Research Results 研究成果

10億分の1秒で起こる分子変形を観測 ~第三世代有機EL材料の発光効率を決める要因を解明~

2019.05.24
研究成果Physics & ChemistryMaterialsTechnology

 九州大学大学院理学研究院の恩田健 教授、宮田潔志 助教、西郷将生 修士課程学生の研究グループは、非常に短時間で生じる有機発光材料の分子の形状変化をリアルタイムで分析する手段を開発しました。さらにこの手段を第三世代有機EL発光材料に適用することにより、その発光効率を決定づける要因の解明に成功しました。
本研究のポイント:
●有機発光材料における発光過程は、高エネルギー状態において超高速の時間スケール(10億分の1秒程度)で起こっています。発光材料の効率や耐久性は、この過程における分子の形に支配されていることが予想されていましたが、実際にこれらの過程を分析する手段はありませんでした。そこで1兆分の1秒の時間幅をもつパルスレーザーを用いた時間分解赤外振動分光法により、短時間で変化する分子の構造の分析を可能にする手段を開発しました。
●開発した分析手段を用い、九州大学大学院工学研究院の安達千波矢教授の研究グループと共同で、第三世代有機EL発光材料の発光過程における分子変形を実際に観測しました。その結果、発光効率が高い分子では発光過程中の分子変形が抑えられていることが明らかになりました。これは高効率な分子材料を戦略的に設計するための重要な指針になると期待されます。
本研究は科研費(JP17H06375, JP18H05981, JP18H05170, JP18H02047)の支援を受けて実施しました。本研究成果は、2019年4月11日(木)に、アメリカ化学会の学術誌「The Journal of Physical Chemistry Letters」のオンライン版で公開され、表紙絵(Supplementary cover)にも選出されました。

※ 本研究で明らかになった分子変形と発光効率の関係。発光効率の良い分子は分子変形が小さく(奥)、発光効率の悪い分子は分子変形が大きい(手前)。

図1:開発した時間分解赤外分光装置、分析手段の模式図

図2:本研究で明らかになった発光過程と分子の形状変形との関係

研究者からひとこと

九州大学発の第三世代有機EL発光材料について、我々が独自に開発してきた装置を用いて重要なメカニズムを解明できたことを非常にうれしく思います。様々な試料に適用できることが私たちの装置の特徴なので、今後も新しい材料に積極的に適用して九州の産学連携の懸け橋になり、広く材料開発の一助になれればと考えています。(西郷)

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