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2024年度 春季入学式(学部) 総長告辞

総長式辞・挨拶等

2024年度(令和6年度)春季学部入学式 総長告辞

新入生の皆さん、入学おめでとうございます。九州大学教職員一同、心よりお祝い申し上げます。また、大変な受験の時期をずっと見守り、支え励ましてこられたご家族、友人、関係者の方々にも心よりお喜び申し上げます。

今年度の学部新入生は、留学生28名を含む2,609名です。

本日はご来賓として、本学の卒業生で作家であり、精神科の医師でもある帚木蓬生先生をお迎えしています。先生は東京大学文学部仏文科を卒業後、さらに九州大学医学部に入学、1978年に卒業しておられます。先生は吉川英二文学賞など、数々の賞を受賞されており、開業医として活動しながら、執筆活動を続けておられましたが、2023年に開業医を引退し、現在は作家に専念されておられます。

皆さんはなぜ九州大学で学ぶことを選ばれたのでしょうか。
大学教育とは、自分自身で初めて自分が学びたいことを選択し、その学問を究め、深め、やり抜き、体系的な知識にするということだと考えます。そして、それを基に自分の考えを導き出し、発展させ、形にして、社会活動に役立てるのです。私たち教職員も共に皆さんの学びを支え、その学びを学位で保証します。大学は長い歴史と伝統の中で築かれ培われた知識の塊です。その集積された「知」から学び、それを次の世代に伝え、新しい知見を生み出すことが、ここに集う私たちの使命です。そして、今日から皆さんはその一員なのです。本学の長い歴史と伝統の中で、幅広い研究分野で培われ蓄積された知識と研究が、皆さんの学問に対する好奇心、探求心を掻き立てることを信じています。皆さんはなぜ九州大学で学ぶことを選ばれたのでしょうか。そのことを折に触れて思い出してください。そこに皆さんの「学び」の原点があります。自分が選択した学びに真摯に向き合い、それを深め、目指した学びを全うしてください。

2019年末から続いたCOVID-19パンデミックも収まり、多くの行動制限がなくなり、以前の生活が戻ってきています。しかし、皆さんの高校生活はCOVID-19パンデミックで行動変容を迫られ、学校行事や部活動で、また友人たちと、楽しく交流することが出来ず、残念で悔しい思いをした高校生活だったことと思います。それでも学業にいそしみ、大学受験に挑戦し、本日、大学生になられました。入学された皆さんを九州大学は心から歓迎いたします。

九州大学は1911年に設立され、その理念に「自律的に改革を続け、教育の質を国際的に保証するとともに、常に未来の課題に挑戦する活力に満ちた最高水準の研究教育拠点となる」を掲げています。また、『教育憲章』では、秀でた人間性、教養豊かな社会性、優れた国際性、創造性の高い専門性を有する人間の育成を目指すことを定め、『学術憲章』では、人類が長い歴史の中で探究され結実した叡智を大切にし、これを次の世代に伝えること、その上ですべての学問の伝統を基盤に新しい展開、先進的な知的成果を生み出すことを使命と規定しています。
九州大学は、2030年に向けて「KYUSHU UNIVERSITY VISION 2030」を策定し、「総合知で社会変革を牽引する大学」を目指しています。ここでいう「総合知」とは、本学が持つ人文社会科学系から、自然科学系、さらにはデザイン系の「知」も組み合わせ、現代社会の複雑に絡む事象を単一の研究分野だけではなく、複数の分野の「知」を活用し、多様な視点で課題の解決に導く新しい知識や斬新な考え方を意味します。この複眼的な「総合知」を導き出し、社会の課題を解決して、教育・研究はもとより、社会変革に貢献する活動に取り組んでいます。

本学の初代総長、山川健次郎先生は、「己が専門の学問の蘊奥(うんのう)を極め、合わせて他の凡てのことに一応の知識を有して居らんで、即ち修養が広くなければ完全な士と云うべからず」と説いておられます。本学はこの言葉を大切にし、皆さんが一年次に学ぶ基幹教育では、文理を問わず、異なる専攻の学生たちが一緒に対話型の協働学習をしながら、論理的思考力を養い、知識そのものを新たな視点から創造的・批判的に「知識の再生産」を試みる取り組みをしています。これこそ「総合知」を生み出す試みであると言えます。基幹教育は皆さんがこれから進む学問の道の出発点であり、礎です。専門教育に進むためには、基幹教育を修めていることが前提なので、心して取り組んでください。

人類は、科学技術と経済の発展で、便利で効率的な社会を築くことが出来ましたが、その反面、人間の快適さが優先された結果、地球温暖化による自然災害の多発、過剰な森林開発などによる生態系の破壊、ウクライナ侵攻やガザの戦闘、その他多くの地域の紛争など、私たちの世界は今までにない不安定な世の中になっています。これからの、より良い未来の「持続可能で、人々の多様な幸せを実現できる社会」を構築するためには、解決しなければならない数多くの問題があり、そのために大学が果たさなければならない役割は大きいと考え、九州大学も社会変革の一端を担いたいと考えています。皆さんも、今日から、ともにこの使命を背負い、世の中を良い方向に導く力を身につけてほしいと考えています。

究めた学問と社会のつながりが評価された一つの形として、建築のノーベル賞といわれるプリッカー建築賞が今年、山本理顕氏に決まったことは嬉しいニュースでした。「建築と共同体は双方向の交流があるべきで、山本さんはそれを巧みに美しく表現する力がある」というのが受賞理由です。建築を通し、共同体の在り方を問い直し、芸術的というより、社会を変えるための提案を巧みに美しく行う。広島市西消防署はガラスで覆われ、署員の活動が街から見えるそうです。一度、見に行きたいと思いました。

今日入学した皆さんには在学中にぜひ留学を経験してほしいと思っています。私自身も米国留学を経験しましたが、異文化に触れ、多様な考えの人々と交流することで、新しい考え方や視点を持つことが出来るのはもちろん、更に自分を強くすることができます。
また、九州大学には、卒業生や関係者などからの貴重な支援を基につくられた「九州大学基金」があり、その中に先ほど述べた山川健次郎先生の名前を冠した「山川賞」など、皆さんに対する修学支援制度があります。近年、大学院進学、特に博士課程への進学が減少傾向にあり、国も様々な支援を打ち出していますが、現代社会が抱える困難な課題を解決するためには、高度な学問が要求されます。4年後、または6年後、皆さんの学びの好奇心が、次の大学院進学につながることを期待します。

皆さんが学ぶ九州大学には4つのキャンパスがあります。ここ伊都キャンパスは「総合科学の中枢・実証実験拠点」で日々2万人が集い、最先端の研究や教育が行われています。美しい四季を充分に楽しめる豊かな自然に囲まれた、東西に約3キロ、南北に約2.5キロ、272ヘクタールの広大な敷地には、最新の研究棟や椎木講堂などの様々な施設があります。中でも約350万冊の蔵書を誇る中央図書館はその機能も構造も秀逸です。この中央図書館4階には九州大学が誇りに思い、本学の卒業生である中村哲先生が「アフガンに寄り添った35年」の多くの記録が集められた「中村哲医師メモリアルアーカイブ」があります。中村先生は1973年に医学部を卒業され、その後35年間、アフガニスタン復興のために尽くされました。「飢えと渇きは薬では治せない」と医師である先生が1600本もの井戸を掘り、およそ25キロの灌漑用水路を自ら先頭に立ち建設されたのです。近代技術に頼るのではなく、現地の人々が自らの力で、また後年、自分たちで補修などができるような方法を提案し、自身で重機を操作して水路建設に尽力されました。残念なことに先生は2019年に現地で凶弾に倒れられましたが、その後も先生を支えたペシャワール会の活動が続き、現地のPMS(ピースジャパンメディカルサービス)とアフガンの人達だけで建設した水路が完成しています。先生の尊い働きが、このような形でつながれていることに改めて中村先生の確固たる生き方、揺るぎない想いを感じます。アーカイブを一度訪ねてみてください。このアーカイブは昨年国立大学図書館賞をとっています。その他、筑紫キャンパスは、物質・環境・エネルギー分野の「先端科学融合拠点」として、大橋キャンパスは、芸術工学部があり、アジアにおける「先端デザイン拠点」として、病院キャンパスは、世界最先端の医療設備を備え、アジアにおける「生命医療科学拠点」として、それぞれ特色ある研究教育を展開しています。

地震や多発する自然災害、ウクライナ侵攻、ガザの戦闘、その他多くの地域の紛争など、私たちを不安にするこれらの事象は、人間が引き起こしたものです。また、生成AIはどのように用いるのか、今、まさにその功罪を見極め、向きあわなければいけないものですが、これも人間が生み出したものです。人間によって、世界は不確定な時代となってしまいました。ただ、この世界を良い方向に変えられるのも人間です。この時代に大学生になった皆さんには、学問を深めることはいうまでもありませんが、九州大学にあるたくさんの「知」を礎に、大いに自由な議論を交わし、社会の有り様、世界の有り様に目を向け、地球規模での自分の立ち位置と役割を見定めていく時間にしてほしいと考えています。
最後に、皆さんの新しい大学生活が希望と夢に満ちたものであることを祈り、そして、その実現に向けての一歩を踏み出された皆さんに、心からエールを贈ります。
本日はおめでとうございます。

2024年4月3日
九州大学 総長
石橋 達朗