Research 研究・産学官民連携
芸術工学研究院環境デザイン部門
兼 環境設計グローバル・ハブ
教授 谷 正和
主に発展途上国を対象地として自然環境問題の社会的要因や影響の研究をしています。特に、貧困層などの社会的弱者と環境問題の関わりに焦点を当て、影響を受ける人間の側から調査を行っています。
そのような研究の一つに地下水ヒ素汚染に関する研究があります。地下水ヒ素汚染は世界各地に広がっていますが、特に、アジアの大きな河川流域ではどこでも確認されており、インド、ネパール、バングラデシュにかけてのガンジス川流域の地下水ヒ素汚染はその広がりと被害者の数から、世界最大の環境汚染の一つと言われています。その汚染の原因は天然由来のヒ素が地下水中に溶出したことであり、その地下水を水源とする井戸を飲料水とすることから、慢性ヒ素中毒の健康被害が起こっています。
どこの地下水がどの程度ヒ素に汚染されるかは、地層中の様々な条件によって決まるため、たまたま利用する飲み水にヒ素が含まれているかどうかは、地上に住む人たちの経済状況に関係があるはずもなく、被害の発生も住民の属性に対してランダムであるはずです。しかし、バングラデシュやネパールの農村で調査をすると、被害者は貧しい人、カーストの低い層に偏って発生していることがわかりました。
ネパールの農村で管井戸から水を汲む少女。南アジアの農村では、パイプを帯水層まで打ち込み水を汲み上げる管井戸が90%以上を占める。この帯水層がヒ素に汚染されている場合、健康被害が起こる。
なぜ、そのような現象が起こるかは完全に解明できていませんが、動物性タンパク質の摂取など食事の違いからくる基礎的な体力に一因があるようです。しかし、ネパールの最底辺カーストの人たちに被害者が多いことはそれだけでは説明できず、権利を制限されるなど社会的に不利な状態に置かれていることと関連がありそうですが、具体的なメカニズムはまだ説明できていません。このような文化的慣習と構成員の健康状態の関係を説明するには、還元論的アプローチでは難しいので、新たなアプローチを模索しています。
■お問い合わせ先
芸術工学研究院 環境デザイン部門 教授 谷 正和