Research Results 研究成果

O157などの腸管出血性大腸菌の出現機構を解明 -安全な食肉生産による感染予防に期待-

2019.08.26
研究成果Life & Health

 九州大学大学院医学研究院の小椋義俊准教授と有水遥子大学院生(医学系学府博士課程)らの研究グループは、ヒトに強い病原性を示す腸管出血性大腸菌がウシの常在性大腸菌を起源としていること、ウシ腸内で生存するために病原因子を蓄積させ、結果的にヒトへの病原菌として次々と出現していることを突き止めました。
 大腸菌は本来、ヒトを含めた脊椎動物に常在している非病原菌です。ほとんどの大腸菌株は無害ですが、一部の菌株はヒトに病原性を示し、病原性大腸菌と呼ばれます。O157を代表とする腸管出血性大腸菌は、病原性大腸菌の中でも特に病原性が強く、下痢に加えて、出血性大腸炎や溶血性尿毒症症候群などの重篤な症状を引き起こし、死亡例も多数報告されています。主な宿主はウシと考えられており、ウシの便で汚染された食肉や野菜などからヒトへ感染します。
 本研究では、ウシの常在性大腸菌、ヒトの常在性大腸菌、腸管出血性大腸菌について、大規模なゲノムの比較解析を行いました。その結果、ヒトの常在性大腸菌とウシの常在性大腸菌は系統的に異なる大腸菌であり、それぞれがそれぞれの宿主に適応した大腸菌であることがわかりました。また、そのウシ常在性大腸菌に志賀毒素を含む様々な病原因子が蓄積することで、次々と腸管出血性大腸菌が出現していることがわかりました。腸管出血性大腸菌は、ウシにはほとんど病気を起こしませんが、ウシ体内では、ウシ常在性大腸菌への病原因子の蓄積を促進する選択圧が存在し、蓄積した病原因子は協調的に働き、大腸菌のウシ体内での生存を有利にしていると考えられました。この結果は、腸管出血性大腸菌のヒトへの病原性は2次的で偶発的なものである可能性を示唆しており、その選択圧としては、ウシ腸内で大腸菌などを捕食している原生生物の存在が疑われます。今後の研究により、その選択圧の実態を明らかにすることで、腸管出血性大腸菌の出現を抑制することが可能となり、安全な食肉生産などの感染予防に繋がると期待されます。
 本研究は、日本学術振興会JSPS 科学研究費補助金(16H06279, 16K15278, 17H04077, 16H05190)などの支援を受けており、成果は2019年08月23日(金)午前2時(日本時間)に 科学誌 「 Genome Research 」のオンライン版で公開されます。

(図1)ウシの大腸菌の顕微鏡図

図2ウシ常在性大腸菌とヒト常在性大腸菌の系統比較と病原因子の分布
ウシとヒトの常在菌は系統的に異なります。ウシ常在菌から病原因子を多数獲得した腸管出血性大腸菌が次々と出現しています。

図3腸管出血性大腸菌の出現機構のモデル
ウシの常在性大腸菌とヒトの常在性大腸菌は、それぞれの宿主に適応した大腸菌です。ウシ体内では、ウシ常在性大腸菌に病原因子を蓄積させる選択圧が存在し、次々と腸管出血性大腸菌が出現しています。その選択圧としては、ウシ腸内で大腸菌などを捕食している原生生物などが疑われます。腸管出血性大腸菌はウシには無害ですが、食品などを介して偶発的にヒトへ感染することで、強い病原性を発揮します。

研究者からひとこと

病原菌は、なぜヒトに病気を起こすのか?生態系における彼らの生き様を理解することが、感染予防に繋がります。

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