Research Results 研究成果

植物の根の成⻑⽅向をかく乱させる物質の開発に成功

雑草を枯らさない「抑草剤」の開発に期待 2023.04.12
研究成果Life & HealthPhysics & ChemistryEnvironment & Sustainability

ポイント

  • 雑草を枯らさず成⻑を抑制する毒性のない抑草剤の開発は環境保全の観点からも重要である。しかし従来の抑草剤は枯死を伴う除草剤の作⽤を減弱したものがほとんどである。
  • 植物の根に対する成⻑抑制や枯死を伴わない強⼒な重⼒屈性阻害剤の開発に初めて成功した。
  • 雑草の根張りを浅くして養分・⽔分の吸収を抑制することによる抑草剤の開発に繋がり、環境調和型の緑化調整が可能となる。

概要

 雑草の管理は農地のみならず、宅地、線路、⼟⼿、道路法⾯、河川敷など多⽅⾯で課題となっています。雑草の刈り取りには多⼤なコストが発⽣し、除草剤による枯死は、景観悪化だけでなく地盤の軟弱化、保⽔⼒低下など環境問題を招きます。したがって適度な緑化を維持しつつ雑草の増殖を抑制することが望まれますが、従来の抑草剤は除草剤を減弱させたものにすぎず、根本的な解決に⾄っていません。
 本研究では植物の根が成⻑する⽅向を攪乱させる化合物BMA の開発に成功しました。BMA は成⻑抑制を伴わず、きわめて低濃度で重⼒⽅向に向かって成⻑する能⼒を低下させます。
 九州⼤学先導物質化学研究所の新藤充教授、岩⽥隆幸助教、基礎⽣物学研究所の森⽥(寺尾)美代教授、⻄村岳志助教、および東京農⼯⼤学⼤学院農学研究院の藤井義晴教授、和佐野直也博⼠(当時)の研究グループは、アレロケミカル(※1)の研究過程でシス桂⽪酸(※2)の成⻑制御抑制作⽤を発⾒し、この化学構造を変換して、成⻑抑制を伴うことなく根が重⼒⽅向へ向かう活性を阻害する化合物BMA の開発に成功しました。さらに作⽤機構解析から、BMA は植物ホルモンであるオーキシンの制御に影響を与えるが、従来の(成⻑に対する毒性も伴う)オーキシン関連の阻害剤とは作⽤機構が異なることを突き⽌めました。
 BMA によって根は地中深く潜らず根張りが浅くなると考えられ、養分や⽔分の吸収が抑えられると予想されます。⼀⽅で根の成⻑は抑制されないため、環境調和型抑草剤としての利⽤が期待されます。さらに、⽔分吸収の抑制で⽢みを増す野菜類の成⻑調節剤としての活⽤も期待できます。学術的には、重⼒の⽅向へ向かって成⻑する機構の解明に役⽴つ化学ツールとして利⽤価値があると考えられます。
 本成果はSpringer Nature 社のOA 誌であるScientific Reports に2023 年3 ⽉30 ⽇に掲載されました。

BMA による重⼒屈性阻害

寒天培地上にレタスを発芽させ、横倒しに することで重⼒⽅向を変化させると、根は重 ⼒⽅向に向かって成⻑⽅向を変化させる(根 の重⼒屈性)。BMA を含む培地では10 nM と いう低濃度でも屈性しない。ここで10 nM と は3 ppb(1 ppb は10 憶分の1)であり、⽔ 1L にBMA を0.003 mg 溶かした濃度に相 当する。

用語解説

(※1) アレロケミカル
植物から放出される天然化学物質が他の植物、微⽣物、動物、昆⾍等に阻害、促進あるいはその他の何らかの影響を与える現象をアレロパシーと⾔い、その原因化合物をアレロケミカルという。
(※2) シス桂⽪酸
植物(精油)成分によく含まれる桂⽪酸の⽴体異性体。平館俊太郎博⼠(当時、農環研、現 九⼤院農教授)、藤井らはユキヤナギのアレロケミカルとしてシス桂⽪酸配糖体を発⾒し、その活性本体がシス桂⽪酸であることを突き⽌めた(J. Chem. Ecol. 2005, 31, 591)。

論文情報

掲載誌:Scientific Reports
タイトル:Design and synthesis of strong root gravitropism inhibitors with no concomitant growth inhibition
著者名:Takeshi Nishimura, Saki Makigawa, Jun Sun, Kozue Kodama, Hiromi Sugiyama, Kenji
Matsumoto, Takayuki Iwata, Naoya Wasano, Arihiro Kano, Miyo Terao Morita, Yoshiharu Fujii,
Mitsuru Shindo
DOI: https://doi.org/10.1038/s41598-023-32063-z

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