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アクティブセンサで雲研究の新展開を切り開くアクティブセンサで雲研究の新展開を切り開く 応用力学研究所 地球環境力学部門 教授 応用力学研究所 副所長 九州大学 主幹教授 岡本 創

応用力学研究所 地球環境力学部門 教授 応用力学研究所 副所長 九州大学 主幹教授

岡本 創

気候変動予測で最大の不確定性要因である雲と大気中の微粒子の特性を観測から明らかにする事を目的に、自ら電磁波を出すアクティブセンサを搭載した衛星観測データの解析手法や観測機器を独自に開発。世界初の観測機器を搭載した日欧共同の人工衛星「EarthCAREプロジェクト」を率いるアクティブセンサによる雲解析の先駆者。2019年の衛星打ち上げに世界中から期待が集まる。

気候変動予測で最大の不確定性要因である雲と大気中の微粒子の特性を観測から明らかにする事を目的に、自ら電磁波を出すアクティブセンサを搭載した衛星観測データの解析手法や観測機器を独自に開発。世界初の観測機器を搭載した日欧共同の人工衛星「EarthCAREプロジェクト」を率いるアクティブセンサによる雲解析の先駆者。2019年の衛星打ち上げに世界中から期待が集まる。

プロフィール

東京生まれ、兵庫県育ち。中学時代から物理学に興味を持ち、神戸大学大学院では惑星科学に関するテーマで研究生活を開始。研究室を訪問・講演されたドイツの研究所長の招きで1993〜94年、ドイツGKSS研究所に留学、地球の雲の研究に従事。1996年、同大学院自然科学研究科自然科学専攻博士課程修了。東京大学気候システム研究センター日本学術振興会特別研究員、1998年郵政省通信総合研究所(現情報通信研究機構)研究官、2001年、東北大学大学院理学研究科助教授、2007年、准教授を経て、2010年から九州大学応用力学研究所教授に着任。2017年同大学主幹教授に。2011年度日本気象学会学会賞受賞。2006年に打ち上げられた、NASAの人工衛星CloudSat-CALIPSOサイエンスチームメンバー、2013年、JAXA-ESA共同地球観測衛星計画「EarthCAREプロジェクト」の共同議長に就任。日本・ヨーロッパの研究者の参加するEarthCARE衛星計画全体のとりまとめを行っている。

何を研究してるの?

柔らかい物腰で一つの質問に対しじっくりと回答してくれた岡本先生。

2019年に打ち上げ予定の「EarthCARE衛星」。従来の衛星にはなかった動きを測る機能が搭載され、雲、エアロゾルや降水の特性や大気の上下運動を高精度に観測できると期待されている。(イメージ ESA提供)

EarthCARE衛星のドップラー機能を持つ雲レーダで得られる予定の観測値をシミュレーションしたもの。雲内部のドップラー速度の緯度高度断面を示している。

柔らかい物腰で一つの質問に対しじっくりと回答してくれた岡本先生。

雲とエアロゾルと呼ばれる大気中の微小粒子を、紫外、可視や赤外波長のレーザー光を用いるライダや、ミリの長さの波長をもつレーダを用いて観測し、粒子の大きさや質量などの物理特性の地球全体の3次元分布について調べています。雲やエアロゾルの特徴を把握することは、10年以上のもっと長い時間の中で地球全体の気候システムがどう変化していくかをよりよく予測することにつながります。雲がどのように気候システムと関係しているかというメカニズムは未だに十分には理解されていません。このため雲は気候変動予測における最大の不確定要素であると認識されています。
雲が生成され消滅する過程を簡単に説明します。まず、大気中に浮遊するエアロゾルは雲をつくる核となります。その大きさはわずか約0.0005㎜。地球大気には水蒸気が存在しますが、大気中の微粒子エアロゾルが上昇気流に乗り上空に運ばれる過程で水蒸気を吸着し、元のエアロゾルの100倍以上の0.01mm程度の雲粒となります。重力で落下する過程で大きさの異なる雲粒同士が衝突併合し、やがて0.5㎜以上の雨粒となり地上に落下し、やがて雲は消滅します。

2019年に打ち上げ予定の「EarthCARE衛星」。従来の衛星にはなかった動きを測る機能が搭載され、雲、エアロゾルや降水の特性や大気の上下運動を高精度に観測できると期待されている。(イメージ ESA提供)

雲は液体の水でできたものと固体である氷のものがありますが、液体の水でできた雲は中緯度だと地表から4000m以下の比較的低い高度の暖かい下層に存在します。それより上の高度だと氷の粒子で構成された雲が多くなってきます。下層の雲は主に地球を冷やす効果があり、上層の雲は特性の違いによって暖めたり冷やしたりします。これらは雲の放射効果といわれますが、その大きさや符号は雲粒子が氷であるか水であるか、雲の存在する高さ、そして粒子のサイズや質量で決まってきます。さらにそれらの特性は場所や季節によりますし、時々刻々と変化していきます。雲の生成や消滅に関連するメカニズムは非常に複雑です。これらの事情から雲を予測する事は、難しいことになります。

EarthCARE衛星のドップラー機能を持つ雲レーダで得られる予定の観測値をシミュレーションしたもの。雲内部のドップラー速度の緯度高度断面を示している。

人工衛星により本格的に雲の観測が始まったのが1980年代前半ですが、太陽光などを光源とする受動型センサーを使用し、水平分布はある程度わかるのですが、高さ方向の情報はよくわかりませんでした。これに対して自ら電磁波を出すアクティブセンサは、観測機器が送信パルスを出してから、雲粒子に当たって反射されて、観測機器に戻ってきて受信するまでの時間を測定することで、雲までの距離に換算することができ、高さ方向の情報を得ることが可能になります。限界もあって、1つの波長を用いるだけだと、雲粒子のサイズと質量の両方を知ることができないと研究開始当初の1993年から感じていました。1998年頃に再びこの問題を考えるようになり、やがて「レーダとライダという2つの大きく波長の異なる測器を用いれば、雲粒子の質量やサイズを同時に求めることができるのでは」と思うようになりました。これは波長と粒子のサイズの関係が大きく変わると、散乱の性質もまた大きく変わることを利用しようということです。このような発想に至ったのは、大学院時代に研究していた惑星科学をやっていた頃から「光散乱」の理論を研究していた経験があってこそだと思います。

当初はこのアイデアに対しては否定的な意見も多かったと記憶していますが、地上の雲レーダとライダによる雲の同時観測を行って、それらのデータから氷雲の粒子サイズと単位質量あたりの質量を出すことに成功し、だんだんと受け入れてもらえるようになりました。その後2006年にはアメリカから雲レーダとライダを各々搭載した2基の地球観測衛星を同時に打ち上げられ、私もその衛星計画のサイエンスチームメンバーとして携わりました。これらの衛星による同時観測データを作成し、さきほどの解析方法を応用し、地球全体の氷雲の3次元の物理特性を初めて解析することはできました。我々の研究室で解析して得られたデータは、世界各国の研究機関への配信され、気候変動の研究に利用されています。日本とヨーロッパで共同で2019年に打ち上げ予定の地球観測衛星「EarthCARE」には、雲内部の動きがわかるドップラー機能を持つ雲レーダーとこれまでより高機能のライダといった次世代型のアクティブセンサーが搭載されることになっています。この計画の日欧共同議長として、この計画に携わる日本とヨーロッパの研究者を指導し、実現と成功に向けて日々努力しています。衛星観測を検証するため、衛星と同等の信号を地上で得られるような新しい観測機器の開発も行っています。この次世代型の衛星によって、雲やエアロゾルの種類、雲粒子の質量とサイズ、粒子の落下速度などの物理特性、そして雲内部の大気の上下運動が得られる等、これまでより格段に詳細な観測が可能になります。解析が進めば、気候変動予測研究にも新しい展開が期待できると考えています。

研究科目の「魅力」はココ!研究科目の「魅力」はココ!

考え得られたひらめきを発展させ、科学的発見として結実させること。考え得られたひらめきを発展させ、科学的発見として結実させること。

研究は苦労が多いと思っています。成果が出るまでに多くの労力が必要で時間もかかります。自分なりに有用だと思えるアイデアを思いつくのは数年に一度くらいです。先に述べたような新しい解析手法は、ふとした瞬間に思いついたものでしたが、ある程度まとまった期間集中して考え続けたからこそ得られたのだと思っています。自分なりに考えたことが科学や技術の成果として実現できたり、科学的な発見につながる事が研究の魅力です。「EarthCAREプロジェクト」は、企画から少なくとも17年を超え、何百人という研究者や技術者が関係している巨大なプロジェクトですが、そこでも個人の創造性が非常に重要だと考えています。衛星は打ち上げ後が本番ですが、その次の将来の衛星計画、もっとよい観測機器は何かを考えています。

EarthCAREによって気候変動予測能力が今より向上すれば、気候変動と人間活動の関係について、国際的により精度の高い議論が可能になると思います。基礎的な学問と実社会とが密接に関連している点も、研究における大きなモチベーションになっています。

DAILY SCHEDULEDAILY SCHEDULE


OFFの1コマ

研究室に飾った絵画のポスターで癒されている。研究室に飾った絵画のポスターで癒されている。

先生の必須アイテムはコレ!

研究ノート

2010年から通算2x冊目。思いついたアイデアを数式や図を用いて自由に書く。あとで全体を俯瞰できるA4サイズのノートを愛用。

ポータブルHDD

自宅と研究室のどちらも同じ環境で仕事できるようにハードディスクを常に持ち歩き。

コーヒー一式

豆から挽き、ビックサイズのマグカップでコーヒーを2〜3杯飲むのが日課。コーヒー以外に日本茶もよく飲む。

学生へのメッセージ

打ち込めるものを見つけよう!

きっかけは小さな興味からでいいので、面白そうと思える学問分野を選んで集中して考えてみてください。そこから自分が打ち込めるテーマ(問題)を見つけてください。物事には真摯に向き合うことが大事です。また、直感や判断力を大切にして、サバイバル能力を日頃から鍛えてほしいと思います。知識を単に蓄えるのではなく、自分でしつこく考えることで強靭な思考力がついていきます。集中して打ち込めるものに出会うことができれば、そこで得るものは直接的な形で役に立たなくても、いろんな方面に進んだ時に様々な形で生かせる時が来ると思います。私の場合も、現在の研究テーマの前に他の分野で考えたことが、今役立っていると感じています。

取材日(2017.10)

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