Research 研究・産学官民連携

生物を造る・描く―分子ロボットと分子バイオアート―

芸術工学研究院 研究紹介

生物を造る・描く―分子ロボットと分子バイオアート―

芸術工学研究院 未来共生デザイン部門
 准教授 井上大介

生物の体は機械でできている ~分子から作るフランケンシュタインの怪物~

 私たちの体は、タンパク質やDNAなどナノメートルサイズ*の小さな部品が集まってできています。これらは地球が誕生してから46億年もの間、試行錯誤を繰り返しながら精巧にデザインされてきた分子サイズの機械です。人類の技術では、まだこれらを一から設計して作ることはできません。細胞の中では無数の分子機械が存在し、ときに協力し合って働いています。

 九州大学大学院芸術工学研究院の井上大介研究室では、これらの小さな機械を人工的に設計・合成し、それらを組み合わせて細胞のように機能する超小型ロボット(分子ロボット)を作ることに挑戦しています(図1)。生物の体内では複数の機械が自然に共存し、機能していますが、人工的なシステムでは、部品を2つ組み合わせただけでうまくいかないこともあります。ただ部品を組み合わせるだけでは、なかなかフランケンシュタインの怪物のように動かないのです。部品が機能するためには、細かい部品のデザインや環境設計が必要です。

 複数の分子部品を組み合わせて機能させるための条件を探求することで、生物という究極の複雑系を自由に設計できるようになると考えられます。将来、生物を自在に作る技術が発展すれば、私たちの周りのものはすべて生物で構成され、環境に適応する建物や家具に囲まれる時代が来るかもしれません。

(*ナノは1/100000000メートル)

図1. 分子部品から作られた分子ロボットたち、ぱっと見、生き物の細胞や単細胞生物に見えますが、これらは人工的に作られたものです。細胞骨格と呼ばれる細胞の骨組みになるタンパク質製繊維を、細胞膜を模倣した脂質のカプセルに入れて作りました。

ナノの世界を描く・可視化する分子バイオアート

 小さな機械を設計し、集積することに挑戦する一方で、細胞サイズの世界をモチーフにしたアート作品の制作も行っています。このような作品を当研究室では「分子バイオアート」と呼んでいます(図2、図3)。分子の世界は目には見えない小さな世界なので、とてもイメージしにくい世界です。スケール感も人間の世界とは異なります。そのような分子の世界を、タンパク質を用いたアート作品や、2Dイラスト、3DCG、仮想現実(VR)、人工知能(AI)などの最新技術を用いて可視化したり、体験できる作品制作にも取り組むアウトリーチ活動も行っています。

図2. 分子バイオアート作品例:左上から細胞、タンパク質製の細胞道路の3Dイラスト、AIで作った細胞×アイドル、細胞の中を歩き回る細胞VRワールド、タンパク質で描いた文字

図3.分子バイオアートによる科学雑誌の表紙画像

■お問合せ先
芸術工学研究院 未来共生デザイン部門
准教授 井上大介 
研究室website: https://www.cytoarchitec.com/japanese