我々人類は、実に99%以上の時間を狩猟採集生活によって生き延びてきました。そのため、人間には狩猟に関わる本能のようなものが備わっています。例えば、丸めたゴミを投げて、遠く離れたゴミ箱にスポッと入った時は快感ですよね。これは、獲物に槍や矢が命中したときの快感と通じています。

そんななか、人々の狩猟や生き物に対する考え方は、時代や地域、そして個々人によって大きく異なります。古くから狩りは特権階級の娯楽かつ権力の象徴で、ストレス解消の為、動物を使って現代なら残酷だと思われる遊びもおこなわれてきました。今では、「動物がかわいい」「護りたい」と愛護の思いを持つ一方、多くの人が毎日、肉や魚を食べています。狩猟や肉食を通して人間の一面ではなく、多面性を見ることができるのも研究の面白さです。研究は、環境学社会、環境倫理学のほか、人類学や民俗学、歴史学など必然的に多岐にわたり、それら全てが人間の生活に関わっています。人と野生動物の共存を考えるにあたり、人間とは何か?社会とは何か?を追求していけるのが何よりもの魅力ですね。

九大での学びについてひとこと!九大での学びについてひとこと!

一番の特長はマルチに学べるということ。専門分野の先生から私のような変な先生(笑)まで、多様な先生にもまれながら成長していくことができるでしょう。私の研究には明確な唯一の答えがありません。「野生動物保護とは何か?」の答えは人それぞれ。価値観の違う者が集って意見を出し合い、多角的な視点から物事を理解し、真理を探求していく。その上で現代社会が抱える課題や、人間という存在の複雑さが浮かび上がっていきます。その経験を若いうちに積むことで真のアクティブ・ラーナーが育つと考えています。

DAILY SCHEDULEDAILY SCHEDULE


OFFの1コマ

福岡猟友会に属する安田先生。有害鳥獣捕獲の依頼があれば福岡市内の山へチームで出向くそう。また「お肉100%、米80%、野菜30%」の自給率を誇る安田家。畑の手入れもオフの時間に。「いつか釣りも極めて食糧自給率を上げたいですねぇ」という先生の理想のオフは、“ファミリー狩猟キャンプ”。現在は子どもたちが小さいのでピクニックで自然に触れる程度だが、「子どもたちと一緒に大自然の中、鹿を獲りに行きたい!」と夢見ているそう。

福岡猟友会に属する安田先生。有害鳥獣捕獲の依頼があれば福岡市内の山へチームで出向くそう。また「お肉100%、米80%、野菜30%」の自給率を誇る安田家。畑の手入れもオフの時間に。「いつか釣りも極めて食糧自給率を上げたいですねぇ」という先生の理想のオフは、“ファミリー狩猟キャンプ”。現在は子どもたちが小さいのでピクニックで自然に触れる程度だが、「子どもたちと一緒に大自然の中、鹿を獲りに行きたい!」と夢見ているそう。

先生の必須アイテムはコレ!

軽トラック

広大な伊都キャンパス内に出没するイノシシを捕獲し、搬送するための、ほぼ安田先生専用の軽トラック。作業着に着替え長靴で毎朝出陣!

フィールドノート

コクヨの「測量野帳」を1カ月に1冊ペースで長年愛用。ボールペンで日記も含め、細かくビッシリ書き記している。

タブレット&ガラケーセット

メーカーにはこだわらないが、SIMフリーのタブレットとガラケーを携帯。山中だとスマホでは電池切れが早く、生死に関わることに気づきガラケーに変更したとか。

学生へのメッセージ

心のままに動いて、探して!
考えや目的は後からついてくる。

学生時代って、自由なんです。自由な環境って、なんでもできるっていうこと。それを自覚した上で視野を広げてほしいですね。就職目的で行動なんかしなくていいんですよ。社会に出れば成果を求められるし、目標を達成するための計画をしなくてはいけない。でも学生時代にはその規制はないんです。とにかく「アッ!」と思ったら即行動、経験を積んでほしいですね。学生時代は長期的な休みがとれるので、新しいもの、枠を超えたものに触れる機会がたくさんあります。一番オススメしたいのは海外に行くこと。観光地めぐりなんて歳をとったらいくらでもできるから、長い休みを利用して、自分の興味があるものを対象とした旅をしてほしいですね。

この時代、コンピュータから溢れる情報の選択能力も問われるところですが、その前に現代人はその環境に慣れすぎて、“自分で考える”という能力が衰えている気がします。机上の勉学、スマホというツールも大事です。でもよく見るのはスマホを見てゲームしている学生ばかり…もったいない!学生時代と若さは有限です。同じスマホを使うなら、世界のニュースを見てほしい。それ以上に自分の身体、五感を使って行動、体験してほしい。まず動いて、探して、その上で考える。人がどう思うかは関係ありません。心のままに行動し、体験してください!その後に必ず自分なりの考えや目的がついてきますよ。

取材日(2018.10)

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