
国際色豊かな仲間と宇宙天気の謎に挑む
国際協働を推進する九州大学の中でも、Liu Huixin 教授(以下 リユウ教授)が率いる大気圏電離圏融合宇宙天気科学研究室は、特に国際色豊かな研究室です。主要な研究テーマである「宇宙天気」は近年国際的に注目されており、私たちの日常生活にも実は密接に関わっています。

スマホの位置情報の誤差に宇宙天気が関係している
真っ暗な世界が広がる宇宙空間ですが、実はそこに電気伝導性のある気体が存在し、その密度や温度状況などが常に変化しています。この変化が「宇宙天気」です。晴れ、曇り、雨といった地上の天気と同じように、宇宙天気も私たちの生活に関連性が深く、例えばスマートフォンの位置情報などには大きく関与しています。衛星軌道、GPS、無線通信、送電網といった分野に地球規模で影響を及ぼす宇宙天気は、各国が連携して研究を進めるホットなテーマ。リユウ研究室でも国内外での共同研究を交えて、最新の宇宙天気についての基礎研究が進められています。

中国、ドイツ、アメリカでの研究を経て日本へ


「子どもの頃から空を見上げることが好きでした」と語るリユウ教授。空やその先にある宇宙の、壁や仕切りがない自由な空間に思いを馳せていたそうです。宇宙への興味や憧れを持ち続けたまま中国・武漢大学で電波通信とアンテナデザインを学ぶことから宇宙物理の研究キャリアをスタート。その後、ドイツ、アメリカの研究施設を渡り歩き、直径42mにも及ぶ大型EISCATレーダーで北極から宇宙を観測したり、地球大気圏・電離圏をモデリングしたり、衛星を用いた宇宙観測ミッションに参加したりなど、多様なアプローチで宇宙観測や宇宙天気の研究を進めていきます。
2005年に来日し、北海道大学、京都大学を経て、九州大学に研究室を構えたのは2011年のこと。「いろんな分野の先生方と交流する機会があるので、学際的な研究に繋げやすいです。“総合知”を創り出すためのポテンシャルは、九大の強みといえるでしょうね」とリユウ教授は総合大学である九州大学の魅力を実感しつつ、加えて、伊都キャンパスは趣味のランニングをする上でも最高の環境なのだそうです。
「自然が豊かで美しく、走っていても気持ちが良い。世界中のさまざまな都市で暮らし、多くの大学、研究機関に所属してきましたが、九大に来て本当に良かったと思っています」と熱弁してくれました。


国際色豊かな学生たちと研究以外でも活発に交流

取材時点でリユウ研究室には日本の学生の他に、ドイツ、アルゼンチン、インドネシア、中国の留学生や研究員が所属しており、英語でコミュニケーションを図りながら宇宙天気の研究が進められています。これまでにリユウ研究室に在籍した留学生や研究者の国籍は実に30カ国以上。国際色豊かな理由について、リユウ教授は「大気は常に流れているので、日本上空の観測だけをしても宇宙天気を正しく理解・予測することはできません。そのため、宇宙天気の研究には国際的な協力、連携が必須です。私の研究室で学んだ留学生が母国や、また別の国で研究を行うことで、人的ネットワークを世界中に広げたいと考えています」と語っています。
ランニングが趣味のリユウ教授の影響で、研究室のメンバーは一緒にキャンパス周辺を走っているそうです。また、お寺での座禅や、草鞋づくりなど、日本文化を体験する機会も多いとのこと。「私自身、いろいろな国を知ることで人生が豊かになりました。その国の言語や文化、人を知ることで、研究も人生も楽しむのが私のモットー。学生にも快適な自国から飛び出し、挑戦を続けてほしいと思っています」


長田 章嗣さん

Florian Günzkoferさん
(ドイツ出身)

(中国出身)
Qiu Lihuiさん

寺岡 宙惟さん

(アルゼンチン出身)
Gloria Tanさん

前田 朋毅さん

(インドネシア出身)
Farhan Naufal Rifqiさん

成本 大志さん

三宅 翔太さん
※この取材は2023年10月に行いました。学年などは取材当時のものです。
※この取材は2023年10月に行いました。学年などは取材当時のものです。
SPACE WEATHER × LIU HUIXIN LAB.

中国出身。武漢大学で電波情報通信工学を学び、ドイツMax-Planck研究所で宇宙物理を学んだ後、アメリカ国立大気研究センター、ドイツ地球物理研究センターなどで宇宙の観測やシミュレーション、宇宙天気の研究に従事。2011年に九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門准教授として着任。
宇宙天気を活用して便利で安全な未来へ
宇宙天気の仕組みやリユウ研究室での研究内容、正確な宇宙天気予測の重要性などについて、リユウ教授に聞きました。
「世界中で宇宙天気の研究が進み、宇宙天気予報士がもうすぐ誕生するかもしれません」

中国出身。武漢大学で電波情報通信工学を学び、ドイツMax-Planck研究所で宇宙物理を学んだ後、アメリカ国立大気研究センター、ドイツ地球物理研究センターなどで宇宙の観測やシミュレーション、宇宙天気の研究に従事。2011年に九州大学大学院理学研究院地球惑星科学部門准教授として着任。
太陽と地上、双方向からの影響で宇宙天気が変化する

上空100km~1000㎞の宇宙空間は「電離圏」と呼ばれ、電気を通す性質をもったプラズマを含む薄い空気が存在します。電離圏は太陽活動に強く影響され、例えば太陽フレア(爆発)が発生した際には電離圏が急激に変化。その結果、電離圏内に電波を飛ばす無線通信などが影響を受けることがあります。また、台風や津波、火山噴火などの地上の気象現象などにより電離圏が乱れることも明らかになってきました。普段、我々が利用するスマホの位置情報などは、平均的な電離圏変化をモデリングして補正されたデータを使っているため、支障なく利用できていますが、イレギュラーな変化には対応できません。また、電離圏の大気密度は衛星や宇宙ゴミの軌道と寿命に関わる重要要素であり、衛星運用と長期プラニングに大きな影響を及ぼします。例えば、2022年2月の磁気嵐は電離圏大気密度を急激に増加させたため、スペースX社の40機もの通信衛星が落下する事態になりました。

無人運転などの実現を宇宙天気の予測が左右する

太陽と地上から複雑に影響を受ける宇宙天気の予測は非常に困難です。私たちの研究室では電離圏の日々変化や、太陽フレア、火山噴火、地震などによる不規則で急激な変化を見つけるための基礎研究を行っています。また、宇宙天気予測の共同研究にも参加しており、火星など他の惑星の宇宙天気についても研究を進めています。宇宙天気の予測精度が高まれば、今よりも誤差の少ない位置情報ナビゲーションが可能となり、例えばドローンによる無人宅配サービスなどはその恩恵を受けることでしょう。月や惑星への探査、宇宙旅行など人類の宇宙進出が急ピッチで進むなか、宇宙天気の影響は通信・測位・衛星軌道制御など広範囲に及ぶため、予測精度の向上を世界中の研究者が目指しているのです。

※本内容は「九大広報128号(令和5年12月発行)」に掲載されたものを一部編集しています。
※本内容は「九大広報128号(令和5年12月発行)」に掲載されたものを一部編集しています。