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無限の可能性を秘めた「結び目理論」難解な証明のための“道具”を見つけたい!“無限の可能性を秘めた「結び目理論」難解な証明のための“道具”を見つけたい! 大学院数理学研究院 准教授 博士(数理科学) 高田 敏恵

大学院数理学研究院 准教授

高田 敏恵

近年、遺伝子学などさまざまな分野の応用として注目されている、結び目理論研究のフロントランナー。数多の数字から規則性を見出す研究者の顔を持つ一方で、TVドラマやアニメ好きな一面も持つ。おしゃべりも大好きで学生から大いに親しまれる存在である。

近年、遺伝子学などさまざまな分野の応用として注目されている、結び目理論研究のフロントランナー。数多の数字から規則性を見出す研究者の顔を持つ一方で、TVドラマやアニメ好きな一面も持つ。おしゃべりも大好きで学生から大いに親しまれる存在である。

プロフィール

福岡県行橋市出身。子どもの頃から算数が好きで、中学時代、考える力を養う教育を行っていた女性の数学教師に出会い、数学の面白さにハマる。高校では、九州大学で博士号を取得した数学教師によって研究職に興味を持ち、1985年九州大学理学部数学科(当時)入学。大学後の進路を決めた1990年当時はバブル絶頂期にもかかわらず就職せずに修士課程に進んだのは、自主ゼミを指導してくれた先輩が所属していた位相幾何学講座の影響から。修士1年時の担当教授に結び目の量子不変量に関する論文を勧められ、以来研究職1本に。「すべては人との出会いによって道が定まった」と話す。1993年東京大学にて博士号(数理科学)取得。同年、九州大学に戻り理学部数学教室助手を務める。2001年から2009年まで新潟大学での准教授を経て、2010年度より現職。結び目理論研究の第一人者として論文を発表するとともに、オープンキャンパスでの模擬講義、高校での出前授業を行うなど教育活動も熱心に行っている。

何を研究してるの?

図1:結び目例 A:自明の結び目 B:三葉結び目。色を塗ると同一でないことが明確になる。

結び目の模型を用いながら説明してくれた高田先生。研究室にはビニールに入ったまま飾られているぬいぐるみがちらほら。理由を聞くと「汚したくないから…」とお茶目な回答。

論文には作図が必須。図の各弧に、赤・青・緑のいずれかの色をつけ「彩色」しながら結び目の証明を行う。

図1:結び目例 A:自明の結び目 B:三葉結び目。色を塗ると同一でないことが明確になる。

まず、結び目とは何なのか、何を研究するのか、その定義やルールをお話します。みなさんは荷物を紐で結ぶ時、ほどけないように工夫して結びますよね。数学では、結び目を紐の両端を閉じたもの、すなわち輪になったものとして考えます。一番簡単な結び目は端と端をくっつけて円のカタチになるモノで、これを「自明な結び目」と言います。輪ゴムはまさに「自明な結び目」ですね。

結び目の模型を用いながら説明してくれた高田先生。研究室にはビニールに入ったまま飾られているぬいぐるみがちらほら。理由を聞くと「汚したくないから…」とお茶目な回答。

「結び目理論」は、「自明の結び目」ではない、絡み目を含む輪が同一であるか同一でないかを証明する研究です。図1をみてください。AとBは一見同じ輪のように見えますね。しかし実際には、Aはほどける輪、Bはほどけない輪で、結び目に対して構成された数学的量がAとBに対して異なる値をとることを示すことにより、A≠Bを証明できます。ちなみにBは三葉結び目という名前がついています。

結び目が上下で交差するところを交点といいます。数学上では交点を無限に増やすことができ、交点が増えていくほど複雑化していきます。図のようにシンプルな輪であれば実際に模型を作って予測できますが、交点が多くなればなるほど模型を作るのには限界があります。そこで利用するのが「不変量」です。不変量は同じ結び目に対しては、同じ値をとるので、AとBに対する不変量の値が異なれば、A≠Bを証明できます。有名な不変量は「ジョーンズ多項式」です。これが発見されてから結び目の多項式不変量の理論はめざましく進展し、数学界以外の分野にも大きな影響を与えました。現在は14交点をもつ結び目が1万個以上分類されており、これからも分類が進んでいくと考えられます。その分類において結び目の違いを証明する強力な不変量を見つけるのが、私の大きな研究目標であり夢です。

論文には作図が必須。図の各弧に、赤・青・緑のいずれかの色をつけ「彩色」しながら結び目の証明を行う。

紀元前から測定や記録などで活用されてきた数学ですが、結び目理論は19世紀から始まった比較的若い分野で、近年様々な分野への応用に利用できると期待が高まっています。例えば遺伝子学。DNAはまさに結び目ですので、結び目理論を使えば、実験をしなくともこのDNA構造が同一か同一でないかが計算でわかることがあり、難病などの突然変異を予測することにつながります。また、身近なところでは、地下鉄や高速道路、電気回路などで、最適化な構成を考える際に利用されるグラフ理論においても結び目理論が応用されています。私の研究はその世に出る前の段階の基礎研究なので、研究内容が社会の何に役立つか、という点では正直なところ未知です。でも、私にとっては結び目を追求し数式から規則性を見つけること自体が単純にとても楽しい。人間が本来持ち備えている「好奇心」が数学を発展させ、医学・科学などあらゆる分野で社会の成長や進歩の一助となっていると思うのです。

研究科目の「魅力」はココ!研究科目の「魅力」はココ!

数学は道具要らず!いつでもどこでも、自分の頭だけを頼りに答えを生み出せる!暗号の破り方、守り方は表裏一体学んだ学問が実際にサービスとして役に立つ!

数学はどんな難問でも答えがあり、それを見つけた気持ち良さこそ研究の魅力でありモチベーションです。答えや証明がシンプルであるほど美しく、格好いい。それに数学で必要なのは思考だけ。性別関係なく、自分の頭だけで世界と勝負できる点も特長かもしれません。

数学界では突然、ブレークスルーが訪れ一気に研究材料や研究方法が増えるタイミングがあります。ラッキーなことに私は結び目理論を研究し始めた修士一年の時に、それが訪れました。当時は数式の手計算から得られる少ないデータから予想することが多かったのですが、現在はコンピューターに数式を大量に打ち込んでいき、データを作り予想をたて、証明することが多くなっています。計算して出た膨大な数字の羅列から共通項を見出す地道な作業を日々繰り返すことで、新たな答えを生み出せるのです。

小学生の頃、算数の図形問題で補助線を1本引いただけで答えがわかった瞬間の、「見つけた!」という感動を今でも覚えています。私の研究は世に出る前のいわば基礎工事。数学の世界は終わりがないので0から1を生み出すのは大変ですが、見つけ出した時の喜びと達成感は言葉では表せないほどですね。

九大での学びについてひとこと!九大での学びについてひとこと!

九大の特長はたくさんの選択肢があるということ。選択肢があれば可能性もそれだけあるということです。数学は幅広い学問ですが、学びながら自分に合っていないと気づいたとしたら、別の分野の勉強もできる環境が整っているので、いくらでも軌道修正ができます。また、産業界・各科学分野と連携している「マス・フォア・インダストリ研究所」やインターンシップ制度を活用し、純粋数学や応用数学を実生活、社会に役立たせる可能性を学生時代に見出せることも大きな魅力ですね。留学生もたくさんいますし、世界と触れ合える機会が多いのも九大ならではの環境だと思います。

DAILY SCHEDULEDAILY SCHEDULE


OFFの1コマ

25歳の頃、カルチャースクールに通い始めたのがきっかけで茶道の世界に入り、表千家の講師でもあり、九大裏千家茶道部の顧問(※裏千家なので実技指導はできないとのこと)の高田先生。週に一度はお寺に通い、お茶をたしなむそう。「茶道の世界は数学とは別世界ですが、学びに終わりがないところは一緒です」。緊張感がたまらなく刺激的とのことで、集中しているオフの茶道の日だけは、研究のことをスッカリ忘れると先生。「とても良い頭のリフレッシュになっていますね!」。

25歳の頃、カルチャースクールに通い始めたのがきっかけで茶道の世界に入り、表千家の講師でもあり、九大裏千家茶道部の顧問(※裏千家なので実技指導はできないとのこと)の高田先生。週に一度はお寺に通い、お茶をたしなむそう。「茶道の世界は数学とは別世界ですが、学びに終わりがないところは一緒です」。緊張感がたまらなく刺激的とのことで、集中しているオフの茶道の日だけは、研究のことをスッカリ忘れると先生。「とても良い頭のリフレッシュになっていますね!」。

先生の必須アイテムはコレ!

お弁当袋

毎日、お手製のお弁当を研究室に持参。赤やピンク、オレンジなど華やかで気分が上がる色が大好きなので、当然袋にもこだわっているそう。

筆箱

気に入ったものを長く使う先生。ピンクの花柄の筆箱も10年選手で、図を描く際や論文チェックに必要な色鉛筆がギッシリ。ジッパーの先にかわいらしいストラップを付けているのがポイントで「実は熱烈なキティラーで小学校の時に使った下敷きもまだ持っています(笑)」。

PC

机にはWindows版のデスクトップPCが2台並び、お絵かきソフトが入ったPCで結び目の図を描くと同時に、論文を執筆。「数式をずっと見ていると目が疲れるので」と、最近退職された先生からもらった40インチの巨大なディスプレイ2台も使う予定。

学生へのメッセージ

学生時代は、ある意味“失敗OK“な貴重な期間
積極性をベースに思いきり可能性を広げて!

「自分で考えて」。その一言ですね。学びや研究においては、自分の頭こそが頼りで結果は正しいか間違っているかどうか。その結果を導き出すためには、自分で考えるというプロセスを経ないといけません。最近の学生さんたちは先生からの指示を待っている人が多いような気がします。また、目的に向けて、最短の選択肢を選ぶ人も多い傾向にあるように感じます。論文を読んで理解するために勉強するプロセスを省き、論文の要旨だけを検索して理解したつもりになっている。でもそれでは考える能力や執筆の技術は養われません。自分を過小評価して、できる範囲内でとどめてしまっているように見えるのです。

学生のうちは何でも失敗してOKなのです。回り道や寄り道をしても、経験はすべて力になる。興味を持ったらすぐチャレンジして、行動してほしい。大学という整った環境の中で、積極性をベースにすることで可能性がぐんと広がります。一人ひとりとの出会いを大切にしてください。私もさまざまな出会いがあったからこそ、この道に進んでこられました。学生時代は人生の中でのたったの数年という貴重な時間。省エネルギーをやめて、自分から動かないともったいないですよ!

取材日(2019.11)

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