九州大学 先生の森九州大学 先生の森

“味を測る”ことに醍醐味と生き残る道を見出して。“味を測る”ことに醍醐味と生き残る道を見出して。 五感応用デバイス研究開発センター 特任教授、高等研究院 特別主幹教授 都甲 潔

五感応用デバイス研究開発センター 特任教授、高等研究院 特別主幹教授

都甲 潔

“九大歴45年の情熱派。着想からおよそ10年、主観的で曖昧な“味”に科学のメスを入れ、客観的に測定・数値化する「味覚センサー」を開発して世界中を驚かせた。好きな言葉は「涸轍鮒魚(こてつのふぎょ)」。

九大歴45年の情熱派。着想からおよそ10年、主観的で曖昧な“味”に科学のメスを入れ、客観的に測定・数値化する「味覚センサー」を開発して世界中を驚かせた。好きな言葉は「涸轍鮒魚(こてつのふぎょ)」。

プロフィール

北九州生まれの福岡育ち。1980年九州大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程修了後、同大学工学部電子工学科助手および助教授を経て、1997年同大学大学院システム情報科学研究院教授着任。その後は一貫して同研究院に在籍、2008年同研究院長、2010年同主幹教授、2013年味覚・嗅覚センサ研究開発センター長(現五感応用デバイス研究開発センター(2018.11.1改名))に。その間、2006年度文部科学大臣表彰・科学技術賞、2013年春の紫綬褒章など、世界初の味覚センサーを開発した功績による受賞多数。『味覚を科学する』(角川選書)、『プリンに醤油でウニになる』(ソフトバンククリエイティブ)など20冊以上の著書を手がけ、『世界一受けたい授業』(日本テレビ系列)などメディア出演も多い。

何を研究してるの?

装置を動かしながら説明してくれた都甲先生。

味認識装置 TS-5000Z

パーソナルSPRセンサRANA

装置を動かしながら説明してくれた都甲先生。

マテリアルサイエンス、すなわち電子材料物性の分野でバイオエレクトロニクス、味覚、嗅覚を専門に研究しています。私だから思いついた、と特に自負しているのが“味を測る”という概念と、その測定装置の味覚センサーです。「人間が主観的に感じる味覚は測定できない」と長年いわれていましたが、“味は神経の反応である”という工学的なアプローチで人間が味を認知する生体システムを科学的に解明・模倣し、人工脂質膜を用いて味覚センサーの開発に成功しました。その後、味覚センサー事業を継承するため設立したベンチャー企業((株)インテリジェントセンサーテクノロジー、(株)味香り戦略研究所)で実用化し、これまで世界の400社以上で食品や医薬品などの開発・製造・品質管理に利用されています。2015年発売の「鹿児島ハイボール」もそのひとつで、ANA国内線全線での機内販売も行われました。

味認識装置 TS-5000Z

味覚センサーは家族愛がつくりあげた、といっても過言ではありません。助手時代のある日、妻がつくってくれたハンバーグがいつも以上においしかったのでそう伝えると、「健康に配慮して、嫌いなニンジンを細かく刻んで入れた」といわれ、その事実にまったく気づかなかった私は味覚の不思議さを実感したのです。調べてみると視覚(光センサー)、聴覚(マイクロホン)、触覚(圧力と温度センサー)、嗅覚(ガスセンサーなど)にはセンサーが存在するのに五感の中で味覚のみ未開発とわかり、“味を測る”ことに研究者としての醍醐味と生き残る道を見出したのでした。

パーソナルSPRセンサRANA

私の研究拠点は、伊都キャンパス内の味覚・嗅覚センサ研究開発センターです。工学・理学・医学・農学・歯学の5部局と九大病院などが文理を超えて有機的に連携し、極めて広い分野を研究している世界的にもユニークな組織で、味覚センサーや匂いセンサーの応用開発など各種の研究・プロジェクトが進行中です。個人の新たな試みとしては、2016年に「味と匂いの科学技術」と題する、JMOOC(ジェイムーク)(※)主催のオンライン講座に初挑戦しました。配信用の映像を事前に何度も見直し、自分のしゃべり(と性格)がいかにしつこいかを再認識しましたが(苦笑)、講演形式で臨場感あふれる愉快な内容になったと自負しています。これからも九州大学が開拓した味と匂いの科学技術を全世界に広めるべく努力したいと思います。

※JMOOC
一般社団法人日本オープンオンライン教育推進協議会(Japan Massive Open Online Courses)の略称で、米国発の「MOOC」(ネット上でだれでも無料で受講できる大規模でオープンな講義を提供し、修了者に修了証を発行する教育サービス)の日本版を普及・拡大するため2013年に設立。

研究科目の「魅力」はココ!研究科目の「魅力」はココ!

人間探求や心理研究もできる人間探求や心理研究もできる

味覚は、化学物質の観点からいえばミクロ、身体や細胞学的にはマクロ、食文化としてはグローバルな世界でたいへん興味深い研究対象です。さらには、かつて哲学科への進学も考えたほど“人間とは何か”ということに興味を持つ私の知的好奇心も満たしてくれます。例えば、甘味・苦味・酸味・うま味・塩味という5つの味覚にはそれぞれ意味があり、人間は毒性成分を「苦い」、タンパク質やデンプンなどのエネルギー源を「甘い」と感じます。

苦いものは赤ん坊も、ゾウリムシやアメーバなどの単細胞生物さえも嫌いますが、人は大人になれば苦いビールを飲むようになります。不思議だと思いませんか。人とほかの生物や動物はどこが同じで、どこが違うのか。私にとっては、そういった人間探求や心理研究が可能な点も大きな魅力のひとつですね。

DAILY SCHEDULEDAILY SCHEDULE


OFFの1コマ

都甲先生いわく「私にはオフタイムや休日という概念がなく、仕事とプライベート、平日と週末の区別が曖昧で土日も大学へ行き、毎日をほぼ同じペースでフラットに過ごしています。従って「OFFの1コマ」は存在しません。あしからず!」とのこと。都甲先生いわく「私にはオフタイムや休日という概念がなく、仕事とプライベート、平日と週末の区別が曖昧で土日も大学へ行き、毎日をほぼ同じペースでフラットに過ごしています。従って「OFFの1コマ」は存在しません。あしからず!」とのこと。

先生の必須アイテムはコレ!

通勤バッグ&パソコンバッグ

どちらも奥様のお手製で、3年に1度作り直してもらう。写真右がジャストサイズのパソコンバッグで、キルト生地がクッション材の役割に。それを、ひと回り大きめで丈夫な白いキャンバス生地の通勤バッグに入れて持ち運ぶ。携帯電話や筆記具、名刺入れを収納するポケットは、デザイン上のアクセントにも。

愛妻弁当

数十年変わらぬ奥様の愛情と味が、何よりの活力。二段弁当箱の中身は、都甲先生からリクエストすることはなく奥様にいつもお任せだが、「大きなニンジンが入っていることはない(笑)」。冬は保温式の弁当箱に。

筆記具

メーカーにはこだわらず、短めでポケットに差しやすい安全なキャップ付きで、ボールペンよりシャーペンを好む(写真中央5本)。紛失して困らないよう、また探す手間を省くため同じ製品を複数購入する場合が多く、お気に入りの木製シャーペンも5本所有(写真左半分)。

学生へのメッセージ

強い意志と勇気を持ち続けて!

人生は一歩一歩の積み重ねです。最初から大きなものを目指し、一気にたどり着こうとしてもうまくいくことはないと思います。いま目の前にあること、自分がすべきことの一つひとつに落ち着いて向き合って確実に乗り越え、着実に自信を深めていってください。そして何より、強い意志と勇気を持ち続けることができれば、夢はいつか必ず実現しますよ!

取材日(2016.8)
システム情報科学研究院 教授(当時)

TOPに戻る