Research Results 研究成果

⻩麹菌細胞におけるmRNA⽣成メカニズムを世界で初解明

発酵⾷品に⽋かせない微⽣物、有⽤物質のさらなる⽣産量向上に期待 2024.03.11
研究成果Life & Health

ポイント

  • 日本酒や味噌、醤油などの発酵・醸造産業に必要不可欠な微生物である黄麹菌(きこうじきん)の細胞の中でどのようにmRNAが生成されるのか未解明でした。
  • でんぷん分解に重要なグルコアミラーゼのmRNAが、黄麹菌の細胞内において、いつ・どこで・どのように生成されるのかを世界で初めて明らかにしました。
  • 今後、黄麹菌を用いたさらなる有用物質生産性向上に向けた分子育種が期待されます。

概要

 黄麹菌※1は、日本酒、味噌、醤油などの発酵や醸造産業に必要不可欠な微生物(カビ、糸状菌)であり、日本醸造学会においては日本を象徴する微生物「国菌」にも認定されています。黄麹菌が産業利用される理由としては、有用な物質、主に酵素を安全かつ多量に生産できることが挙げられます。一例として、黄麹菌はでんぷん分解に重要な酵素であるアミラーゼを多量に作ることができます。そうした酵素はタンパク質の1種であり、タンパク質はmRNA※2から作られますが、黄麹菌の細胞内においてmRNAがどのように生成されるのかという分子メカニズムは明らかになっていませんでした。
 九州大学大学院農学研究院発酵化学研究室の樋口裕次郎准教授、竹川薫教授、生物資源環境科学府博士課程3年の守田湧貴氏、ならびにクイーンズランド大学のBrett M. Collins教授らの研究グループは、黄麹菌が有する主要なでんぷん分解酵素であるグルコアミラーゼの遺伝子であるglaA※3のmRNAを、生きた細胞内で可視化することに成功しました。そして、glaA mRNAが黄麹菌細胞内の特定の核※4で生成されていくことや、環境変化に応じて細胞内での存在位置や量が変化することを見出しました。
 今回の研究成果は、黄麹菌細胞内でどのように有用酵素が多量に生産できるのかという分子メカニズムの一端を明らかにしたものです。こうした知見の蓄積により、将来的にはより一層有用物質を生産できる黄麹菌の分子育種※5が可能になると期待されます。
 本研究成果は、日本時間2024年2月23日(金)に、国際学術雑誌「Microbiological Research」にオンライン掲載されました。

黄麹菌細胞のそれぞれの部位を蛍光顕微鏡で観察した。先端部の核(紫色もしくは白色)において、時間経過とともにglaA mRNA(緑色)が生成されていく様子。

研究者からひとこと

黄麹菌は発酵や醸造において我々に身近な菌ではありますが、まだまだ生物学的には未解明なことが多いです。国菌とも呼ばれる黄麹菌から新たな生命現象の分子機構を解明し、国際共同研究を展開することで、世界にアピールできる研究成果を今後も発表していきたいです。

用語解説

(※1) 黄麹菌
カビ(糸状菌)の1種であり、学名はAspergillus oryzae。日本において発酵や醸造産業に広く利用される有用な微生物。でんぷんを分解するアミラーゼやタンパク質を分解するプロテアーゼなど、産業上有用な酵素を安全かつ多量に生産することができる。
(※2) mRNA
メッセンジャーRNAのこと。DNAから作られ、タンパク質を作るのに必要な分子。
(※3) glaA
黄麹菌が有する遺伝子の1つで、でんぷんを分解しグルコースを生成する酵素であるグルコアミラーゼをコードしている。
(※4) 核
細胞小器官の1つで、ゲノムDNAを内包している。
(※5) 分子育種
細胞を分子レベルで改変して新しい品種を作ること。黄麹菌においては、歴史的には外来の遺伝子を導入する遺伝子組換えが多く行われてきたが、日本では2019年10月にゲノム編集食品が解禁されたこともあり、ゲノム編集による分子育種も行われてきている。

論文情報

掲載誌:Microbiological Research
タイトル:Polarity-dependent expression and localization of secretory glucoamylase mRNA in filamentous fungal cells
著者名:Yuki Morita, Kaoru Takegawa, Brett M. Collins, Yujiro Higuchi
DOI:10.1016/j.micres.2024.127653

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