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宇都宮聡准教授がクレア・パターソン・メダルおよび地球化学フェローを受賞

2024.02.26
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九州大学大学院理学研究院化学部門の宇都宮聡准教授が、国際的な地球化学の学会The Geochemical Society(国際地球化学会、以下GS)の環境科学分野に関連する2024年クレア・パターソン・メダル(Clair C. Patterson Medal)を受賞することが決まり、GSが2月19日、発表しました。さらに、GSおよび欧州地球化学協会(European Association of Geochemistry、 EAG)の地球化学フェロー(Geochemistry Fellow)の称号も付与されることが決定しました。日本人でクレア・パターソン・メダルを受賞するのは二人目で、本学では初めてです。また、地球化学フェローの称号をうけるのも本学では初です。

GSは1955年創立で、米国ワシントンD.C.に本部を持ち、70を超える国と地域からの4,000名強の会員で構成されています。EAGは1985年創立で、フランスに本部があり、GSとともに地球・宇宙化学の分野で最も権威のある国際会議であるゴールドシュミット会議(Goldschmidt Conference)を1988年より毎年、欧・米持ち回りで開催しています。カリフォルニア工科大学教授であったクレア・パターソン博士は地球・宇宙化学、環境化学で顕著な業績を残した研究者であり、GSは1998年にその功績を称えてクレア・パターソン賞を設置しました。過去 10 年間に特に社会へ貢献度が高く、地球環境化学において革新的な進歩をもたらした研究者が毎年1名選ばれてパターソンメダルが授与される制度になっています。また、GSとEAGは1996年より地球・宇宙化学の分野で科学的に大きな貢献のあった研究者を毎年10名程度、地球化学フェロー(Geochemistry Fellow)に選出して、その貢献を称えています。

宇都宮准教授は8月18日から23日まで米国イリノイ州シカゴで開催されるゴールドシュミット会議で2つの栄誉を授与され、パターソンメダル受賞記念講演を行います。

宇都宮准教授のコメント

まず私自身がノミネートされていることを知らなかったために大変驚きましたが、名誉あるパターソン賞に選ばれて光栄であり、とても嬉しいニュースです。クレア・パターソン博士はカリフォルニア工科大学の教授で1953年に地球の年齢を45.5億年と最初に決定した地球科学分野の先導的研究者です。年代測定に必要な鉛の同位体を調べる中で、当時環境中に急激に広まっていた鉛汚染と血中濃度の上昇を精密な分析で明らかにしました。当時多くの産業、特に自動車のガソリンには鉛が含まれていたことから、鉛の利用削減を提言したところ、産業界をはじめ各所から非難を浴びたと言われています。逆境の中、科学的な証拠をつきつめ、最終的には鉛の危険性が公に認められました。現在、無鉛ガソリンが流通する礎をつくった偉大な環境地球化学者です。実は私はその話を自分が院生時代に知り、とても深く感銘を受け、パターソン博士のように人類に貢献できる研究者を目指そうと考えました。院生時代、私のデスクの前に二人の肖像をプリントした紙を貼っていて、一人はマリー・キュリー博士でもうひとりは実はクレア・パターソン博士でした。自分が最も尊敬する科学者の賞をまさか自分が受けるとは思っていませんでしたが、研究者としての道を示してくれたパターソン博士と少しつながりができたことを大変嬉しく思います。

この受賞は私のこれまでの環境化学に関連する研究、特に13年前に起きた福島第一原子力発電所の事故で放出された放射性核種の特殊な存在形態とその深遠な物質科学的・環境科学的意義を究明した一連の研究が評価されたものと思われます。その間、パターソン博士が受けたような数々の中傷や妨害に屈せず、ひたすら新しい科学的事実を突きつめて論文化しつづけてきたことが報われたように感じます。未だ残されている福島第一原発の諸問題や環境問題、そして将来どこかで起こりうる原子力災害時の現象理解に少しでも貢献できるよう、これからも研究に邁進していきたいと考えています。これまでの受賞者たちのリストをみると著名な研究者がずらりと揃っており、私自身もこのパターソン博士の名前がついたメダルにふさわしい研究を続けていかなければならないと気が引き締まる思いです。

最後に、今回の受賞はこれまでに論文になった研究成果が評価されたものですが、それはすべて在籍した学生達が行ってきた努力の結晶でもあります。彼らの探究心、好奇心、そして原子力災害研究に対する献身がなければ達成できなかった成果と言えます。また、一連の研究では国内外の研究機関と強固な研究チームを構築して大きな成果をあげることができました。現在まで共に研究に打ち込んでくれた学生達と支えて下さった共同研究者の方々に改めて感謝を申し上げます。