九州大学について

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将来計画・大学評価・IR

大学改革等への取り組み

改革の大綱案

I.社会の潮流と九州大学改革の方向

1.21世紀初頭の社会と大学への要請

九州大学の改革を考えるに当たっては、新キャンパスの建設が完了すると思われる21世紀初頭の社会の変化の基調を見据え、新しい時代が九州大学に何を要請するかを大筋で見極めなければならない。わが国の社会の流れは、大きく次の三つに集約することができる。

一つは、グローバリゼーションの本格化である。冷戦崩壊後、東アジア諸国は急速な経済成長をみせ、北アメリカ、ヨーロッパとともに三極体制の一角を占める勢いをみせている。その中で、アメリカやE.U.とともに、世界の平和と安定、地球環境保護、途上国の成長支援等先進国としてのわが国の国際的責任がますます大きくなっている。また、アジア諸国との社会・経済・技術・文化等多面的な交流と提携の強化が期待されている。

このことは、わが国の科学技術や学術文化の世界的レベルでの飛躍的発展、それを担う次代の優れた研究者の養成、アジア諸国との科学技術協力の推進、さらにはこれらの国々の次代を担う人材養成への協力等、わが国の基幹大学の国際的役割はますます大きな意義をもってくることを意味している。

社会の変化の第二の流れは、高度知識・情報社会といわれる新しい社会の到来である。時代は、モノを加工する物財生産中心の社会から、知識や情報を加工して新たな知識や情報をつくりだす知識・情報社会へと次第に比重を移しつつある。ソフトウェアやデザイン、設計、研究・開発等知識そのものの生産が大きな役割を果たすとともに、モノづくりも知識集約化の度合を高めている。必然的に科学技術や文化等高度な知識を必要とする管理・専門・技術に従事する職業人の需要が急増することが予想される。専門職業人の養成には、当該専門知識はもちろん、総合的知識の修得が不可欠となる。また、科学技術や学術文化の発展における企業や市民との連携もますます不可避となってくる。

このことは、従来の4年制を前提とした大学教育に加えて、より高度な専門的知識を身につけた社会人の養成への期待が飛躍的に高まるとともに、すでに社会で活躍している人々が再び大学にもどり、社会での経験を基礎にし、より高度な科学・文化を学習するニーズが大幅に増大することを意味している。また、学習過程にある学生や大学院生が積極的に学際的な知識を身につけたり、大学間の移動による多様な教育機会に接触する等、移動と交流の活発化に対応して、学内の教育組織間はもちろん、大学間の交流と移動がスムースになるよう、全体として開放的な大学となることが要請されてくる。また、企業や市民と大学との研究協力のニーズも増大してくる。

第三の潮流は、わが国が人口減少・低成長といった成熟社会に入るとともに、生産中心から生活中心へ、モノから心へ、ハードからソフトへといった人々の価値観が次第に変化し、高質の生活を求めるニーズが急速に高まるものとみることができる。また、高齢化社会の到来とともに、医療・福祉へのニーズも飛躍的に増大するであろう。人々がクォリティ・オブ・ライフを求める時代が確実に定着しつつある。

このことは、大学を離れた市民が、仕事と直接かかわらなくとも、心の豊かさを求めて専門的知識や文化的機会を得るために大学の門を叩く動きを加速させることを意味している。また、高度医療や福祉への貢献を大学に求めるとともに、これを担う優れた人材の養成も緊急の課題となってくる。大学のなかでえられた科学技術、学術文化、医療保健等の研究成果を市民に還元することへの社会的要請が一層強まることが予想される。

21世紀初頭のわが国社会の潮流とそこから導かれる大学への要請を、このようにみるならば、基幹大学における改革のねらいもおのずから絞られてくることになる。それは、以下の5点に要約されるであろう。

  1. 国際的・先端的学術研究の継続的発信
  2. 国際的・先端的学術研究を担う人材の養成
  3. 管理・専門・技術等高度職業人の養成と社会人の再教育
  4. 急増する留学生に対応した教育システムの確立
  5. 企業や市民との研究協力と交流の強化

九州大学もまた、こうした社会の潮流が求める大学への要請に応える方向での改革を模索しなければならない。

2.九州大学の直面する課題と改革の方向

九州大学は、1911年の創設以来、80年余の長い伝統を有し、わが国の有力な基幹大学として、多数の優れた人材を社会に送りだしてきた。また、それぞれの学界をリードする幾多の研究業績を世に問い続けてきた。とくに、多数の学部をもった総合大学としての特色は、学部間の交流を通じて、総合的な素養を身につけた学生の育成、学際的研究の機会の提供等教育研究の面で著しく有利な条件となっている。また、韓国・中国等アジア諸国に近接して立地していることは、人材や研究の面で太い交流の歴史を有し、現在も活発な交流が行われている。

こうした蓄積のうえに立ち、また、恵まれたポテンシャルを生かして、今後一層有為な人材を養成し、秀でた研究成果を学界に提起し続けていくとともに、21世紀の社会の潮流が求める大学像を実現していくためには、なお克服しなければならない課題を直視し、その解決につとめることが求められる。それらの多くは、九州大学特有のものではなく、わが国の大学がほぼ共通にもっている課題であるが、新しい基幹大学の構築を求められている九州大学としては、全国にさきがけて解決に取り組まなければならない。以下、幾つかの重要な課題を指摘してみたい。

第一は、長い伝統をもった学部・学科・講座が存在し、教官や院生がそこに所属する形をとっており、伝統を引き継ぎつつ優れた研究業績をあげてきたものの、ともすれば組織の維持・拡大の論理が先行し、組織の硬直性をもたらしていることである。このため、時代の潮流に対応した国際的・先端的・総合的研究教育の要請に対して、学部・学科・講座を越えた大胆な協力、さらには既存の学部・学科・講座の大幅な再編を含むリストラクチャリングができにくい等の障害をもたらしている。

さらに、こうした組織の細分化・固定化と密接にかかわって、教官等研究者の流動性の低さ、マンネリズムからくる刺激のなさ、競争原理が有効に働かない等、研究の継続的発展からみればマイナスとなるような「甘えの構造」の存在も否定できない。

こうした教育研究組織の細分化・個別化とその固定性・硬直性、研究者流動の停滞性等は、優れた学術研究成果を継続的に発信し、かつそれを担う優れた人材を養成するセンター・オブ・エクセレンスの構築をめざす九州大学にとっては、是非とも解決されなければならない課題である。

第二は、国際的・先端的学術研究を担う次代の研究者の養成、高度知識・情報社会に対応した高度な専門職業人の養成といった大学の役割からみれば、現在の大学院の教育体制が著しく不十分である点である。これは、もともと九州大学が学部中心に教育を行ってきたことと深くかかわっており、時代の要請に積極的に対応するには、大学院中心の教育に転換しなければならないところにきていると思われる。

文系における修士課程への低進学率が続くとともに、修士課程への高い進学率を誇っている理系においても博士(後期)課程への進学率が低迷している。さらに近年急速な改善がみられるものの、課程博士授与率もまだまだ低い水準にある。こうした状況は、ますます増大する大学院教育への社会のニーズからみれば九州大学がふさわしい対応をしていないことを物語っている。実験・実習・ゼミナール等少人数教育にふさわしい器具・設備や部屋が整備されていないこと、研究費が十分に確保されないこと、大学院生の安定した収入や生活条件が確保されないこと等、なお解決されなければならない課題が山積している。同世代の若者にとって、文系では学部卒業時点で、理系では修士修了時点で、それぞれ修士や博士課程への進学が必ずしも魅力のある選択の対象となっていないことは十分に考慮されなければならない。さらに、近年急増している留学生に対する大学院教育も必ずしも系統的でなく、生活その他への配慮に多くの課題を残している。

第三に、学士課程教育にかかわるいくつかの課題の存在である。九州大学では教養部の廃止による学部教育の大幅な再編が進行している。教養教育がカリキュラムにおいても担当教官の面でも専門教育と機械的に切り離されていた状況を大幅に改善し、全学共通教育と専門教育を有機的に結合した4年(医学部と歯学部は6年)一貫教育体制が緒についたばかりである。

しかし、学部教育の課題はこうした改革によって抜本的に改善されるわけではない。長い偏差値教育を経て入学した学生が、思考方法の異なる大学教育に不適応を示したり、学習意欲をもてずにキャンパスから離脱する現象が確実に増加しており、高い留年率が続いている。こうしたことは、偏差値教育と厳しい受験競争の後遺症とみることもできるが、九州大学の入試のあり方や教育カリキュラム、教育内容とかなりの程度かかわっていることも否定できない。

とくに、それぞれの学科が優れた学生を早くから獲得したいというねらいのもとで、入学試験時点で学科別に定員を確保するやり方が定着している。これは、高校卒業時点で自己の希望や適性が十分に確立していない学生に、専門の早期の選択を迫るものである。入学後の学部・学科変更が困難という状況も加わって、大学への不適応と学習意欲低下をもたらす一つの要因となっていると思われる。

また、学問の細分化や高度化が教育カリキュラムの講義内容にストレートにもちこまれ、総合的・基礎的知識が身につかないまま未消化に履修される傾向が強まっている。これも学生の学習意欲の低下とレベルの低下の一因となっていることは否定できない。

第四に、大学を支えている社会との連携の不十分さである。高等教育による人材の育成、高度ではあるが間接的な影響をもたらす研究成果の発表等、大学は社会と密接にかかわってきたが、こうしたこととは別に、大学は社会との直接的なかかわりを求められている。

医学の面では診療という形で市民と深くかかわり、科学技術の面では産学協力が多分野で進められてきた。また、文化の面でも自治体や市民と多様なかかわり方をしてきた。しかし、今後一層強まるものとみられる社会のニーズからみれば依然十分とは言えない。加えて、急増しつつある社会人の大学院再入学に対しては、量的にも質的にも積極的な対応が迫られている。

また、教育研究における国際的連携については、いくつかの積極的な試みがなされているものの、まだ緒についたばかりであり、今後の国際化の進展がもたらす多様なニーズからみれば、ハード・ソフト両面でなお十分ではなく、その充実は緊急の課題となっている。