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経済学×データサイエンスで「持続可能な生産と消費」の実現を模索する

Discover the Research Vol.1 経済学研究院 講師 中石 知晃(なかいし ともあき)

近年、「持続可能な社会」や「SDGs」という言葉をよく耳にします。大気汚染や気候変動、海洋プラスチックといった環境問題を含め様々な課題に直面している現代において、持続可能な社会の実現を目指すためのアプローチにはどのようなものがあるのでしょうか。「持続可能な生産と消費」を目指し、「経済学」と「データサイエンス」の分野を融合した研究を行っている経済学研究院の中石知晃先生に話を伺いました。

経済と環境、そして社会の調和を保つには

先生の研究テーマについて教えてください。

私の研究テーマは「持続可能な生産と消費」です。SDGsの12番目「つくる責任 つかう責任」が関連しますね。持続可能性って何かというと、私のなかでしっくりときているのが、経済と環境、そして社会の3つの調和が取れている状態です。いわゆる「トリプルボトムライン」と呼ばれる考え方です。

経済と環境、社会の調和が取れている状態とは?

産業革命以降、私たちの社会は安価な商品を多量に生産し、消費することで発展してきました。それは私たちの生活を豊かにする一方で、公害という環境問題を引き起こしてきました。現在も、大気汚染や地球温暖化、海洋プラスチックなどさまざまな問題が起きています。経済の発展だけでなく、環境への配慮も必要となってきたわけです。

経済と環境の調和に、社会はどのように関わるのでしょうか?

例えば、地球温暖化への対策として再生可能エネルギーが注目されていますが、再生可能エネルギーは従来のエネルギーに比べて高価なことが多く、結果として貧困層の負担となることがあります。このように環境を優先するあまり、社会が犠牲になってしてしまうのはよい状態とは言えません。

先生はこれらの調和をどう取るのかを研究されているわけですね。

はい、その通りです。今、多くの企業が環境を重視している一方で、それによって社会にしわ寄せがきている状況です。私は生産者と消費者がどのように行動すれば、経済と環境、そして社会が調和し、持続可能な生産と消費が実現するのかを、経済学とデータサイエンスで紐解こうとしています。

生産者と消費者の視点から問題を紐解く

先生の研究手法の強みについても教えてください。

学生時代に訪れたフィリピンのスラム街にある海上村落。生活ゴミ等は基本すべて窓から下の海に投げ捨てられ、プラスチックごみがヘドロ化してしまっている。住民は主に漁業を生業としているが、海洋汚染により日に日に漁場が無くなっている。 消費者の環境意識や教育の重要性に気が付いた経験。

私の研究室では学生の半分が生産者側、もう半分が消費者側の視点で研究を進めています。これがなぜ強みなのかと言いますと、双方の視点で物事を捉えて、そのギャップを埋めることで、問題の根本的な解決にたどり着けると考えているからです。また、卓上でパソコンや文献と向き合うだけでなく、常に現場を意識し、自分で集めたデータに基づいて解決策を証明することも大切です。そのツールとしてデータサイエンスを活用しています。数学や統計ソフトウェア、プログラミングなどを活用して、自分で集めてきたデータを分析し、仮説を証明していきます。

どのようにして今の手法にたどり着いたのですか?

もともと私は生産者理論を研究していました。例えば、中国の発電所のデータから発電量と環境負荷を調査し、環境負荷が最小の発電所とほかの発電所を比較して、どうすれば環境負荷を減らしつつ、発電量を増やせるのかという研究です。こうした研究をしていてある日、ふと生産者の視点だけでは不十分なのではと思いました。

生産者側の視点だけでは不十分だと思われた理由は?

フィリピンのスラム街にあるゴミ山。危険なゴミ山から売れるものを探し日銭を稼ぐ子供たちに将来の夢を聞いたところ、揃って「医者や教師になりたい」と話しており、「教育格差の無い公平な世の中の実現のために自分に出来ることはなんだろうか」と強く思うようになった経験。

生産者がどれほど素晴らしい商品を作ったとしても、それが消費者に受け入れられなければ普及しません。例えば、環境に配慮した商品でも、それがあまりに高価では一般の消費者は買えません。このように消費者との需要のバランスも重要であることに気づき、そこから消費者の視点にも着目するようになりました。

消費者側の視点に着目した研究とはどのようなものですか?

消費者の視点で調べているのは、意識と行動のギャップを可視化する作業です。例えば、私たちは環境の大切さは十分にわかっているはずなのに、実生活では毎日のように車で通勤して、暑い日には冷房をつけています。意識ではよくないことだと知りつつも、行動では真逆のことをしがちなのです。

生産者と消費者の視点を調べたあと、次はどうされるのですか?

どうすれば生産者は環境に配慮した商品を効率的に生産できるのか。一方で、どうすれば消費者は自身の行動を意識に近づけられるのか。この2つの視点から、両者が歩み寄れる部分、つまり持続可能な生産と消費が可能となる地点を見つけ出すことが、私の研究の目的です。

学生と同じ方向を見られる教員に

学生に指導するときに意識されていることはありますか?

九州大学伊都キャンパス近郊の可也山で実施した山登りゼミ。実際に自然に触れてもらい、山頂で研究発表も行った。

学生時代の指導教員の先生から「つねに学生と向き合える先生になりなさい」と言われ、それを今も心に留めています。ただ、恩師と同じことをするだけではだめだと思うので、私は学生と向き合うだけでなく、学生の横に立ち、同じ方向を見るということも意識しています。

学生と同じ方向を見るというのはどういうことですか?

中学校や高校の先生というのは、教育者として生徒が何か間違えたときに「こうするのが正しい」と正解の道へ導く存在だと思います。一方、大学は研究機関であり、その研究はやってみるまで答えがわからないものです。答えがどこにあるのかわからないからこそ、大学教員は学生と共にゴールを探し求める姿勢が大切だと考えています。

大学教員の役割は学生に選択肢を示すことなのですね。

そうです。私たち教員は研究者として、そして人生の先輩として、学生よりも多くの経験を持っています。研究では「こうしたらいい」と答えを提示するのではなく、学生が目指すゴールに向けてのルートの選択肢を提案するイメージです。また、進路指導でも学生と同じ目線で悩み、人生の選択肢を一緒に考えるというのを意識しています。

事実に基づき自ら考えられる人材を育てる

学生にはどのような人材に育ってほしいですか?

現場を意識した研究活動を志し、ゼミ活動の一環として、「株式会社朝日プリンテック(Asahi Printech, Corporation, Ltd.)」を見学。

私がデータサイエンスを専門としているからこそ、学生には事実ベースで物事の本質を見極める力を養ってほしいと考えています。今はネット上に情報があふれていて、中にはエビデンスが不確かなまま、あたかも正しいように話す人が少なくありません。だからこそ、著名な人や権威ある人が言っているからといって、他人の意見に流されるような人にはなってほしくありません。

とくにゼミの学生に伝えていることはありますか?

何事にも本気で取り組んでみること、ですね。例えば、ゼミのコンペティションなどはやるか、やらないかは自分次第なわけですが、せっかくやるなら全力で取り組んでみてほしいと思っています。何事にも本気で取り組めば結果はついてきますし、その頑張りは誰かが見ていて、評価してくれるときがくるからです。

研究成果から社会に役立つ何かを創出する

今後の研究の展望について教えていただけますか?

今は生産者と消費者それぞれの視点を研究していますが、今後は双方の間を取りもてるような研究もやっていきたいと思っています。例えば、サプライチェーンのように生産者から消費者に届くまでの中間流通の過程とかです。また、研究で終わるのではなく、それが具体的に社会に還元できる何かを生み出せるようにもしたいと考えています。

研究室1年目とのことですが、そちらに関してはいかがですか?

研究室の規模は大きくしていきたいです。私の研究室は今1年目で、ゼミには10名の学生が所属してくれています。来年には新たに10名ほどが加わるだろうと。そうして規模が大きくなれば、マンパワーのある組織にできて、研究の質や速度も向上するのではと期待しています。

最善を尽くせば必ず道はひらく

進学に悩んでいる高校生にひと言いただけますか?

私の専門は経済学ですが、研究には環境学や統計学、気象学などさまざまな分野の知識が関わっています。これは経済学に限った話ではなく、農学部でも、工学部でも同じです。大切なのはその学部で何を学べるのか、それをしっかりと調べることです。もし一人で調べるのが難しいのであれば、高校の先生に聞けば教えてもらえますし、大学のオープンキャンパスをのぞいてみるのもいいでしょう。

受験生向け特設サイトはこちら

自分から情報を取りにいくことが大切なわけですね。

はい、そうです。自分で調べて、自分の意思で進路を選択してほしいんです。ただ、実際に入ってみると、想像とは違うこともあると思います。でも、思い通りにならないからと腐らないでください。今いる環境で最善を尽くせば、思わぬいい方向に進むことがあります。それを高校生たちに伝えたいです。

中石先生の研究の詳細については、ご自身のサイトをご覧ください。 https://nakaishizemi.com/