Research 研究・産学官民連携
大学院芸術工学研究院 研究院長特別補佐 デザインストラテジー部門 准教授 平井康之
デザイン思考とは
デザイン思考は、シリコンバレーに本拠がある世界的なデザイン会社アイデオ(IDEO)が発信源です。私はデザインコンサルタントとしてアイデオに勤務した経験をもとにデザイン思考を教育・研究で実践しています。
現在の我々の生活を考える時、環境問題や少子高齢社会など、世界が直面する社会的課題と切り離せない状況となっています。デザイン思考は、そのような社会的課題を発見し、イノベーションを生み出す手法として注目されています。ロジカル思考だけでは難しい「0から1」の課題発見にデザイン思考は向いています。
デザイン思考では、これまでのような技術的な課題解決ではなく、人間(Desirability)を中心に、ビジネス(Viability)、技術(Feasibility)の3つを統合的に見ていきます。またデザイン思考は、従来の造形などのかたちのデザインでもありません。これまでデザイン学の世界で培われてきた、アイディアをスケッチなどで描く「可視化」や、手近なもので試作品を素早く作る「プロトタイピング」などのデザイン手法を用いながら、多様な専門性を持つ参加者が共同して課題発見と解決を創造的に行うところに特徴があります。
アイデオの創業者でスタンフォード大学教授のデイヴィッド・ケリー氏は、デザイン思考を実践するd.schoolを、2006年にスタンフォード大学に創設しました。このd.schoolから大学教育へのデザイン思考の応用が始まりました。
日本でも東京大学i.schoolをはじめ、慶應大学SDM(System Design Management)などで教育プログラムとして取り入れられています。平成25年版科学技術白書では、科学技術イノベーション人材の能力として、「専門分野にとどまらない広範な分野にまたがる問題の解決を志向し、実際に行動し実現していくこと」と提示し、その人材育成の取り組み一例として、「デザイン思考を基にした教育」を取り上げています。アクティブラーニングと似ていますが、プロトタイピングなど解決策の可視化まで行える点が異なります。
芸術工学研究院での取り組み
芸術工学研究院では、このデザイン思考のアプローチをエンジンとした「世界的デザイン教育・研究拠点構想」を進めています。拠点が中心となって国際、地域、学内の3つの分野で、部局内、部局外を結ぶ領域横断的研究教育活動を推進しています。
国際
国際的デザイン研究教育ネットワーク構築を目的として、フィンランドのアールト大学、イギリスの英国王立芸術大学院大学(RCA)など海外のトップクラスのデザイン系大学と学術交流提携を結び、デザイン思考を応用した共同教育プログラムを行っています。
「グローバルデザインプロジェクト」
アールト大学メディアラボと、2040年の未来を考えるグローバルデザインプロジェクトを行っています。九州大学 ロバート・ファン/アントレプレナーシップ・センター( QREC )と共同授業で全学から20名の学生が受講しています。来年2月にはアールト大学で最終プレゼンテーションを行います。
「Workspace 2020 Japan」
アムステルダム応用科学大学メディアラボ・アムステルダムと共同で「2020年の日本のワークスペースのデザイン」をテーマにプロジェクトを行いました。
http://medialabamsterdam.com/blog/project/workspaces2020-jp/
地域
地域レベルでは、福岡市をはじめ地域の行政機関や企業とデザイン思考を応用したプロジェクトを行っています。
「高齢者の視点からのソーシャルインクルージョンCOI」
本プロジェクトは、九州大学、北九州産業学術推進機構(FAIS)、介護事業を展開するウチヤマホールディングスの3者による産官学プロジェクトです。平成26年度、文部科学省の大学等シーズ・ニーズ創出強化支援事業(COIビジョン対話プログラム)に採択されました。高齢者施設の入居者をはじめ、高齢者施設に関わる様々なステークホルダーの気づきを収集分析し、実際にケアマネジャーが使えるコミュニケーションツールのデザイン開発を行いました。
「福岡市支援事業ユニバーサル都市・福岡デザインワークショップ」
本ワークショップは、福岡市の推進する「ユニバーサル都市・福岡」の一環で、現在増加している福岡を訪れる外国人観光客を対象に「食」をテーマにしています。社会人や学生など30人が参加しました。
学内
他の部局との共同プロジェクトを積極的に推進しています。
「ストラテジックデザイン思考」
デザイン思考を応用した教育活動は、文部科学省グローバルアントレプレナー育成促進事業(通称EDGEプログラム)に採択されています。「ストラテジックデザイン思考」は、そのひとつでQRECとの共同授業です。アイデオ東京のデザインコンサルタントを招き、福岡の未来をデザインする「Designing the Future of Fukuoka」をテーマにワークショップ形式で行っています。全学から20名、芸術工学府・芸術工学部から20人が参加しています。
芸術工学研究院では、「世界的デザイン教育・研究拠点構想」を推進していきます。デザイン思考でご協力できることがあれば、お気軽にご連絡ください。
【連絡先】
九州大学 大学院 芸術工学研究院
研究院長特別補佐
デザインストラテジー部門 准教授 平井 康之
hirai(★)design.kyushu-u.ac.jp
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