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法学は“社会のお医者さん”世の中を良くしていくための根本的な仕組みが「憲法」。法学は“社会のお医者さん”世の中を良くしていくための根本的な仕組みが「憲法」。法学部(憲法学)・大学院法学研究院 教授 南野 森

法学部(憲法学)・大学院法学研究院 教授

南野 森

独自の視点から現代社会にメスを入れる、気鋭の憲法学者。解説の明快さや親しみやすい人柄からメディアへの露出も多く、ツイッター等SNS発信も熱心に行う。その影響力は大きく、まさに日本の未来を担うジュリストである。素顔は花の都・パリをこよなく愛する読書家。

独自の視点から現代社会にメスを入れる、気鋭の憲法学者。解説の明快さや親しみやすい人柄からメディアへの露出も多く、ツイッター等SNS発信も熱心に行う。その影響力は大きく、まさに日本の未来を担うジュリストである。素顔は花の都・パリをこよなく愛する読書家。

プロフィール

京都府出身。歴史書や小説など本に囲まれて育ち、小学生の頃から新聞を読むことに面白さを覚える。昭和から平成へと年号が変わり、天安門事件が起き、ベルリンの壁が壊れ、世界の国々が大きく変貌を遂げることになる1989年に、東京大学文科一類入学。旅行先のヨーロッパで東欧革命を目の当たりにした経験から「国家、権力、人権とは?」と考えるようになり法学部に進学、憲法学者を志す。同大学院法学政治学研究科、博士後期課程在籍中の1997年より3年間、パリ第10大学大学院での留学を経て、2002年、九州大学法学部准教授に着任。2014年8月より教授。メディアへの登場や各種審議会の委員を務めるなど社会活動にも意欲的で、主な著書に『法学の世界』(2013/日本評論社/編著)、『憲法学の世界』(2013/日本評論社/編著)、『リアリズムの法解釈理論』(2013/勁草書房/編訳/ミシェル・トロペール著)、『憲法主義』(2014/PHP研究所/内山奈月との共著)、『10歳から読める・わかる いちばんやさしい日本国憲法』(2017/東京書店/監修)がある。

何を研究してるの?

法律の堅いイメージと異なってフランクに分かりやすく話してくれた南野先生。映画監督の父、小説家の姉をもつ。

憲法を幅広い層に理解してほしいという思いから執筆活動にも積極的。子どもでも理解できる入門書から専門書まで、ジャンルも数もさまざま。

毎年、ゼミ生を引率して5日間程度の東京研修旅行+他大学との合同ディベート合宿を行う。他大学との交流、最高裁判所や企業訪問など、学生からは大好評のイベント。写真は最高裁判事(当時)、櫻井龍子さんと。

法律の堅いイメージと異なってフランクに分かりやすく話してくれた南野先生。映画監督の父、小説家の姉をもつ。

憲法は他の法律とどこが違うのか? 平たく言うと、憲法は国のあり方、政治のあり方を定めている根本法だということです。民法、刑法など国民の権利・義務を定める法律に対し、憲法は国家権力を対象とした法で、時の国家権力を縛るルールが憲法なのです。今、日本には法律が2000近くあり、日々細かい改正などが行われていますが、これに比べて憲法のスケールは非常に大きく、施行以来70年、一度も変わっていません。元々憲法というのははすぐに変えることのできない性質を強く持っています(硬性憲法)。もし簡単に憲法が改正できるなら、時の権力者が好き放題にやってしまうでしょう。そうならないように、私たち憲法学者は日本や諸外国における憲法の歴史や現実を比較研究することで、のちの50年、100年後の日本がより良い国に成長していく為には、どういう仕組みを作り、世の中に提言していけばいいのか、といった観点から、日夜議論しています。

憲法を幅広い層に理解してほしいという思いから執筆活動にも積極的。子どもでも理解できる入門書から専門書まで、ジャンルも数もさまざま。

私の研究にフランス憲法学・法哲学を対象とした憲法学の原理論があります。憲法の背景にある思想や歴史を参照し、「なぜ憲法が必要なのか?」、「そもそも憲法とは何か」「立憲主義とは何か?」といった根本的な問いをひたすら文献を読んで考えるという研究です。憲法で国家権力を拘束するという立憲主義の狙いはなかなか簡単には達成できません。相手は国家権力ですし、学者の主張なんて簡単に無視されてしまうことも現実にはありえます。例えれば巨大なライオンとアリ一匹の戦いとも言えるかもしれません。

毎年、ゼミ生を引率して5日間程度の東京研修旅行+他大学との合同ディベート合宿を行う。他大学との交流、最高裁判所や企業訪問など、学生からは大好評のイベント。写真は最高裁判事(当時)、櫻井龍子さんと。

例えば、2017年6月に野党4党が憲法53条(※)に基づいて、臨時国会の開催を要求しました。ところが開催されたのは9月も末。3か月も要求を無視しつづけたあげく、開催されたと思ったら冒頭に首相の所信表明も討論もなく、わずか100秒で衆議院が解散されました。これは「国会を開いた」うちに入らず、明らかに憲法違反にあたります。ところが憲法に関してはペナルティーが全くないのです。憲法は国家の基本的な秩序を定めた最高規範。時の権力者が憲法を守れば問題ありませんが、守られなかったら実はどうしようもないのです。そういう実例は諸外国にもあります。

そこで私は今、“憲法の実効性”についても研究しています。国家権力は憲法違反をして見逃されていいものなのか? 最高裁による違憲審査制に民主的正統性はあるのか? 最後の砦は最高裁ではなく、私たち国民ではないのだろうか? そして、最近は憲法改正が具体的な政治日程にのぼりつつありますから、憲法を憲法学者のみならず、国民一人一人がまじめに考える必要が今まで以上に高まっていると思います。そのために、憲法学者が憲法についての説明をわかりやすく国民各層に届けることも重要になってきていると思います。

※憲法53条
「内閣は、国会の臨時会の召集を決定することができる。いづれかの議院の総議員の四分の一以上の要求があれば、内閣は、その召集を決定しなければならない。」

研究科目の「魅力」はココ!研究科目の「魅力」はココ!

一般市民と国家権力の架け橋となり より良い未来へ繋いでいける一般市民と国家権力の架け橋となり より良い未来へ繋いでいける

大きな魅力は社会と直結している点ですね。私の原理論的な研究そのものは世の中に直接大きな影響を及ぼさない分野ですが、憲法の条文には書かれていない“憲法の本質(エッセンス)”を見出していき、歴史や哲学にも紐づけて考える奥の深いもの。この研究がベースにあるので、たとえば判決や条文、あるいは現実の政治について、他の憲法学者たちと異なる見方や解釈ができ、世の中に提言していくことができるんじゃないかと思っています。そもそも法学は社会をよりよくするためにあるもので、法学者は“社会のお医者さん”のような存在なんですね。憲法は国のあり方とか政治といった「大きな社会」を対象とします。自分の研究を踏まえて、自分なりに少しでもより良いと思える社会になるように発信をしていく、そういった部分には、実にやりがいを感じます。

もし世の中が平和で、みんながハッピーで、改憲論が盛り上がる世の中でなければ、私はフランス憲法学・法哲学の研究に没頭するでしょう。しかし現代社会のニーズに応えるのも大学人の務めですし、研究と関連した部分で社会的な責任を果たすことが少しでもできれば、とも思っています。最近はとくに、一般市民、そして政治家双方から専門的な知識が求められていることを肌で感じます。メディアに出たり講演にでかけたりして、わからなかったことがわかったとか、憲法の大切さが理解できたと言ってもらえることは喜びで、学問と社会の架け橋的な存在でいられるのはとても幸せですね。

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OFFの1コマ

「仕事も趣味のうち、オンオフの切り替えはないですね」と先生。それでも旅行は特別。公私ともに1990年から毎年1回以上の“海外脱出”を連続27年達成中で、今まで45カ国・地域を訪問。青春時代を過ごしたフランスには26回渡航…という猛者ぶり!「仕事も趣味のうち、オンオフの切り替えはないですね」と先生。それでも旅行は特別。公私ともに1990年から毎年1回以上の“海外脱出”を連続27年達成中で、今まで45カ国・地域を訪問。青春時代を過ごしたフランスには26回渡航…という猛者ぶり!写真は留学中に研究報告を行ったフランス学士院。「パリを訪れるたびに当時を懐かしんで散策するエリアです」と愛着のある旅先とのこと。

先生の必須アイテムはコレ!

スマホ

六法全書をはじめ、本だと分厚くて重いフランス語の辞書もアプリで購入。出張先での記録も最近はデジカメをやめてオールスマホでパシャッ。もちろんお得意の呟きもコチラから。

PC

スマホに続き必須アイテムはノート・デスクトップともにパソコン。「決して、ネット依存症じゃないですよ(笑)」。アナログな新聞閲覧とバランスをとっているそう。

著書『憲法主義』

AKB48の内山奈月さんへの2日間に渡る集中講義をほぼそのまま書き起こした、先生の研究PRポイント“条文には書かれていない本質”が詰まった憲法入門書。「宣伝の為にバッグに入れて持ち歩いています(笑)」。

学生へのメッセージ

新聞を読もう、興味のないモノと出会おう。知らない社会を知ろう!

今、憲法改正の主張がこれまで以上に強くなっている時代です。だからこそ本気で憲法や政治、社会に関心を持ってほしい。“改憲”の前に“論憲”、論憲の前に“知憲”が必要です。改憲した場合、自分たちの将来も条文によっては大きく変わってきます。条文の変え方次第では、たとえば私たちが想像もしていなかったような首相が出てきて、条文を悪用する可能性もあります。だから一人一人がよく考え、自分の意見を持つことがとても大切なんです。自分が住む社会に関心を持ち、常日頃からより良い社会の為にいろいろ考えられる人になるための第一歩は、月並みですが、ズバリ新聞を読むこと。インターネットだと自分の興味のある情報しか得られませんが、紙の新聞は広げるとバッといろんな見出しが飛び込んでくる。それが良いんです。関心がなかったネタ、今まで知らなかった情報が現れて、紙の新聞だと“ニュースとの出会い”があるんですね。また新聞はプロの記者が何重にもチェックして書いているのでネットの情報よりも、信用性が高い点も大きなポイントです。斜め読みでもいいので、毎日、紙の新聞を読む習慣をつけてほしい。新しい興味や関心が芽生えて、それが判断力と行動力へと繋がっていきます。憲法改正を最後に決めるのは国民です。憲法をなんとなくのムードで変えることは危険。自分の意見をもつためにも、まずは明日から朝刊をとりましょう!(新聞社のまわしものではないので、あしからず!)

取材日(2017.10)

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