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「スローブレイン・エイジング」を広め 人生100年“健康”時代を可能に!「スローブレイン・エイジング」を広め 人生100年“健康”時代を可能に! 歯学研究院 口腔機能分子科学分野 准教授 武 洲

歯学研究院 口腔機能分子科学分野 准教授

武 洲

口から全身の炎症を防ぐことで認知症予防を提唱、超高齢社会における健康長寿大国づくりに励む。パワフルな行動力と繊細な心配りを併せ持ち、世界中を駆け巡るサイエンティスト。中国語・英語・日本語の3カ国語を自在に操り、得意の日本語はひとりカラオケでマスターしたという逸話あり。

口から全身の炎症を防ぐことで認知症予防を提唱、超高齢社会における健康長寿大国づくりに励む。パワフルな行動力と繊細な心配りを併せ持ち、世界中を駆け巡るサイエンティスト。中国語・英語・日本語の3カ国語を自在に操り、得意の日本語はひとりカラオケでマスターしたという逸話あり。

プロフィール

中国東北部、吉林省長春市出身。建築専門家の父、元体操選手の母のもと、基礎の理念と忍耐力を身に付けて育った。本が大好きな少女で小説家を夢見ていたが、将来を案じた両親の薦めで理系に進んだ。白求医科大学(現吉林大学医学部)入学し(歯科専攻)、卒業後は同大学附属病院の歯科専門医師として10年間勤務。1996年、基礎医学を深めるため、日本へ留学。九州大学歯学府博士課程修了後、学術振興会外国人特別研究員、助教、講師を経て、2010年より現職。長年に渡り歯周病を含む末梢慢性炎症の脳機能に及ぼす影響について研究を行い、2017年、歯周病菌成分がアルツハイマー様病態を誘発、その関与する原因酵素を特定した研究成果は、国内外から注目を浴びている。国内外に女性研究者ネットワークを持ち、中国各地の大学の客員教授も務める。

何を研究してるの?

「一番好きな色は元気になれるオレンジなの!」とハキハキと明るく話してくれた武先生。終始笑い声が続く取材だった。

「目で発見」を研究原点に、日々地道な観察に精力を注ぐ。顕微鏡で見た組織像をモニターで映しながら細かく検証する。

研究プロジェクトメンバー。若手教員ならびに研究意欲の高い留学生と切磋琢磨をしながら、研究を進めている。

「一番好きな色は元気になれるオレンジなの!」とハキハキと明るく話してくれた武先生。終始笑い声が続く取材だった。

「歯と脳って関係しているの?」と意外かもしれませんが、近年、欧米諸国の臨床研究から歯周病と認知症の相関関係は、重度歯周病を罹る高齢者は認知症になりやすい、歯周病を罹る認知症患者の病態進行が早いと報告されています。また歯周病菌のジンジバリス菌(Pg菌)と菌成分(LPS)が亡くなったアルツハイマー病患者の脳内で発見される、という驚きの事実もありましたがその因果関係、詳細なメカニズムは不明です。

「目で発見」を研究原点に、日々地道な観察に精力を注ぐ。顕微鏡で見た組織像をモニターで映しながら細かく検証する。

私が今の研究を始めた背景は大学院生時代の末梢慢性炎症の研究に遡ります。助教として着任した現所属の研究室で脳研究を行うきっかけに、末梢炎症と脳を結ぶ新しい研究プロジェクトを立ち上げました。これまで脳を覆う「髄膜」の末梢から脳への炎症シグナルの新しい伝達ルート、中高年者では末梢慢性炎症が深刻な脳炎症を惹起することを明らかにし、さらに4年間かけて、中高年者では末梢炎症により惹起された脳炎症は、記憶機能を低下させることを実証してきました。アルツハイマー病は、認知症の割合として最も多く、発症は加齢につれて急激に上昇します。2011年からカナダブリティッシュコロンビア大学にてアルツハイマー病研究の第一人者であるPatrick McGeer教授 と共同研究を行い、アルツハイマー病研究に参入しました。最近ではアルツハイマー病の起因に新しい「慢性脳炎症仮説」が提唱されています。長年に渡り地道に築いてきた「末梢慢性炎症が脳炎症を惹起し、認知機能を低下させる」という研究コンセプトはまさに「アルツハイマー病研究の最前線」の研究コンセプトと一致しています。

研究プロジェクトメンバー。若手教員ならびに研究意欲の高い留学生と切磋琢磨をしながら、研究を進めている。

歯周病を末梢慢性炎症と捉え、研究の流れを自然に歯周病のアルツハイマー病に関与メカニズムの解明へと展開しています。「継続は力なり」の言葉通り、最近、私たちは3年余りかけて、Pg菌LPS の全身に慢性投与による中年マウスにおいてミクログリア依存性脳炎症が、ニューロン内にアミロイドβの産生・蓄積ならびに学習・記憶能低下というアルツハイマー様病態を誘発することを発見し、さらに遺伝子欠損マウスを用い、カテプシンBがPg菌LPSより誘発されるアルツハイマー様病態に関与する原因酵素であることを突き止めました。この発見は初めて中高年慢性歯周病は認知症を誘発する可能性を実証し、注目を集めています。

病態機序の解明の展開として、「炎症を制御する」天然物質の探索も行っています。これまでリン脂質ホスファチジルセリンを含むリポソームの炎症性骨破壊の抑制作用、国内民間企業や海外共同研究によりプロポリスのミクログリア依存性脳炎症の抑制作用、チベット天然植物成分ならびにプロポリスのニューロン保護作用を明らかにし、基礎研究成果を実用化して、社会に還元したいと強く思っています。今後、食品開発に向けた研究も行っていきますが、食品や薬の開発には長い年月がかかります。まずは口腔ケアを行い歯周病の予防習慣を広めていきたいと思っています。

研究科目の「魅力」はココ!研究科目の「魅力」はココ!

口腔ケアで全身の炎症を軽減 超高齢社会に貢献できる口腔ケアで全身の炎症を軽減 超高齢社会に貢献できる

歯周病は歯を支える歯周組織における慢性炎症で、大人の歯が抜ける主な原因です。しかし継続的な治療を受けている患者数は少なく、歯周病は痛みが弱いため、ほとんど気付かない、もしくは気付いても治療をしない、歯が抜けるのは老化現象だと思う人が多いです。

超高齢社会に突入した日本は、国を挙げて予防医療の重要さがうたわれています。世界各国でも老化スピードが進み、全世界で高齢者人数は20年以内で1億人を超え、認知症の患者数も急増すると推測されます。「発症を5年遅らせることで、アルツハイマー認知症患者が半減できる」と推計されていますが、歯周病が認知症を誘発する観点から、口腔ケアによって全身の炎症を防ぎ、認知症の予防ならびに発症を遅らせられることも考えられます。

年をとるに抗う「アンチ・エイジング」ではなく、口腔ケアを始め、全身炎症を軽減することで健やかに年を重ねいく「スローブレイン・エイジング」に関する研究を深め、世界へ広めて行くことが私たち研究者の使命だと思っています。“長寿大国”である日本は、“健康寿命大国”となり、世界のお手本となるべきです。世界で一番の長寿国で最先端の研究を進め、「口腔ブレインサイエンス」として世界に発信し続け、世界の高齢社会に貢献できることが大きな魅力ですね。

DAILY SCHEDULEDAILY SCHEDULE


OFFの1コマ

食で健康と信念をもつ先生は料理研究も熱心!短時間で味も見た目も良く、食材の効用を考慮して食器も楽しむオリジナル薬膳料理・“口健創食”は、研究テーマの応用編だと最近気付いたという。夢のレシピ本出版も近いかも?読書、ヨガ、ベランダガーデニングも楽しむ、多忙で多趣味な先生が一番楽しみしている時間は…やっぱり世界各国に住んでいる家族と一緒に過ごすひと時…。食で健康と信念をもつ先生は料理研究も熱心!短時間で味も見た目も良く、食材の効用を考慮して食器も楽しむオリジナル薬膳料理・“口健創食”は、研究テーマの応用編だと最近気付いたという。夢のレシピ本出版も近いかも?読書、ヨガ、ベランダガーデニングも楽しむ、多忙で多趣味な先生が一番楽しみしている時間は…やっぱり世界各国に住んでいる家族と一緒に過ごすひと時…。

先生の必須アイテムはコレ!

研究ノート

ビタミンカラーのオレンジが大好きな武先生。白衣のポケットに入るコクヨのキャンパスノート(A6サイズ)を熱烈愛用し、思いついたことはすぐにメモ。ノートが数冊入るバッグインバッグもオレンジ色。

こすると消えるボールペン

筆記具はPILOTのフリクションボール3を携帯。昔は何本もペンを持ち歩いていたが、フリクションに出会って相棒に昇格。オレンジのサシ色、ブルーがお気に入り。

スマホ

世界中を飛び回る先生のスマホには1000人以上の情報が常にプットイン。ちなみに手書きのメモは日本語がほとんどで、PCでは英語と日本語が多く、スマホでは中国語をよく使用するそう。

学生へのメッセージ

“今”を素直に自分らしく生き、
さらに先の健やかな“今(未来)”を探し続けて。

人生とは、自分を探す長い旅。山登りやマラソンのようにきつい時もありますが、そのきつさを乗り越えた先に、きっと素晴らしい景色が待っています。私も紆余曲折を経て、研究者として今も「研究の山道」を登り続けています。最近の3年余りをかけて辿り着いた研究で、改めてプレシャーを研究のエネルギーに変え、研究を深めるにつれて精神的な強さも鍛えられると実感しています。

学生時代はいわば基礎を築く時代です。勉学はもちろん、自分を支える体も心も基礎となるものが大事です。私を励ましてくれる言葉に「点と点をつなげ(スティーブ・ジョブス)」があります。研究論文(点)として次の点(論文)につなげていきます。研究も未知の事実を探す長い旅。研究者は世界中に見えないライバルと戦いながら一歩先を目指していかなければなりませんので、アスリートのように体力と精神力が求められます。何の仕事をしても、一人の人間として、常に過去の自分を超えることを意識し成長してほしいですね。

みなさん、人生100年時代です。ぜひ、“今”を素直に自分らしく過ごし、さらにその先の健やかな“今(未来)”を探し続けていってください!

取材日(2017.10)

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