Kyushu University VISION2030 Special talk
キーワードは「共創・協働」、
未来社会デザイン統括本部が動き出す
世界に溢れる複雑で解決が困難な社会的課題。九州大学は、自然科学系と人文社会科学系、さらにはデザイン系を加えた知による「総合知」でそれらの課題を解決し、社会変革を牽引する大学になることを目指しています。
そのための方向性や方針を示す「九州大学VISION 2030」で掲げた構想実現の柱となるのが、未来社会デザイン統括本部(FS本部)とデータ駆動イノベーション推進本部(DX本部)です。両本部のキックオフシンポジウムが、このたび開催されました。
どんな未来をデザインするか、そのためにいま私たちに何ができるか。FS本部の副本部長である荒殿理事・プロボストが、本シンポジウムのポスターセッションの受賞者とともに語りました。
Kyushu University VISION2030 Special talk
キーワードは「共創・協働」、
未来社会デザイン統括本部が動き出す
世界に溢れる複雑で解決が困難な社会的課題。九州大学は、自然科学系と人文社会科学系、さらにはデザイン系を加えた知による「総合知」でそれらの課題を解決し、社会変革を牽引する大学になることを目指しています。
そのための方向性や方針を示す「九州大学VISION 2030 」で掲げた構想実現の柱となるのが、未来社会デザイン統括本部(FS本部)とデータ駆動イノベーション推進本部(DX本部)です。両本部のキックオフシンポジウムが、このたび開催されました。
どんな未来をデザインするか、そのためにいま私たちに何ができるか。FS本部の副本部長である荒殿理事・プロボストが、本シンポジウムのポスターセッションの受賞者とともに語りました。
アジア・オセアニア研究教育機構
創発推進コーディネーター
錢 琨
せん こん
准教授
専門は心理学。「食料問題の解決を目指す開源節流策~昆虫食と食ロスに関する心理行動研究に基づいて」で優秀賞を受賞。
未来社会デザイン統括本部
副本部長
荒殿 誠
あらとの まこと
理事・副学長・プロボスト
九州大学病院国際医療部
アジア遠隔医療開発センター
副センター長、技術責任者
工藤 孔梨子
くどう くりこ
助教
専門は遠隔医療と芸術工学。「医療・芸術工学分野融合した課題解決型教育プログラムの開発による医療の質の革新的向上」で奨励賞を受賞。
アジア・オセアニア研究教育機構 創発推進コーディネーター 錢 琨 せん こん 准教授 専門は心理学。「食料問題の解決を目指す開源節流策~昆虫食と食ロスに関する心理行動研究に基づいて」で優秀賞を受賞。 |
未来社会デザイン統括本部 副本部長 荒殿 誠 あらとの まこと 理事・副学長・プロボスト |
九州大学病院国際医療部 アジア遠隔医療開発センター 副センター長、技術責任者 工藤 孔梨子 くどう くりこ 助教 専門は遠隔医療と芸術工学。「医療・芸術工学分野融合した課題解決型教育プログラムの開発による医療の質の革新的向上」で奨励賞を受賞。 |
それぞれの専門分野を通して描く
理想とする未来社会とは
荒殿ポスターセッション受賞おめでとう。シンポジウムはいかがでしたか?
錢すごくいろいろな先生たちと知り合えました。講演もポスターセッションも全部聞いたんですけど、分野は違っても私の研究テーマとドンピシャな方もいて、これからぜひ一緒に研究したい、さっそくコンタクトしようとわくわくしています。
工藤荒殿先生が「デザインの力も入れた『総合知』を使って課題を解決する」ということを強調されていて、デザイン出身の私としては身が引き締まる思いでした。私も、他の方の発表を聞いたり情報交換をしたりする中で、一緒にやったら面白そうだなあっていう方がたくさんいて、そういう出会いがありがたかったです。
荒殿嬉しいですね。九大は、これからますます総合知の取り組みを進めていきます。総合知というのは「共創」と「協働」。つまり、分野は違っても同じ目指すものを頭に置きながら一緒に進んでいくことが大事だと思います。それを促す仕組みとしてFS本部を設置しましたが、今回のシンポジウムがまさにそういう場となってくれたことが嬉しいです。FS本部では、これから「こんな社会になったらいいな」という理想に一歩でも近づくために頑張っていきます。お二人の専門分野から見たときの理想とする未来ってどんな社会でしょうか?
錢私は「高度幸福社会」です。以前、高度経済成長のときは、国全体が経済的な豊かさに向かっている高揚感がありました。でも、本当の幸せには心の豊かさが必要なのではないでしょうか。私は、心の豊かさが幸福につながる社会を目指したいんです。
荒殿まさに九大のビジョンにも合致しますね。「ウェルビーイング」と「サステナビリティ」、つまり、物質的な豊かさだけでなく心の豊かさも大事にしながら、人々の持続可能で多様な幸せを実現するという。
錢はい。ただ、実際は多様な幸せを阻む要因がいろいろとあって、私はそれを人間の心理と行動の視点で解決したいと思っています。例えば男性の育児休業。いくら法律で決められていても実際の取得率はまだまだ低いです。男性が育休なんて、という固定概念からの逸脱が難しいんです。そういったことを変えるにはどうしたらいいか、どうしたら人の行動を変えられるか、心理学の視点から考えています。
荒殿なるほど。今思い出したのですが、九大には「ダイバーシティ・スーパーグローバル教員育成研修(SENTAN-Q)」というプログラムがあって、参加した男性教員がプログラム中に育休を取得したのです。プログラム修了は遅れるけど、自分は育児も研究も頑張るんだ!と宣言して。すごいな、だんだん九大も変わってきたなぁと嬉しかったですね。
工藤素晴らしいですね。プログラムに参加した人が育休を取って、それが周りの目に留まることでまた「男性が育休なんて」という固定概念が変わっていく。パイオニアとして素晴らしい行動だと思います。
荒殿そうですね。そんなふうに、一挙にとはいかなくても、小さな積み重ねで未来は良くなっていくのだと思います。工藤さんから見た理想的な未来社会って?
工藤私は、様々な国や地域、分野の人達が今まで以上に連携することで、ものすごいスピードで課題を解決できる、そんな社会です。私が所属するアジア遠隔医療開発センターでは、国や地域レベルの医療格差を、インターネットを使って遠くの国や地域の専門家とつなげることで解決しようとしていますが、1つのグループだけでは解決が難しい課題を別のグループとつなげることによって乗り越えられる社会にしたいんです。
荒殿それはさっき錢さんが言った心の豊かさにもつながりますね。困ったときに誰かが助けてくれる、一緒にやってくれる人がいるということですね。
工藤はい。今後は今取り組んでいる芸術工学分野など異分野とも連携し、医療への支援を広げていきたいです。
他分野の視点も学ぶこと、
それが理想の未来社会を作り出す
荒殿理想とする未来社会を語ってもらいましたが、お二人のご専門を念頭に置いたとき、ここを解決しないと理想には辿り着けないという課題はありますか?
錢「相互理解」です。国際紛争にしても食料問題にしても、結局は人間同士の利益争い。相手の立場や考えを理解せずに行動した結果です。ただ、理屈ではそう分かっていても、なかなか行動を変えることは難しいです。例えば、今、食料問題の解決策の一つとして昆虫食が注目されていますが、実際は、いくら解決策といわれても昆虫を食べることには躊躇がありますよね。
荒殿たしかに。食料問題の解決の一助になると理解はしていても、目の前の昆虫食を美味しそうとは思えないかも・・・・・。
錢そうなんです。栄養バランスがいいとか高タンパクとかのメリットを説明されても、単純に「いやだ」という理由で拒否されます。なぜいやなのか、その心理を理解して行動変容を促せるようにしないといけないんです。
荒殿どうやったら「いやだ」が「食べたい」になるか、行動変容を促す鍵を見つけるということですね。
錢はい。見た目の問題なのであれば受け入れやすいデザインにするなど、人の心理を理解してどういうプロデュースをすれば効果があるのかを探ります。課題の解決のためにはそういったことが必要だと思っています。
荒殿ぜひFS本部の食料分野で一緒にやってもらえると嬉しいですね。工藤さんはどんな課題があると思いますか?
工藤分野間のディスコミュニケーションです。例えば医療分野では、患者さんへ説明するための分かりやすい医療動画を必要とする人がいて、デザイン分野では、そういった医療関係のデザインをしたい人がいるのに、それぞれをうまくつなげることが難しいんです。
荒殿なぜ難しいんでしょう。
工藤私は病院で勤務しているので、最初、医学部と芸術工学部の学生をつなげようと思ったんです。でも、実際にやろうとすると、医学部の学生は忙しすぎるというのもあって・・・・・・。
荒殿たしかに医学部は学生も先生たちも忙しいですよね。でも、少しでもいいから、なるべく若いときから異分野と連携するっていうマインドを作っていきたいですね。医療分野の課題の解決にデザインの力が大いに役立つというようなことを知っておくと、より幅の広いお医者さんになれる気もするし。
工藤はい。もう一つ、学部生はまだ現場に出る前ということもあって、現場の課題解決を実践することが難しいというのもありました。ただ、実は、タイのマヒドン大学の場合は、医学部の中にデザインの学科があって、そこの学生が医師のニーズに応じて医療用のイラストや動画を制作するという教育体制ができているんです。学生のうちから現場の医師に課題をもらって、それを解決しようっていう仕組みができているのがすごいなって。
荒殿まさに、総合知で課題を解決するということを、先生と学生が一緒に実践しているんですね。九大も、共創学部や基幹教育でそういうことをやり始めています。でも、学生が課題を自分で見つけて、いろんな学部の授業を受けたり、あるいは関係する専門分野の先生に相談したりしながら、総合知で課題解決を実践できる環境をもっと整える必要がありますね。
それぞれが描く未来社会。
その実現のために必要なのが「総合知」
荒殿立ち上がったばかりのFS本部ですが、ここを中心に九大の総合知を創り出し活用していきたいと思っています。FS本部に期待することがあれば教えてください。
錢心理学などの人文社会系の視点を積極的に取り入れていただきたいです。さっきの話にもつながるんですけど、利点やエビデンスを提供しても人が受け入れないと意味がないです。行動変容を促すためには心理学の視点も大事なのです。ただ、その心理学も、百年以上の歴史の中で多くの研究がありますが、実は、今の時代にそれを再現しようとするとなかなか同じようにはいきません。今の社会状況や文化が百年前とは全く違うからです。私は今後、フィールドワークなどの手法を基礎心理学の研究に取り入れながら、異分野の方たちと交流することで未来社会のデザインに活かしていけたらいいと思っています。
荒殿大事な視点ですね。FS本部にはシンクタンクユニットがありますが、大学が、あるいは大学でやろうとすることに対して、「本当にやっていいのか」という根源的な問いを投げかけてくれることをそこには期待しています。倫理的・歴史的な目線で批判してくれる存在、それはやはり人文社会系の視点であり、批判があるからこそより良い未来社会になる、まさに総合知ですね。工藤さんは?
工藤学際的な取り組みや研究を評価いただく仕組みを期待したいです。分野を超えた連携というのは、軌道に乗るまでがすごく難しい。連携の話をしても、負担が大きいため躊躇する先生もいます。すぐに成果がでなくても、特に立ち上げの段階で評価されることはとても励みになります。そういう意味で、シンポでの受賞は嬉しかったです。
荒殿これも大事なことですね。こういった連携はすぐには成果が見えにくく、なかなか評価しづらい部分もあるんですけど、何とかしなければと常々思ってきました。FS本部は、自治体や企業など大学外の組織とも連携した総合知で社会変革を行っていくことを目指しているので、そのような取り組みが評価される仕組みをしっかり考えたいと思っています。
今日は話が聞けて本当に良かった。未来社会を考えるには、これから未来を作っていく人たちの考えが何より大事です。若い世代の人たちが自由に活躍でき、彼らの考える理想の未来を作るために大学は何をすればいいか。今日はそのための意見を多くいただくことができました。お二人が理想とする未来社会に向かって、これからもそれぞれの分野を超えた活躍をしてくださることを期待しています。私もますます頑張らなくては!
この取材は2022年10月24日、九州大学伊都キャンパスの伊都ゲストハウスで行いました。
それぞれの専門分野を通して描く
理想とする未来社会とは
荒殿ポスターセッション受賞おめでとう。シンポジウムはいかがでしたか?
錢すごくいろいろな先生たちと知り合えました。講演もポスターセッションも全部聞いたんですけど、分野は違っても私の研究テーマとドンピシャな方もいて、これからぜひ一緒に研究したい、さっそくコンタクトしようとわくわくしています。
工藤荒殿先生が「デザインの力も入れた『総合知』を使って課題を解決する」ということを強調されていて、デザイン出身の私としては身が引き締まる思いでした。私も、他の方の発表を聞いたり情報交換をしたりする中で、一緒にやったら面白そうだなあっていう方がたくさんいて、そういう出会いがありがたかったです。
荒殿嬉しいですね。九大は、これからますます総合知の取り組みを進めていきます。総合知というのは「共創」と「協働」。つまり、分野は違っても同じ目指すものを頭に置きながら一緒に進んでいくことが大事だと思います。それを促す仕組みとしてFS本部を設置しましたが、今回のシンポジウムがまさにそういう場となってくれたことが嬉しいです。FS本部では、これから「こんな社会になったらいいな」という理想に一歩でも近づくために頑張っていきます。お二人の専門分野から見たときの理想とする未来ってどんな社会でしょうか?
錢私は「高度幸福社会」です。以前、高度経済成長のときは、国全体が経済的な豊かさに向かっている高揚感がありました。でも、本当の幸せには心の豊かさが必要なのではないでしょうか。私は、心の豊かさが幸福につながる社会を目指したいんです。
荒殿まさに九大のビジョンにも合致しますね。「ウェルビーイング」と「サステナビリティ」、つまり、物質的な豊かさだけでなく心の豊かさも大事にしながら、人々の持続可能で多様な幸せを実現するという。
錢はい。ただ、実際は多様な幸せを阻む要因がいろいろとあって、私はそれを人間の心理と行動の視点で解決したいと思っています。例えば男性の育児休業。いくら法律で決められていても実際の取得率はまだまだ低いです。男性が育休なんて、という固定概念からの逸脱が難しいんです。そういったことを変えるにはどうしたらいいか、どうしたら人の行動を変えられるか、心理学の視点から考えています。
荒殿なるほど。今思い出したのですが、九大には「ダイバーシティ・スーパーグローバル教員育成研修(SENTAN-Q)」というプログラムがあって、参加した男性教員がプログラム中に育休を取得したのです。プログラム修了は遅れるけど、自分は育児も研究も頑張るんだ!と宣言して。すごいな、だんだん九大も変わってきたなぁと嬉しかったですね。
工藤素晴らしいですね。プログラムに参加した人が育休を取って、それが周りの目に留まることでまた「男性が育休なんて」という固定概念が変わっていく。パイオニアとして素晴らしい行動だと思います。
荒殿そうですね。そんなふうに、一挙にとはいかなくても、小さな積み重ねで未来は良くなっていくのだと思います。工藤さんから見た理想的な未来社会って?
工藤私は、様々な国や地域、分野の人達が今まで以上に連携することで、ものすごいスピードで課題を解決できる、そんな社会です。私が所属するアジア遠隔医療開発センターでは、国や地域レベルの医療格差を、インターネットを使って遠くの国や地域の専門家とつなげることで解決しようとしていますが、1つのグループだけでは解決が難しい課題を別のグループとつなげることによって乗り越えられる社会にしたいんです。
荒殿それはさっき錢さんが言った心の豊かさにもつながりますね。困ったときに誰かが助けてくれる、一緒にやってくれる人がいるということですね。
工藤はい。今後は今取り組んでいる芸術工学分野など異分野とも連携し、医療への支援を広げていきたいです。
他分野の視点も学ぶこと、
それが理想の未来社会を作り出す
荒殿理想とする未来社会を語ってもらいましたが、お二人のご専門を念頭に置いたとき、ここを解決しないと理想には辿り着けないという課題はありますか?
錢「相互理解」です。国際紛争にしても食料問題にしても、結局は人間同士の利益争い。相手の立場や考えを理解せずに行動した結果です。ただ、理屈ではそう分かっていても、なかなか行動を変えることは難しいです。例えば、今、食料問題の解決策の一つとして昆虫食が注目されていますが、実際は、いくら解決策といわれても昆虫を食べることには躊躇がありますよね。
荒殿たしかに。食料問題の解決の一助になると理解はしていても、目の前の昆虫食を美味しそうとは思えないかも・・・・・。
錢そうなんです。栄養バランスがいいとか高タンパクとかのメリットを説明されても、単純に「いやだ」という理由で拒否されます。なぜいやなのか、その心理を理解して行動変容を促せるようにしないといけないんです。
荒殿どうやったら「いやだ」が「食べたい」になるか、行動変容を促す鍵を見つけるということですね。
錢はい。見た目の問題なのであれば受け入れやすいデザインにするなど、人の心理を理解してどういうプロデュースをすれば効果があるのかを探ります。課題の解決のためにはそういったことが必要だと思っています。
荒殿ぜひFS本部の食料分野で一緒にやってもらえると嬉しいですね。工藤さんはどんな課題があると思いますか?
工藤分野間のディスコミュニケーションです。例えば医療分野では、患者さんへ説明するための分かりやすい医療動画を必要とする人がいて、デザイン分野では、そういった医療関係のデザインをしたい人がいるのに、それぞれをうまくつなげることが難しいんです。
荒殿なぜ難しいんでしょう。
工藤私は病院で勤務しているので、最初、医学部と芸術工学部の学生をつなげようと思ったんです。でも、実際にやろうとすると、医学部の学生は忙しすぎるというのもあって・・・・・・。
荒殿たしかに医学部は学生も先生たちも忙しいですよね。でも、少しでもいいから、なるべく若いときから異分野と連携するっていうマインドを作っていきたいですね。医療分野の課題の解決にデザインの力が大いに役立つというようなことを知っておくと、より幅の広いお医者さんになれる気もするし。
工藤はい。もう一つ、学部生はまだ現場に出る前ということもあって、現場の課題解決を実践することが難しいというのもありました。ただ、実は、タイのマヒドン大学の場合は、医学部の中にデザインの学科があって、そこの学生が医師のニーズに応じて医療用のイラストや動画を制作するという教育体制ができているんです。学生のうちから現場の医師に課題をもらって、それを解決しようっていう仕組みができているのがすごいなって。
荒殿まさに、総合知で課題を解決するということを、先生と学生が一緒に実践しているんですね。九大も、共創学部や基幹教育でそういうことをやり始めています。でも、学生が課題を自分で見つけて、いろんな学部の授業を受けたり、あるいは関係する専門分野の先生に相談したりしながら、総合知で課題解決を実践できる環境をもっと整える必要がありますね。
それぞれが描く未来社会。
その実現のために必要なのが「総合知」
荒殿立ち上がったばかりのFS本部ですが、ここを中心に九大の総合知を創り出し活用していきたいと思っています。FS本部に期待することがあれば教えてください。
錢心理学などの人文社会系の視点を積極的に取り入れていただきたいです。さっきの話にもつながるんですけど、利点やエビデンスを提供しても人が受け入れないと意味がないです。行動変容を促すためには心理学の視点も大事なのです。ただ、その心理学も、百年以上の歴史の中で多くの研究がありますが、実は、今の時代にそれを再現しようとするとなかなか同じようにはいきません。今の社会状況や文化が百年前とは全く違うからです。私は今後、フィールドワークなどの手法を基礎心理学の研究に取り入れながら、異分野の方たちと交流することで未来社会のデザインに活かしていけたらいいと思っています。
荒殿大事な視点ですね。FS本部にはシンクタンクユニットがありますが、大学が、あるいは大学でやろうとすることに対して、「本当にやっていいのか」という根源的な問いを投げかけてくれることをそこには期待しています。倫理的・歴史的な目線で批判してくれる存在、それはやはり人文社会系の視点であり、批判があるからこそより良い未来社会になる、まさに総合知ですね。工藤さんは?
工藤学際的な取り組みや研究を評価いただく仕組みを期待したいです。分野を超えた連携というのは、軌道に乗るまでがすごく難しい。連携の話をしても、負担が大きいため躊躇する先生もいます。すぐに成果がでなくても、特に立ち上げの段階で評価されることはとても励みになります。そういう意味で、シンポでの受賞は嬉しかったです。
荒殿これも大事なことですね。こういった連携はすぐには成果が見えにくく、なかなか評価しづらい部分もあるんですけど、何とかしなければと常々思ってきました。FS本部は、自治体や企業など大学外の組織とも連携した総合知で社会変革を行っていくことを目指しているので、そのような取り組みが評価される仕組みをしっかり考えたいと思っています。
今日は話が聞けて本当に良かった。未来社会を考えるには、これから未来を作っていく人たちの考えが何より大事です。若い世代の人たちが自由に活躍でき、彼らの考える理想の未来を作るために大学は何をすればいいか。今日はそのための意見を多くいただくことができました。お二人が理想とする未来社会に向かって、これからもそれぞれの分野を超えた活躍をしてくださることを期待しています。私もますます頑張らなくては!
この取材は2022年10月24日、九州大学伊都キャンパスの伊都ゲストハウスで行いました。
自然科学と人文社会科学、さらにはデザインなど多様な研究領域の知を集結して、社会的課題の解決に必要な「理想とする未来社会」と「未来社会に至るプロセス」をデザインし、様々な研究成果を組み合わせて社会に展開・実装することで、多様化・複雑化する社会的課題の解決に貢献します。
自然科学と人文社会科学、さらにはデザインなど多様な研究領域の知を集結して、社会的課題の解決に必要な「理想とする未来社会」と「未来社会に至るプロセス」をデザインし、様々な研究成果を組み合わせて社会に展開・実装することで、多様化・複雑化する社会的課題の解決に貢献します。
※本内容は「九大広報126号(令和4年12月発行)」に掲載されています。
※本内容は「九大広報126号(令和4年12月発行)」に掲載されています。