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2022年度 春季学位記授与式(大学院) 総長告辞

総長式辞・挨拶等

2022年度(令和4年度)春季大学院学位記授与式 総長告辞

本日、九州大学の修士、専門職、博士課程の学位を授与された皆さん、おめでとうございます。修士課程1,778名、専門職学位課程113名、博士課程351名の計2,242名にそれぞれの学位が授与されました。またこの間、皆さんの学びと生活を支え、励ましてこられたご家族、友人、関係者の方々にも九州大学の教職員一同、心からお祝い申し上げます。 

皆さんの大学院での学び、研究は充実していましたか。皆さんは学問への探究に魅せられ、また自身の成長のために、自分の人生のなかで「学び」に集中し、深める期間である大学院での学び、研究を選択されました。その研究生活の中で学問を深め、新しい思考を導き出し、論文に仕上げられました。「知」と深くかかわり、向き合う歳月を経て、本日を迎えられたことと思います。今、どんな気持ちで学位記を手にしておられますか。大学院は、高等教育の中でも知識集約型社会における知の生産、価値創造を先導する高度な人材を育成する役割を、中心的に担うことが期待されています。九州大学は1911年に創立され、創立当初より大学院が設置され、今日まで112年間、研究と教育の歴史を紡いできました。この歴史は、創立当初から大学で学んだ一人一人の研究と学びで紡がれています。皆さんの歩みも、今日ここに九州大学の歴史に刻まれます。

2019年末に始まったCOVID-19パンデミックは皆さんの大学院生活をも直撃しました。特に修士課程の皆さんはその真っただ中での入学でした。ようやくCOVID-19が感染症の第5類に分類され、季節性インフルエンザと同じような扱いとなり、感染防止対策の様々な制限が解除されようとしています。本日学位を取得された皆さんの大学院生活は、パンデミック以前の大学院生とは異なった、勉学の環境が十分でない3年余りだったことを大学としても申し訳なく感じていますが、この間、パンデミック以前のノーマルの中で学生生活を過ごした学生たちとは、違う成長をされたとも言えます。様々な制約に負けず本日、学位を取得されたことに深く敬意を表します。九州大学の学位を持っていることを誇りに思って下さい。九州大学で学び培った学問とその専門性、そしてそれを活かす能力は、これからの皆さんのかけがえのない財産になり、人生を切り拓く鍵となります。今後、新しい社会環境、生活環境の中で始める次の活躍の場で、自分が学んだことを確実に活かし、社会に役立ててください。
昨年2月24日に始まったロシアのウクライナ侵攻は世界を一変させてしまい、未だ終わる気配がありません。そしてこの暴挙はウクライナの人々の惨状やエネルギーや食糧の価格の高騰を引き起こし世界中の人々が大きな影響を受けています。さらにトルコ、シリアの大地震、気候変動による地球規模の洪水や干ばつ、世界各地で続く紛争など、私たちは大きな問題に直面しています。米国の科学会報「Bulletin of the Atomic Scientists」は終末時計が2020年から10秒進んで現在、人類最後の日の90秒前です。」と発表しました。人類滅亡に対する脅威は前例のないものであると述べています。終末時計は1947年にシカゴ大学の科学者たちによって創設されました。創設したのは、原爆計画に参加したことに責任を感じた科学者たちです。今日、九州大学で学びを終えた皆さんは、自身の研究を真理の追求と社会の変革に活かす科学者の仲間入りをされました。国際社会の一員として、社会を新しい良い方向へ導く力になってほしいと思っています。

九州大学は2021年に、「指定国立大学法人」の指定を受け、その構想を基に、今後10年間の大学の方向性、方針を示す「Kyushu University VISION 2030」を策定しました。ビジョン元年の昨年4月には、理想的な未来社会をデザインし、そこからバックキャストして、その理想的な未来社会にどのようにして到達するか、そのプロセスを考える新しい組織「未来社会デザイン統括本部」をつくり、またDXの推進によって、データ駆動型の教育、研究、医療を展開する「データ駆動イノベーション推進本部」を立ち上げました。この二つの本部による活動で総合的に生み出された研究成果を「オープンイノベーションプラットフォーム」で社会実装につなげていくという戦略的なイノベーション推進構想で、本学が目指す姿「総合知で社会変革を牽引する大学」の実現に向けた活動が動き出しています。現代の様々な社会的問題は多様化・複雑化しており、単一の研究分野領域のみでは解決することが困難なことが多くなってきています。 そのような問題を、多様な知の集合体である大学の力を結集し、つまり自然科学系や人文社会科学系、さらにはデザイン系分野の知を複合、融合させ、問題解決に必要な「総合知」をあみだし、解決に導きたいと考えています。
この「Kyushu University VISION 2030」は、10年先を見据えて九州大学がどう成長したいかを描いたものですが、皆さんも自分自身の10年後、あるいは20年後の姿を思い描き、明確な目標を定めて「自分自身を作る」新たな世界へのスタートを切ってください。
九州大学は皆さんとのつながりを大事にします。改めて学び直したいと思った時、新たな目標に挑戦したいと考えた時には、ぜひ九州大学に戻ってきてください。再び一緒に学びを進めましょう。

九州大学が誇りに思い、またかけがえのない存在である卒業生の中村哲先生は、現代の、科学技術により高度に進歩した社会、国境を越えて発展する経済、効率と利便性が追求された日々の生活などを「欲望の自由」、「科学技術への信仰」と危惧しておられました。「人も自然の一部である。それは人間内部にもあって、生命の営みを律する厳然たる摂理であり、恵みである。科学や経済、医学や農業、あらゆる人の営みが、自然と人、人と人の和解を探る以外、我々が生き延びる道はないであろう。それがまっとうな文明と信じている。」という言葉を2013年に書かれた著書「天、共にあり」に残しておられます。

今日から、皆さんは、大学院で学んだことを生かして、社会に役立つ人になろうと大きな希望を持っておられることと思います。現在の不確定な世の中に人生の新しい一歩を踏み出すことを、「こんな時代に」と思うのではなく、「こんな時代を経験した」ということを一つの力にして、地球社会の一員であるという意識を大切に、新しいそれぞれの活躍の場への一歩を踏み出してください。
皆さんの希望ある未来を信じ、健闘を祈ります。本日はおめでとうございます。

 

2023年3月20日
九州大学 総長
石橋 達朗