Research Results 研究成果

極限原子核の謎を解く要となる新たな酸素同位体の発見

-最後の二重魔法数核候補は二重魔法数核ではなかった- 2023.08.31
研究成果Physics & Chemistry

ポイント

  • 非常に稀に現れる安定性(二重魔法数)が予測された酸素同位体(酸素28)を初めて観測。
  • 酸素28では二重魔法性が消失していることが明らかになった。
  • 世界初となる4個の中性子を同時に測定する技術により観測が初めて可能に。
  • 中性子数が非常に過剰な極限原子核の構造、宇宙での元素合成過程や中性子星の構造の解明につながると期待。

概要

 東京工業大学 理学院 物理学系の近藤洋介助教と中村隆司教授、理化学研究所 仁科加速器科学研究センターの笹野匡紀専任研究員、大津秀暁チームリーダー、上坂友洋部長、九州大学の緒方一介教授らの国際共同研究チーム※は、二重魔法数核(用語1)の候補と考えられてきた酸素同位体(用語2)、酸素28の観測に初めて成功した。
 原子核を構成する陽子や中性子の個数が魔法数(2、8、20、28、50、82、126)(用語1)となっている場合、その原子核はより安定な性質を示す。特に陽子数・中性子数ともに魔法数となっている原子核は二重魔法数核と呼ばれ、安定的な特徴が顕著に現れる。二重魔法数核は原子核構造の理解において重要である一方で非常に稀である。現代の加速器技術で到達できる最後の二重魔法数核候補、酸素28(陽子数8、中性子数20)は、長年観測することができなかったが、4個の中性子の同時測定という画期的な技術の進展により、今回ついに観測に至った。実験の結果、酸素28では本来現れるべき中性子の魔法数20の特徴が消失し、魔法数異常が起こっていることが明らかとなった。
 本研究は、中性子数が陽子数よりはるかに多い極限原子核の構造や、未知の中性子間力、さらにそれを記述する原子核理論についての研究進展へ寄与する。こうした研究は、宇宙での元素合成過程や高密度天体「中性子星」の構造の解明にもつながることが期待される。本研究成果は、8月31日付(現地時間)のイギリスの学術雑誌「Nature」に掲載された。
※共同実験に参加した海外機関:【ドイツ】重イオン研究所(GSI)、ダルムシュタット工科大学等、【フランス】カン素粒子原子核研究所(LPC CAEN)、サクレー原子力庁(CEA-SACLAY)

図1:横軸を中性子数、縦軸を陽子数でプロットした原子核の地図で核図表と呼ばれる。1つの四角が1種類の原子核を表し、黒い四角は天然に存在する原子核(安定核)、オレンジ色、青色の領域はこれまでに観測されたことのある不安定核、緑色の領域は限界線(ドリップライン)の内側にある寿命が長いと予測されている束縛した不安定核を示す。限界線の外側には寿命の極めて短い不安定核が存在しうるが、今回観測された酸素同位体を含めて、ほとんどわかっていない。古典的魔法数の陽子数・中性子数を直線で表しており、その交差点が二重魔法数核である。二重魔法数核の数は非常に限られていることがわかる。鉄を超える重い元素の合成は爆発的な天体現象(中性子星合体、超新星爆発)で起こるとされ、r過程と呼ばれる。その予想される反応経路は魔法数の影響を受ける。また、超重元素領域には未発見の二重魔法数(陽子数114、中性子数184)のために、より安定化した原子核が存在する可能性があり、安定の島、と呼ばれる。(図出典:理化学研究所仁科加速器科学研究センターホームページ)

用語解説

(1)魔法数、二重魔法数核:陽子数や中性子数が魔法数(2、8、20、28、50、126)となっている原子核では他の周囲の原子核に比べて安定な性質を示す。原子における電子の軌道のように、原子核にも陽子・中性子の軌道が存在する。ある軌道がちょうど埋まる陽子数・中性子数、つまり魔法数になると、希ガス原子のように閉殻構造を取って安定化する。つまり、中性子ないし陽子が2個、8個、20個で「殻」が閉じて安定化するのである。これは量子力学的効果により原子核に殻構造という秩序があることを反映している。マイヤーとイェンゼンはスピン軌道力の導入によって魔法数を見事に説明し、1963年にノーベル物理学賞を受賞した。陽子数と中性子数がともに魔法数となっている原子核は二重魔法数核と呼ばれる。陽子・中性子の両方が閉殻構造を取るために特に安定な性質を示す。
(2)同位体:原子番号(陽子数)が同じで中性子数が異なる原子核のこと。例えば天然に存在する酸素の同位体は、陽子数・中性子数が8の酸素16だけでなく、中性子数9の酸素17や中性子数10の酸素18がある。

【論文情報】
掲載誌:Nature
論文タイトル:First observation of 28O
著者:Y. Kondo, T. Nakamura, K. Ogata, H. Otsu, M. Sasano, T. Uesaka et al.
DOI:10.1038/s41586-023-06352-6

研究に関するお問い合わせ先

東京工業大学 理学院 物理学系 助教 近藤洋介
理化学研究所 仁科加速器科学研究センター 主任研究員 上坂友洋
九州大学 大学院理学研究院 物理学部門 教授 緒方一介