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神経細胞に秘められた 謎を解き明かしていきたい。 神経細胞に秘められた 謎を解き明かしていきたい。元 生体防御医学研究所 准教授 (平成29年4月まで) 白根 道子

元 生体防御医学研究所 准教授(平成29年4月まで)

白根 道子

脳をつかさどる神経細胞に魅せられ、日夜研究に励み生命科学の謎に迫る。偶然発見した新規タンパク質・プロトルーディンによる神経機能制御の研究がライフワーク。「すべての原動力は好奇心となぜ?という疑問から」。

脳をつかさどる神経細胞に魅せられ、日夜研究に励み生命科学の謎に迫る。偶然発見した新規タンパク質・プロトルーディンによる神経機能制御の研究がライフワーク。「すべての原動力は好奇心となぜ?という疑問から」。

プロフィール

生まれ育ちは滋賀県彦根市。両親とも医者、親戚は研究者という家庭に育ち、迷いなく生命科学の道へ進むが、学生時代は勉強や研究よりもピアノやバレーボール、登山や旅行に精を出し青春を大満喫。1990年、大阪大学理学部生物学科卒業後、外資系製薬企業のロシュ研究所に就職。数年後、アメリカから来たトップサイエンティストとの出会いに衝撃を受け意識を180度転換、20代後半に遅咲きながら研究一筋の生活をスタート。1999年、東京大学薬学部で博士号を取得後、2000年、日本学術振興会特別研究員、2003年、科学技術振興機構さきがけ、2004年、九州大学生体防御医学研究所助手を経て、2006年より現職。2006年に現在の研究テーマ、神経で働く新規タンパク質・プロトルーディンを発見し、科学専門誌の権威、サイエンス誌に発表。2010年に日本学術振興会賞を受賞するなど一連の研究における評価は高い。尊敬する人物は"コツコツルーティン型"のイチロー。

何を研究してるの?

ハツラツと楽しそうに話してくれた白根先生。

神経細胞の仕組みについて資料を使いながら分かりやすく説明してくれた。

研究室ではスタッフが毎日コツコツとデータを検出。ここから新しい発見が見つかる。

ハツラツと楽しそうに話してくれた白根先生。

人を含む動物の体内には、さまざまな種類の細胞がありますが、中でも脳内にある神経細胞は非常に特殊です。何といってもその形が特殊で、神経突起という長い突起を持っており、長いもので1メートルほど。頭のてっぺんにある神経細胞が、手や足先に信号や情報を送ることができるのはこの突起のおかげ。神経細胞から分泌された神経伝達物質を突起に沿って運ぶことで、別の細胞と情報をやりとりし合うんです。脳から身体全体へ伝達し、また脳内で伝達し合うこともあります。つまり人の脳や身体の動き(運動、知覚、記憶、思考、情動など)は情報伝達のネットワークによりコントロールされているのです。

神経細胞の仕組みについて資料を使いながら分かりやすく説明してくれた。

神経細胞内では長い突起の中を神経伝達物資などの情報分子がしかるべき方向やタイミングで輸送されます。私は未だ不明点の多い、その精巧な輸送メカニズムを解明するための研究を行っています。

研究室ではスタッフが毎日コツコツとデータを検出。ここから新しい発見が見つかる。

2006年には神経突起を伸長させ、神経細胞内の輸送を促進させる新規タンパク質、プロトルーディン(protorudin)を発見。その分子機構を研究していくことで、プロトルーディンの遺伝子変異が、神経突起にダメージを与えることがわかりました。そしてそれが手足が麻痺する神経変性疾患に繋がることが証明されています。またあらかじめプロトルーディンを欠損させたマウスがうつ病のような症状を発症したことで、プロトルーディンがドーパミンやセロトニンといった神経伝達物質そのものの分泌の輸送にも関わっていることもわかっています。

現在行っているのは、プロトルーディンが神経細胞内の輸送システムにおいてどんな機能を持ち、なぜその遺伝子の変異が神経疾患に繋がるのかの仕組み、病態を調べる研究です。その手段として、生化学、遺伝学、細胞生物学、遺伝子変異マウスなどを駆使した実験を行っています。私の研究は神経細胞内の機構解明といった基礎的なものが中心ですが、さらに関係する神経疾患の原因解明や、治療や予防への応用に繋がり、医学的に役立つことができればと思っています。

研究科目の「魅力」はココ!研究科目の「魅力」はココ!

生命の神秘に触れ、その可能性を追求できる生命の神秘に触れ、その可能性を追求できる

脳神経系は生物の身体の中で最も複雑な器官で、その働きや仕組みにはわかっていないことがたくさんあります。わかっていないからこそ神秘であり、「なぜ、どうして?」追求していける可能性は無限にあふれています。私の研究の原動力であり根底は、好奇心と疑問点から。正体のわかっていないことが科学的に証明されると安心しますよね。毎日、コツコツと行っている実験や研究が、そのわかっていないことにリンクした時に大きな面白さを感じます。その先が長いんですけど(笑)。偶然プロトルーディンを見つけた後、神経細胞にしか見られない突起の伸びを発見した時は興奮しましたね。

一方で、近年の科学技術の進歩はめざましく、最先端の研究だと、ある神経細胞の神経突起がどの位置に向かっているかという回路がわかりつつあります。それによって、たとえば精神疾患の病態や情動の制御機構といった難問が次々と解き明かされています。そんな第一線での環境の中、興味深い話題に触れられるのも何よりもの魅力ですね。

DAILY SCHEDULEDAILY SCHEDULE


OFFの1コマ

週末も研究室に通う白根先生。平日とは仕事のやり方を変えて頭を整理し、気分のリフレッシュ&リラックスを心がけているとのこと。愛車のレクサスでドライブ&ショッピングも気分転換の一つ。高校までピアノを習っていたこともあり、家や車内ではモーツァルトのピアノ協奏曲シリーズ、バッハのブランデンブルグ協奏曲などを聴きながら過ごしているそう。週末も研究室に通う白根先生。平日とは仕事のやり方を変えて頭を整理し、気分のリフレッシュ&リラックスを心がけているとのこと。愛車のレクサスでドライブ&ショッピングも気分転換の一つ。高校までピアノを習っていたこともあり、家や車内ではモーツァルトのピアノ協奏曲シリーズ、バッハのブランデンブルグ協奏曲などを聴きながら過ごしているそう。

先生の必須アイテムはコレ!

ピペットマン

長めのスポイト、ピペット。頭のダイヤルを調節して定量が量れるようになっている。「基本アイテムでもあり、私の相棒ですね」。

顕微鏡

実体顕微鏡、蛍光顕微鏡、共焦点顕微鏡など用途に合わせて使い分け。「何せ相手は小さな細胞ですから」。パソコンの画面を見ながら、コントローラーを動かしていく。

パソコン類

研究室ではiMac、出張ではMacBookAir、会議ではiPad、とマッキントッシュフル活用。

学生へのメッセージ

毎日きちんと過ごすこと。どんな時も平常心で。

私の研究は地道な作業の連続で決して楽ではありませんが、生命の謎に迫るという夢に向かう面白さ、やりがいが苦労よりも勝っています。世界で初めての発見に出会うために、日々コツコツと実験、勉強を重ね、小さな成功体験を繰り返していく。根気は要りますが、それだけ実を結んだ時の喜びは大きいものです。
私はかなりの大人になるまで、自分が研究に人生を懸けるとは想像していませんでした。でもやってみると意外と面白かったんですね。学生の皆さんも、自分の中に隠れている可能性にフタを閉じず、いろんな道に興味を持ってください。どの仕事も同じで、うまくいくことばかりではないかもしれません。でも毎日をきちんと過ごし、どんな時でも平常心で日々やるべきことを淡々とこなしていく、それを繰り返していると、ある日ブレークスルーがどこからともなく現れますよ!

取材日(2017.2)

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